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仕組まれた茶会
しおりを挟むそれは、第三妃クラリッサが主催した“親睦の茶会”という名の罠だった。
会場は、王宮の西棟にある陽光あふれるバルコニー付きの応接間。
白いレースのクロスに金の縁取りの茶器、上等な果物の盛り合わせ。
一見すれば、平和で和やかなひとときに見える。
「今日は本当にお忙しい中、皆様お集まりいただいて……第八妃殿下も、ようやくお時間が合いましたのね」
クラリッサの声は、丁寧なようでいてどこか冷たい。
すぐ横に座る第六妃のイルマが、さも無邪気に口を挟む。
「でも、チェチーリア様ってお強いわ。街中を歩き回って泥を踏んでも、涼しい顔なんですもの」
「あら、それにしても献金騒ぎのこと、まだ忘れられないわよね。あれって、誰が仕掛けたのかしら」
「まあまあ、それより今日は楽しみましょう。……ところで、このお菓子、妃殿下のお国で流行していると聞いてるわ」
だがチェチーリアが見てすぐに気づいた。――それは彼女の実家、アルストロメリア公爵家の御用達の品ではなかった。
「これは……うちのものではないですわ。似ているけれど、作りが違いますもの」
「まぁ、そうなの? では偽物だったのかしら。お気を悪くなさらないでくださいね、こちらも騙されてしまっただけで――」
その瞬間、イルマがわざとらしく咳き込み、手で口を押さえて崩れるように座った。
「……咳が……っ、ちょっと苦しい……」
「イルマ!? 誰か、水を!」
場がざわつく中、クラリッサがさも慌てたふりをして立ち上がる。
「まさか……毒?」
その言葉に周囲が凍りついた。
使用人が慌てて駆けつけ、イルマを抱えて部屋を出ていく。
その場に残されたのは、凍りついた空気と、テーブルに残された“チェチーリアの国の菓子”――という演出。
視線が、自然とチェチーリアに集まる。
「……私ではありません。私が持ち込んだものではないと、最初に申し上げました」
チェチーリアは冷静に立ち上がり、落ち着いた声で言った。
だがその声音の奥に、かすかな怒りと悲しみがにじんでいた。
「皆様、誤解のないよう。私は、争うためにここにいるのではありません。ですが――」
そこで言葉を切り、周囲を見渡した。
「こうした“偶然”が続くようであれば、それに対する対応も考えなければなりません」
その毅然とした態度に、一瞬、妃たちの目が揺れた。
だが、事件は“未遂”であり、証拠も曖昧なまま。
表向きは体調不良ということで処理され、チェチーリアに疑いが向いたまま、茶会は解散となった。
***
その報告を受けたフリードリヒは、夜の書斎で窓の外を見つめながらひとこと漏らした。
「茶会に毒……? くだらん茶番だ」
侍従が控えめに口を挟む。
「第八妃殿下は、一貫して潔白を主張しております」
「当たり前だ。あの女がそんな稚拙な手を使うとは思わん」
だがフリードリヒは、そのまま報告書を机に叩きつけた。
「……他の妃どもが、じきに牙をむくとわかっていて、なぜ彼女は手を引かない?」
その答えは、まだ誰の手にもない。
だが彼の中に、確かな違和感が残っていた。
あの“第八妃”だけが、何かを変えようとしている。
それが何か――まだわからない。
だが、確かに目を逸らせない何かだった。
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