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穏やかな日常
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南帝国皇宮では、未だかつてない程穏やかな日常が流れていた。
『皇后、調子はどうだ?』
エマニュエルはガゼボで皇后とお茶を楽しみながら皇后を案じていた。
『殿下、毎日毎日気にして頂かなくても私は見ての通り元気ですわよ』
小さくクスクスと笑う皇后を目を細めて見つめているエマニュエル。
思い出せない事を無理に思い出す事などせずとも、これから始めてゆけば良い。エマニュエルは甚だ自分勝手と知りながらそんな事を思っていた。
『殿下』
皇后の透き通るような声にエマニュエルは首を傾げる。
『うん?』
『その、私は殿下の妻ですよね?』
エマニュエルは皇后の記憶が戻ってしまったかのような不安を覚えた。何故なら皇后の記憶が戻れば皇后は以前の仕打ちを思い出してしまう。
『そ、そうだが?』
皇后は少しはにかみながら
『その、私はどのような妻でしたでしょうか?きちんと役割を熟せておりましたのですか?このように過保護にされていては皇后の務めを果たせて居なかったのでは?』
真っ直ぐ向けられる視線をエマニュエルは直視できないまま
『あぁ、きちんと熟していたよ。今もそうであろう?こうして私との時間を共に過ごしているではないか?』
『そういう事をではなく、執務などはよろしいの?』
…どこまで真面目なのだ?
『ここではそのような心配は無い。案ずるな。』
皇后は少し考え、顔を赤らめながら
『あの、後継者はよろしいの?』
皇后は毎晩離宮に渡るようになったエマニュエルと子づくりをしていない事にも言及してきた。エマニュエルの心臓の音は早くなる。
もちろん皇后の体調は問題ない。ただ夜伽を行えばあのおぞましい記憶が戻るのではないかと不安があるのが本心である。
『…まあ、いずれはね?』
言葉を濁すエマニュエルに皇后は少し寂しそうに
『側妃がおられますのね?』
『いや、そうではない。私の妻は君にだけだからね。そうではないのだ。』
あまりにも必死になるエマニュエルに皇后は優しい笑みを送った。
こんなひとときにエマニュエルはかつてない幸福感に包まれていたがそんな日常は長くは続かなかった。
それはある日突然いきなりやってきた。
公爵家で開催されている夜会に顔を出すべくエマニュエルは皇后を連れて公爵邸を訪れていた。最近のエマニュエルはどこへ行くのも皇后を連れていたので皇后も社交界でその名を轟かせていた。流石は元王女という威厳を醸し出す気品ある立ち居振る舞いに皆見惚れている。
そんな中、恋愛小説のあるある。婚約破棄騒動が公爵家主催の夜会で繰り広げられていた。
公爵令息と侯爵令嬢との間に割って入ってきたのが子爵令嬢という構図であり、婚約破棄をされた侯爵令嬢はこれまたあるある、幸の薄そうな令嬢であるのに対し子爵令嬢は派手なドレスに身を包み高笑いをしている。
エマニュエルはくだらぬ騒動に辟易としていると公爵が飛んできて弁明をしている。皇后は悲しそうに控室に戻ろうとして会場を出るとその廊下で、婚約破棄された令嬢を叱りつける侯爵の姿があった。皇后は思わず声を掛けようとした時に侯爵は娘である令嬢に平手打ちをし令嬢はその場に倒れ込んだ。
!酷いわ!
