貴方に嫌われたくなくて【完】

mako

文字の大きさ
23 / 47

想定外

しおりを挟む
心配気な視線の中央にはリディアンネが微笑んでいる。チームリディアンネは主の表情を逃さぬ様に見守っている。


『そんな心配しなくても私は大丈夫よ。』


リディアンネは小さく微笑むとルイザから順に視線を流していく。最後のサラは既に泣きそうだ。



『今だから言うけどアルフォンス様の素行は前々から知っていたわ。私たちは政略結婚では無いけれど、真実の愛でもないの。私はたまたま推しと結婚した。推しを隠れて見ていたのが一緒に生活できるようになったのよ?それだけでラッキーだわ。』


…。




『で?貴女たちはいつから知ってたの?ってかルイザ。今日の令嬢は?上級貴族ではない感じだけど?』



ルイザはリディアンネからの問に頷くと


『はい、仰る通り男爵令嬢でした。』


『でした?』


…。



言葉を濁すルイザに変わり頭脳派のサーシャが答える。


『要は没落貴族ということです。』





リディアンネは大きな瞳を更に大きく見開くと


『えっと、では今は平民ってこと?』


『はい。』


…困ったわね。

リディアンネは眉間にシワを刻み頭を抱えた。




リディアンネの危惧していた事はその後間もなくして帝国中のニュースとして駆け巡った。


【アルフォンス・ワイオット平民との真実の愛】


アルフォンスの記事に社交界も飛びつき、前にも増して夜会が繰り広げられ、もっぱらアルフォンスとその娘では無くリディアンネの噂が飛び交っていた。止まらぬ噂に遂に2人は皇帝からの召喚状を手にする事になったのである。



アルフォンスは記事が出てから、大公家には戻っては居ない。リディアンネは尾びれ背びれついた噂の中、1人で宮へ上がった。


リディアンネが案内に従い長い廊下を行くと、それを横に控え頭を垂れる衛兵ら。


その様子を何故か他人事のように思えるリディアンネは皇帝の待つ部屋まで来ると背筋を伸ばし、もはや大公家の嫁ではなくサエラ王国王女の風格を身に纏い中に入っていった。


リディアンネが美しく膝を折ると


『よい。』


短く答える皇帝を真っ直ぐに見た。

皇帝の横に座る皇后は氷の微笑を浮かべる。

サイドには皇太子のユリウスが眉間にシワを寄せて先に到着していたアルフォンスと元男爵令嬢を見ていた。


『アルフォンス、どういう事だ?』


身内だけだからか少し砕けた雰囲気で皇帝はアルフォンスに問うた。


『申し訳ありません。』

俯いたままのアルフォンスに

『記事を肯定するのだな?』


黙って頷くアルフォンスに皇帝は小さく息を吐き


『で?どうするつもりなのだ?』


『清算します。』


…。


リディアンネの心の声を知ってか知らずか皇后は

『どちらを清算するつもり?』


リディアンネは心の中で激しく同意。

しばらくの沈黙に業を煮やしたのは元男爵令嬢。

『私はお腹の中にアルフォンス様のお子がおります!』


大袈裟にお腹を擦る元男爵令嬢。

響き渡る元令嬢の声に続く声は聞こえない。



『よろしいですか?』


沈黙を破ったのはリディアンネであった。
皇帝は2回頷くと


『話してみよ』


リディアンネは小さく頭を下げ

『アルフォンス様。そちらのお方を側妃として迎えるおつもりですの?』


『…』


アルフォンスはチラリと元令嬢を見るもすぐにリディアンネに視線を移し


『リディアンネ…』



…名を呼ぶだけではわからないわ!



リディアンネは仕方なく


『アルフォンス様?初恋は初恋のままの方が美しいというものですね?お互いに…。私も貴方をストーカーしていた頃が一番幸せでしたわ。』


アルフォンスは悲しそうにリディアンネを見つめるも隣の元令嬢は怪訝そうな表情でリディアンネを見る。


『リディアンネすまなかったね。君の初恋とやらは私では無いんだ。だけれど君を娶る事が出来て嬉しかったのは本当だ。』




…んなアホな!この期に及んで何を言い出すかと思えば


驚いたリディアンネよりも更に驚いているのが皇太子であるユリウスであった。



『ユリウス、私が気づいていないとでも?リディアンネが言う初恋の場に私は居なかったからね?私がリディアンネと初めて会ったのはもっと後になってからだから。』


…。


…そんなはずは無い。


リディアンネは首を捻る。


『君は天使と出会った事で、皇太子教育にも熱を入れどんどんと大きくなっていったよね?だから私もその天使に会えばユリウスに負けない位になるだろうって子どもながら考えていたよ。』


…。


『皇帝を父に持つユリウスと大公を父に持つ私。同じ血が通うのに、どれだけ待遇に差があった?だからサエラ王国王女の帝国入りした時に真っ先に確認したよ。3人の王女。すぐにユリウスの天使はわかったよ。これでも兄弟みたいに育てられてたからね?』


ユリウスは悲しそうに黙って聞いている。

『ユリウスは何でも自由に手に入れる事が出来るだろ?ただ唯一皇太子妃だけは違う。あの選定にリディアンネが残らないと知り、私はかつて抱いていた思いがぶり返してくるのを感じたよ。』



『アルフォンス。あの交流会の後、サエラ王国に向えと言ったのは誰だ?』


ユリウスは静かに問うた。



『そうゆう所だよ。私がリディアンネに想いを寄せているのを知ってからだろ?麗しい友情か?そんな上から偉そうに言われなくともリディアンネは私を求めてたんだ。』



…えっと人違いだったのよね?


リディアンネは理由もわからず静観していると流石に隣の元令嬢はもっと訳が分からない様でイライラしているのが見て分かった。


ユリウスは冷めた表情でアルフォンスを見つめた。その視線に打ち勝つ様に


『そうゆう所だよ!いつもそうだった。何でも出来るユリウス君は僕を見下していたよ!』


自暴自棄になるアルフォンスにリディアンネは遂に


『だって現に偉いじゃない?上からでなければどの立場で物を言うの?身分とはそういう物だわ。』


素のままのリディアンネにアルフォンスは固まるも隣の元令嬢はリディアンネの物言いに安堵したのか自分まで素のままで語りだした。


『今は、そんな事よりも私のお腹の中にいる赤ちゃんをどうするかだわ?』



…どうするって貴女。

リディアンネは不思議そうに元令嬢を見つめた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...