たまたま王太子妃になっただけ【完】

mako

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渦巻く野望

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オリヴィアは生まれながら王族である。誰かを陥れたり蹴落とす必要の無い環境に居たのだ。


目の前で繰り広げられる優雅な一幕。にこやかに微笑み談笑する貴婦人たち。美しく着飾る令嬢たち。紳士に振る舞う殿方。あちこちで繰り広げられる社交にオリヴィアは心の中は複雑であった。


アレクセイがフィリップを連れ壇上を降りるのを確認すると後ろのレオナルドに顔を向ける。レオナルドは軽く頷くとオリヴィアもまた会場の輪の中へ降りて行く。


アレクセイが輪の中に入ると着飾る令嬢たちにたちまち囲まれ、無駄に笑顔を振りまいている。これがアレクセイのポーカーフェイスである。


オリヴィアは思わず

『怖っ』

と首を振ると後ろのレオナルドが小さく睨みつけた。オリヴィアはレオナルドに思わず舌を出した。レオナルドは驚き目を見開くも呆れた様に頷いた。

一通りの社交を終えたオリヴィアはひと息付くためにバルコニーに出ようとしたものの、以前アレクセイにえらくお叱りを受けた事を思い出した。


…。


オリヴィアはレオナルドに

『アナリスではバルコニーに出ては行けないのよね?』


レオナルドは思わず


『はあ?』


となるものの一つ咳払いをし

『何故ですか?バルコニーには貴婦人方も出ていらっしゃいますが?』


バルコニーに視線を送る。オリヴィアはアレクセイに叱られた過去をレオナルドに話すと



…。

レオナルドは呆れた様に


『妃殿下マヂですか?』


オリヴィアは聞き慣れないレオナルドの素のままの言葉に首を傾げると


『失礼。とにかく大丈夫ですよ。ここはアナリスですからね。また状況も違います!詳しくはまたしっかり耳の穴かっぽじってお話ししますから。』



…かっぽじって?

オリヴィアは得体の知れない生き物を見るかの様にレオナルドを見ると首をひねってバルコニーに出た。


澄んだ空気が美味しい!
オリヴィアは素のままのオリヴィアになり笑顔をレオナルドに向けた。


…ヤバい。可愛すぎるな。


レオナルドはキョロキョロと辺りを見渡しこの表情を誰にも見せてはならぬとアレクセイに命を受けたかのように焦りをみせた。



『オリヴィア』

この夜会でオリヴィアをオリヴィアと呼ぶのはこの2人。

オリヴィアは振り返ると久々の対面となるラインハルトとステファニーが立っていた。レオナルドは少し離れて控えた。

オリヴィアはすっと息を吸い込み


『ご無沙汰しております。お楽しみ頂いておりますか?』

凛と背筋を伸ばし微笑むとラインハルトは頷いた。

『元気そうで何よりだ。父上も喜んでおられる。』


…陛下が?まさか…。


オリヴィアは苦笑いをしながらステファニーに視線を移すと


『オリヴィア、ッて貴女!』

ステファニーは急にオリヴィアに驚きを見せた。
オリヴィアは不思議そうにステファニーを見ると


『貴女だったのね?王女であろう者が盗みを働くなど、お兄様見てオリヴィアの首元を。』


ラインハルトも目を見開いた。


オリヴィアは理由がわからず


『何を仰っしゃるのですか?盗みなど私は誓ってしておりませんが?』


『では貴女のそのネックレスはどうしたの?』

睨みつけるステファニーにオリヴィアは首から下げたネックレスを触れ


『これはここに嫁ぐ際、お母様より譲り受けた物ですが?』


『そんな馬鹿な事は無いわ!それはねジュリラン大王国の秘宝、それも特級品。ジュリラン正妃でも持ち得ていない物を何故貴女の母親、しかも力の無い側室如きが持っているのよ!』


…。そうなの?ジュリランの秘宝ってまさか?


そう、ジュリランは鉱山からさまざまな金銀財宝が出る為、それが財源の大元となっているのだ。


『妃殿下、場所を移されては?』


レオナルドの言葉に頷くと4人は会場を出て控え室に入った。


『レオナルドと言ったかしら?貴方は優秀ね。妃殿下の羞恥を察知して人目を避けるなんて。』

ステファニーはニヤリと不敵な笑みを浮かべると


『いいえ、私は妃殿下のご兄弟を案じたまでですが?』


ステファニーはあからさまに顔を歪めると


『まあ、いいわ。さぁオリヴィア返しなさい。っていうかお兄様。このような者を他国に嫁がせるは我が国の恥。ネックレス同様オリヴィアも連れて帰りましょう。』


ラインハルトは驚きながらもステファニーの言葉に頭を悩ませた。


『もう一度申し上げますがこちらはお母様より譲り受けた物で私が盗みを働いたのでありません。』


『貴女でも貴女の母親でも関係ないの。それは小国であれば手に入る位の価値ある物よ?』


ステファニーの言葉に卒倒しそうになるオリヴィア。


…小国が買えるってこれが?まさか。


『大袈裟な、それらの物は我が国でもございます。それ位の物でそんなに必死になられる程ジュリラン大王国は財政難なのですか?』


レオナルドの言葉に尚も驚くオリヴィア。

…これが?


ステファニーは真っ赤になり

『貴方!弁えなさいよ。たかだか帝国貴族が仮にも他国の王族に。国際問題になるわよ?』

放心していたオリヴィアが


『お姉様こそ言葉を弁えて下さい。彼は帝国貴族である前に帝国皇后の側近ですわ?かれの意は私の意でもありますわ!』

ステファニーのボルテージが上がる。


『貴女何様のつもり?この私に対してそんな口を叩いてどうなるか分かってるの?』


『恐れながら王女。貴女こそ大丈夫ですか?彼女は貴女の妹ではありますが今やアナリス大帝国の皇后陛下。属国の一王女が気安くお話しになるのも本来ならば無礼なのです。ご理解頂いておりますか?』


レオナルドはステファニーとは言いながらラインハルトに視線を置いた。



『ステファニー、落ち着きなさい。』


ラインハルトに促されステファニーはソファに腰を下ろした。オリヴィアは小さく息を吐くとその前に腰を下ろした。


…やれやれだわ。





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