皇后の足を止めたのはその後に吐き出された侯爵の言葉であった。
『お前は本当、役立たずだ!子爵令嬢如きにその座を奪われ何とも思わんか!侯爵家の恥さらしが!何が侯爵令嬢だ!名ばかりとはこの事だな!お前はさっさと荷物を纏めて出ていけ!これ以上我が家の足を引っ張る事は許さん!』
地べたで震える令嬢に暴言を吐き去っていく侯爵の背中を皇后もまた震えて見つめていた。
…手を差し伸べなければ
皇后は侯爵令嬢に手を差し伸べなければならないと思いながら前進の震えが止まらない。そこへ側近の1人が駆け寄ると
『令嬢をお願い…』
これだけ言うと皇后は控室へ飛び込んだ。
…役立たず
…名ばかり
…犠牲
…皇后のつとめ
…脱げ
…脚を開け
…。
鮮明に蘇る記憶に皇后は震えながは涙を流した。
『皇后、調子はどうだ?』
エマニュエルはガゼボで皇后とお茶を楽しみながら皇后を案じていた。
『殿下、毎日毎日気にして頂かなくても私は見ての通り元気ですわよ』
小さくクスクスと笑う皇后を目を細めて見つめているエマニュエル。
思い出せない事を無理に思い出す事などせずとも、これから始めてゆけば良い。エマニュエルは甚だ自分勝手と知りながらそんな事を思っていた。
『殿下』
皇后の透き通るような声にエマニュエルは首を傾げる。
『うん?』
『その、私は殿下の妻ですよね?』
エマニュエルは皇后の記憶が戻ってしまったかのような不安を覚えた。何故なら皇后の記憶が戻れば皇后は以前の仕打ちを思い出してしまう。
『そ、そうだが?』
皇后は少しはにかみながら
『その、私はどのような妻でしたでしょうか?きちんと役割を熟せておりましたのですか?このように過保護にされていては皇后の務めを果たせて居なかったのでは?』
真っ直ぐ向けられる視線をエマニュエルは直視できないまま
『あぁ、きちんと熟していたよ。今もそうであろう?こうして私との時間を共に過ごしているではないか?』
『そういう事をではなく、執務などはよろしいの?』
…どこまで真面目なのだ?
『ここではそのような心配は無い。案ずるな。』
皇后は少し考え、顔を赤らめながら
『あの、後継者はよろしいの?』
皇后は毎晩離宮に渡るようになったエマニュエルと子づくりをしていない事にも言及してきた。エマニュエルの心臓の音は早くなる。
もちろん皇后の体調は問題ない。ただ夜伽を行えばあのおぞましい記憶が戻るのではないかと不安があるのが本心である。
『…まあ、いずれはね?』
言葉を濁すエマニュエルに皇后は少し寂しそうに
『側妃がおられますのね?』
『いや、そうではない。私の妻は君にだけだからね。そうではないのだ。』
あまりにも必死になるエマニュエルに皇后は優しい笑みを送った。
こんなひとときにエマニュエルはかつてない幸福感に包まれていたがそんな日常は長くは続かなかった。
それはある日突然いきなりやってきた。
公爵家で開催されている夜会に顔を出すべくエマニュエルは皇后を連れて公爵邸を訪れていた。最近のエマニュエルはどこへ行くのも皇后を連れていたので皇后も社交界でその名を轟かせていた。流石は元王女という威厳を醸し出す気品ある立ち居振る舞いに皆見惚れている。
そんな中、恋愛小説のあるある。婚約破棄騒動が公爵家主催の夜会で繰り広げられていた。
公爵令息と侯爵令嬢との間に割って入ってきたのが子爵令嬢という構図であり、婚約破棄をされた侯爵令嬢はこれまたあるある、幸の薄そうな令嬢であるのに対し子爵令嬢は派手なドレスに身を包み高笑いをしている。
エマニュエルはくだらぬ騒動に辟易としていると公爵が飛んできて弁明をしている。皇后は悲しそうに控室に戻ろうとして会場を出るとその廊下で、婚約破棄された令嬢を叱りつける侯爵の姿があった。皇后は思わず声を掛けようとした時に侯爵は娘である令嬢に平手打ちをし令嬢はその場に倒れ込んだ。
!酷いわ!
皇后の足を止めたのはその後に吐き出された侯爵の言葉であった。
『お前は本当、役立たずだ!子爵令嬢如きにその座を奪われ何とも思わんか!侯爵家の恥さらしが!何が侯爵令嬢だ!名ばかりとはこの事だな!お前はさっさと荷物を纏めて出ていけ!これ以上我が家の足を引っ張る事は許さん!』
地べたで震える令嬢に暴言を吐き去っていく侯爵の背中を皇后もまた震えて見つめていた。
…手を差し伸べなければ
皇后は侯爵令嬢に手を差し伸べなければならないと思いながら前進の震えが止まらない。そこへ側近の1人が駆け寄ると
『令嬢をお願い…』
これだけ言うと皇后は控室へ飛び込んだ。
…役立たず
…名ばかり
…犠牲
…皇后のつとめ
…脱げ
…脚を開け
…。
鮮明に蘇る記憶に皇后は震えながは涙を流した。
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