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王太子からの苦情
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マドリン王国、筆頭公爵家に生まれた私は、エミリア・フォン・ヒルツベルト。
目の前で優雅に足を組み王子様スマイルを少し悲しげに眉を下げる、婚約者である王太子ヨハネスの言葉を待っていた。
殿下はご自分の魅せ方を熟知している。
『エミリア、君の社交界での噂は知っているかい?』
『…。』
押し黙るエミリアにヨハネスは尚も悲しげに
『君が絶世の…』
敢えてそこで区切るヨハネスにエミリアは
『絶世の?』
ヨハネスは小さく息を吐くと
『悪女だというのだ。』
エミリアはガクンと崩れそうになりながらヨハネスを見ると
『私も噂だと思っていたのだが先日の件を目の当たりにしては私とて庇いきれないんだ…』
寂しそうに呟くヨハネスをエミリアは怪訝そうに見つめた。
先日の件、ヨハネスはおとぎ話からそのまま出てきたような白馬に乗った王子様と称される程、完璧に王太子業を熟してはいるが、実は案外腹黒の面がある。もちろん誰だって多かれ少なかれあるのはあるであろうがヨハネスはその多かれの方だとエミリアは知っている。
『先日とは?』
ヨハネスは少し王子様を崩し
『夜会での事だよ…』
面倒くさそうに呟いた。
先日の夜会。
そう、あれは夜会にて起こった王室にとって悲劇でもあろう事件。ヨハネスが関係をもつ令嬢はエミリアが知る限りでも3人は居る。それでも皆令嬢だ。婚約者であるエミリアのいる前、ましては夜会という社交の場に於いては各々立場を弁えている。がしかし、1人だけびっくりする令嬢がいたのだ。それが男爵令嬢であるジュリア・ロビンであった。
あろうことか上位貴族らの集う夜会で何故か男爵令嬢が紛れ込み、他国からの来賓もいる中でヨハネスと並ぶエミリアに声を掛けてきたのだ。
それだけでなく、
『殿下ぁ~探しましたわ!』
何故か語尾に小さい【ぁ】が入る何ともアホ丸だしな物言いでしかも隣のエミリアに向かって指を指し
『あっ、貴女がエミリア様ですねぇ?初めましてですわね。』
そう言うとエミリアの手を握りながら微笑み?いや笑いながらエミリアの髪飾りであるパールに目を留め
『素敵ぃ~』
と言って手で触れようとしたのだ。
もちろんエミリアは、すっとジュリアの手を避け
『ジュリア様、貴女は社交のマナーはまだ習得されておりませんの?』
冷たく言い放つエミリアに向かってジュリアは大きな瞳をウルウルさせながら
『酷いわぁ、私はただ仲良くしたいだけなのに』
と王太子に泣きついたのである。
興ざめするエミリアが会場を見渡すともちろん皆ジュリアを汚物を見るかのような視線を投げつけていた。
エミリアが驚いたのはその後だ。
なんと王太子であるヨハネスだけがジュリアの涙にノックアウトされていたのである。エミリアはひっくり返りそうになりながら何とか鍛えた体幹で持ち堪えたものの
…ここまでアホなの?
ヨハネスを睨みつけた。
その後国王陛下より厳しいお叱りを受けた後のこれだ。八つ当たり?
エミリアは呆れ果てながらヨハネスを見つめた。
『まぁ、あの件で私が悪女と?』
『それだけではない』
被せるヨハネスに
『殿下はそのような噂を信じて?』
『噂が真実か否かが問題ではない。エミリアは王太子妃となるのだ。評判は悪いよりも良い方が良いに決まっている。』
…王子よ。王子様スマイルはどこいった?
エミリアは笑顔を作り上げながら
『左様ですね。私ではつとまらないようですので婚約を破棄していただいても結構ですよ。』
ヨハネスはあからさまに顔を歪め
『何でそうなるの?私はただエミリアを心配しているだけだよ。分かってもらえなくて悲しいよ。』
またも王子様スマイルに悲しげをプラスした表情になるヨハネスは尚も
『じゃあ今日はこのくらいにしようか。平行線になるからね。』
…このくらいって。
エミリアは隣の部屋であの男爵令嬢が待っているのを知っているのだ。ヨハネスがサッサと丸め込んで早めに切り上げたい事を知ってて敢えて
『そう言えば、来月からの留学ですが…』
エミリアが自身の留学の話をだすとこれまたあからさまに
『その件はまたにしよう』
そう言うと王子様自ら部屋の扉を開けて早く帰れと王子様スマイルで訴えている。
…この発情さるが!
