たまたま王太子妃になっただけ【完】

mako

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フランツ帝国

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フランツ帝国では妃を2人も娶ったものの、正妃も側妃もともに離宮を与えられ日々退屈な時間を過ごしていた。

最もイザベラはその時間を有意義に思い切り贅沢を楽しんでいた。一方のステファニーは執務はまだかまだかと待つものの一向に動きもなくイライラしていたのである。


離宮から出る門にはしっかりと門番が配置され皇宮へ行くこともできない。


…これでは監禁だわ。


ステファニーは女官に政を説くも誰もがポカンとしている。女官たちにとってもはそれは責務ではない。目の前のステファニーの世話こそが責務である。


そうしているうちに女官たちからの評判もイザベラに比べ悪評が立ちだした。イザベラは正妃らしく?女官をゾロゾロと連れて庭園を散策している。気がつくとステファニーはフランツ帝国で孤立していたのである。


郷に入れば郷に従え。よく言ったものである。


そんなある日のこと、イザベラとステファニーは皇宮に初めて足を踏み入れた。それはステファニーにとって屈辱的であった。なぜならイザベラは正妃の椅子に腰を下ろし、その下段に側妃の椅子が用意されている。


…な、なんて事。


ステファニーは案内する侍従を睨みつけ席に付いた。


イザベラは肩肘を張らず素のままという具合で正妃の椅子の座り心地を確かめながら笑顔で微笑んでいる。


…なんて品の無い事。


正妃の椅子を恨めしそうに眺めていると、ゆっくりと大きな扉が両開きに開かれ、皇太子であるフィリップが入ってきた。


『久方ぶりだな。変わりないか?』 

イザベラは笑顔で

『お陰さまで毎日不自由なく過ごさせて頂いております。』


フィリップは表情そのままに頷いた。視線はステファニーに流れる。ステファニーも引き攣りながらも

『変わりなく過ごさせて頂いておりますわ。』 

フィリップはステファニーの敢えて出さなかった笑顔を気に留めず、話しだした。



『大陸での混乱も目処が付きそうだ。王国なども吸収され我が国とアナリス大王国そしてジュリラン、この3国が今も勢力を伸ばしておる。』


『…。』


『…。』



『我が国はこの2つの国を吸収し大陸を統一する。』

『…』


『素晴らしいわ』


イザベラは無言を貫くがステファニーは喜び立ち上がるとすぐに衛兵が制止に入る。


『無礼者!』


声を上げるステファニー。フィリップは衛兵に無言で頷くと衛兵は後ろに下がった。




しばらくの静寂の後フィリップは静かに言った。

『恐らくアナリス大王国は帝国を食いに来る。』



『!なんて事かしら!』

ステファニーはイザベラを牽制するように大袈裟に驚いてみせた。

『妹君がお世話になっております帝国に反旗を翻すなんて言語道断!思い知らせるべきですわ!あのなんちゃって王子!』 

 
ステファニーの言動を見ることもせずフィリップはイザベラの様子を伺っている。


『…』


『イザベラ、どう思う?』


イザベラは少し考え静かに語りだした。


『どのような経緯があろうと私は今、フランツ帝国の正妃でございます。フランツ帝国の勝利を信じております。』


凝視するフィリップの視線をもろともせずフィリップを見つめている。どのくらいであろうかどちらともなく目を逸らした。


『ご自分の祖国が攻め入ると知り、まだそのような事を仰るのですか?』


ステファニーはイザベラを攻め立てるもフィリップは

『ラインハルトにはその力が無いだけであろう?チャンスあれば統率者ならば誰もが狙う、この首をな。』


自分の首を擦りながら話した。


『ジュリランはそのような国では!』


『ならば何故属国となっておらんのだ?』


『…。』 


言葉に詰まるステファニーを一蹴すると再度イザベラに視線を移す。


『して、イザベラ。フランツ帝国正妃として問う。我が国の勝算は如何ほどと読む?』


イザベラは唇を噛みしめ


『正直…希望的観測を含め五分かと。』


『はあ?何を思い上がっているの?』

フィリップはステファニーを眼力で黙らせるとイザベラに頷き

『よう言うた。その根拠は。』


『アレクセイ殿下は既に万を超える兵力を幾つもお持ちです。それは騎士団だけでなく属国となった騎士団とその民も含めて。また資源豊かな王国を幾つも保持しておりますので財力も兼ね備えております。』


頷き聞き入るフィリップ。
驚き目を見開くステファニー。


『フランツ帝国の勝利は私が正妃になった時に無くなったと確信しました。』


『どうゆうこと!』


金切声を上げ出したステファニーをチラリと見てフィリップに視線を送る。フィリップは頷くとイザベラは尚も話を続けた。


『私の勝手な想像ですが、アレクセイ殿下の弱点は…恐らくオリヴィア王太子妃殿下だと思います。私ではなくオリヴィア様がフランツ帝国の正妃となっていればアナリスは帝国に攻め入る事無かったかと思います。』


『貴女の勝手な想像は聞いてないわ!事実を述べなさい!』


フィリップはため息を1つも落として


『イザベラ、同感だ。』


…?ステファニーは我を忘れてフィリップ皇太子殿下を睨みつけた。


『恐れながら殿下。』


イザベラの声に2人は視線を向ける。


『まもなくアナリス大王国の兵が攻め入るかと』





『何?』


『風の香りです。ここ最近の季節風で黄砂がこちらにも舞って参りますがその中の微粒子の色が通常よりも濃い。そして香りも異なります。これはアナリス大王国の兵器の香りに似ております。』  
 

『幾層もの砦を破ったというのか?』



イザベラは真顔で頷いた。


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