公爵令嬢の出来る事【完】

mako

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久々の再開

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春霞の中、帝都郊外の離宮に到着したアルストロメリア公爵家の馬車から、チェチーリアの父・ヴィルヘルムと共に降り立ったのは――彼女の兄、アレクセイだった。

「……兄様」

「……無事だったか」

それだけ言うと、アレクセイはチェチーリアの腹部に視線を落とした。
冷たい眼差し――かと思えば、その指がごく自然な仕草で妹の肩にそっと触れる。

「その様子では、意地だけで立っているわけでもなさそうだな」

「……ご心配をおかけしました」

チェチーリアは、何よりこの兄に認められたくて、帝国でのすべてを報告書のように送り続けていた。
感情のない返礼、淡々とした返信――それがずっと、彼女の糧だった。

夕刻。晩餐の場で、フリードリヒが席を外すと、アレクセイは一瞬だけその表情を緩めた。

「……母上が泣いていた。チェチーリアの文を読むたびにな」

「泣くようなことは、しておりませんのに」

「そうだ。だが、あの方は“泣くに足る娘に育てた”と思っている。誇りだと」

チェチーリアの唇が震えた。

そして食後、アレクセイはフリードリヒに静かに歩み寄り、言う。

「陛下。あなたがどれほど優れた統治者であろうとも、私にとっての“陛下”は、妹の瞳に映る姿で決まる」

「……ほう」

「チェチーリアの信じる“皇帝”である限り、私はあなたを敵にはしません」

フリードリヒの視線が、少しだけ和らいだ。

「なるほど。妹を盾に睨みをきかせる兄か」

「盾ではなく“芯”です。あれが我が家の誇りですので」

一瞬、二人の間に張りつめた空気が走るが、やがてどちらからともなく、わずかな笑みが交わされた。

別れの朝。馬車に乗り込む前に、アレクセイは妹の前で立ち止まり、言った。

「帝国は、冷たい国だ。だが冷たさに鍛えられた剣は、鈍らない」

「……兄様?」

「迷ったら、私に言え。父には話せないことでもな。今なら少しは、お前の“言葉”が読めるようになった」

「それは……光栄ですわ」

「それと――子が生まれたら、真っ先に俺の名を付けるなよ」

「つけませんわ!」

アレクセイの口元が微かに緩む。
妹を守るその背は、父とはまた違う、“戦士”の誇りを背負っていた。

フリードリヒが遠くからそれを見ていた。
チェチーリアの強さの根源に、あの家族があるのだと――あらためて理解するのだった。
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