エミリアはゆっくりと立ち上がると扉を持つヨハネスをチラリと見てからゆっくりとカーテシーを披露しその場を後にした。
部屋を出るやいなや直ぐに隣の部屋の扉が開く音がする。エミリアが振り返るとそこには慌ててタイを襟から抜きながら入室するヨハネスの姿を捉えた。
バタンと閉められた扉からはハラハラとタイが流れるように廊下に落ちた。
それを見つめるエミリアと部屋の外に控える衛兵が視線を交わす。衛兵は慌ててタイを拾うもエミリアをバツの悪そうに見上げる。エミリアは大きな瞳を爛々とさせ衛兵に向かって鼻の前に人差し指をすっと立てシィーと囁いた。衛兵は一瞬目を見開くもやがて真っ赤になって俯いた。
…可愛いじゃん♡
これがエミリア・ヒルツベルトである。
目の前で優雅に足を組み王子様スマイルを少し悲しげに眉を下げる、婚約者である王太子ヨハネスの言葉を待っていた。
殿下はご自分の魅せ方を熟知している。
『エミリア、君の社交界での噂は知っているかい?』
『…。』
押し黙るエミリアにヨハネスは尚も悲しげに
『君が絶世の…』
敢えてそこで区切るヨハネスにエミリアは
『絶世の?』
ヨハネスは小さく息を吐くと
『悪女だというのだ。』
エミリアはガクンと崩れそうになりながらヨハネスを見ると
『私も噂だと思っていたのだが先日の件を目の当たりにしては私とて庇いきれないんだ…』
寂しそうに呟くヨハネスをエミリアは怪訝そうに見つめた。
先日の件、ヨハネスはおとぎ話からそのまま出てきたような白馬に乗った王子様と称される程、完璧に王太子業を熟してはいるが、実は案外腹黒の面がある。もちろん誰だって多かれ少なかれあるのはあるであろうがヨハネスはその多かれの方だとエミリアは知っている。
『先日とは?』
ヨハネスは少し王子様を崩し
『夜会での事だよ…』
面倒くさそうに呟いた。
先日の夜会。
そう、あれは夜会にて起こった王室にとって悲劇でもあろう事件。ヨハネスが関係をもつ令嬢はエミリアが知る限りでも3人は居る。それでも皆令嬢だ。婚約者であるエミリアのいる前、ましては夜会という社交の場に於いては各々立場を弁えている。がしかし、1人だけびっくりする令嬢がいたのだ。それが男爵令嬢であるジュリア・ロビンであった。
あろうことか上位貴族らの集う夜会で何故か男爵令嬢が紛れ込み、他国からの来賓もいる中でヨハネスと並ぶエミリアに声を掛けてきたのだ。
それだけでなく、
『殿下ぁ~探しましたわ!』
何故か語尾に小さい【ぁ】が入る何ともアホ丸だしな物言いでしかも隣のエミリアに向かって指を指し
『あっ、貴女がエミリア様ですねぇ?初めましてですわね。』
そう言うとエミリアの手を握りながら微笑み?いや笑いながらエミリアの髪飾りであるパールに目を留め
『素敵ぃ~』
と言って手で触れようとしたのだ。
もちろんエミリアは、すっとジュリアの手を避け
『ジュリア様、貴女は社交のマナーはまだ習得されておりませんの?』
冷たく言い放つエミリアに向かってジュリアは大きな瞳をウルウルさせながら
『酷いわぁ、私はただ仲良くしたいだけなのに』
と王太子に泣きついたのである。
興ざめするエミリアが会場を見渡すともちろん皆ジュリアを汚物を見るかのような視線を投げつけていた。
エミリアが驚いたのはその後だ。
なんと王太子であるヨハネスだけがジュリアの涙にノックアウトされていたのである。エミリアはひっくり返りそうになりながら何とか鍛えた体幹で持ち堪えたものの
…ここまでアホなの?
ヨハネスを睨みつけた。
その後国王陛下より厳しいお叱りを受けた後のこれだ。八つ当たり?
エミリアは呆れ果てながらヨハネスを見つめた。
『まぁ、あの件で私が悪女と?』
『それだけではない』
被せるヨハネスに
『殿下はそのような噂を信じて?』
『噂が真実か否かが問題ではない。エミリアは王太子妃となるのだ。評判は悪いよりも良い方が良いに決まっている。』
…王子よ。王子様スマイルはどこいった?
エミリアは笑顔を作り上げながら
『左様ですね。私ではつとまらないようですので婚約を破棄していただいても結構ですよ。』
ヨハネスはあからさまに顔を歪め
『何でそうなるの?私はただエミリアを心配しているだけだよ。分かってもらえなくて悲しいよ。』
またも王子様スマイルに悲しげをプラスした表情になるヨハネスは尚も
『じゃあ今日はこのくらいにしようか。平行線になるからね。』
…このくらいって。
エミリアは隣の部屋であの男爵令嬢が待っているのを知っているのだ。ヨハネスがサッサと丸め込んで早めに切り上げたい事を知ってて敢えて
『そう言えば、来月からの留学ですが…』
エミリアが自身の留学の話をだすとこれまたあからさまに
『その件はまたにしよう』
そう言うと王子様自ら部屋の扉を開けて早く帰れと王子様スマイルで訴えている。
…この発情さるが!
エミリアはゆっくりと立ち上がると扉を持つヨハネスをチラリと見てからゆっくりとカーテシーを披露しその場を後にした。
部屋を出るやいなや直ぐに隣の部屋の扉が開く音がする。エミリアが振り返るとそこには慌ててタイを襟から抜きながら入室するヨハネスの姿を捉えた。
バタンと閉められた扉からはハラハラとタイが流れるように廊下に落ちた。
それを見つめるエミリアと部屋の外に控える衛兵が視線を交わす。衛兵は慌ててタイを拾うもエミリアをバツの悪そうに見上げる。エミリアは大きな瞳を爛々とさせ衛兵に向かって鼻の前に人差し指をすっと立てシィーと囁いた。衛兵は一瞬目を見開くもやがて真っ赤になって俯いた。
…可愛いじゃん♡
これがエミリア・ヒルツベルトである。
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