たまたま王太子妃になっただけ【完】

ジュリランの安泰

穏やかに晴れた日、ジュリラン王国王太子妃であるアリスは朝から陣痛が始り王宮は慌ただしくなっていた。

ラインハルトは力になりたいと願うも、こうゆう時はタトエ王太子であろうと出来る事は何も無い。


『ウィル、私は何をすればいいのだ？』


朝から何度も繰り返される問いかけにウィリアムも辟易としながら


『殿下、殿下に出来る事はただひたすら祈るのみです。』


これまたウィリアムも何度も繰り返す返答である。



ラインハルトは朝から執務室を出てアリスの戦う部屋の前でまるで犬のように同じ所をくるくると回っている。その廊下を使う者たちは全て遠回りを強いられるのである。ただでさえ気が立っているラインハルトの視界にはもはや誰も入れないし入りたくもない。


『お兄様！』


ステファニーの言葉にラインハルトは待っていたかの如く


『ステファニー、どうしたらよいのだ？どうされたら嬉しいのだ？』


…ステファニーは無言でウィリアムを見るとウィリアムの表情はかなり疲れている。


…まさか朝からこんな？


ステファニーの心の声を解読したウィリアムは助けを求めるように頷いた。


『お兄様はアホですか？私とて子どもを産んだ事などございませんからね？それにお兄様がここでくるくる回っていても何の役にもたちませんのよ？さっさと執務室へお戻り下さい。吉報はすぐに届けられますわ！』　



ステファニーの言葉にはラインハルトも渋々頷くと


『そうだな。私が焦っていても仕方がないか…』


不安そうに扉を見つめるとアリスの息む声か漏れてきた。


『苦しそうだぞ？』


ステファニーを見るも


『命がけですから』


ステファニーがラインハルトを脅すとラインハルトは子犬のように扉を見つめる。


…。


ステファニーとウィリアムが顔を見合わせため息を付いた時であった。




『ホッギャッ。ホギャーホギャー』

元気な産声を挙げたのは双子の赤子であった。




すぐさま部屋より出てきた医師はラインハルトに


『殿下！おめでとうございます。元気な王子と王女でございます！』


ラインハルトは一瞬固まり目を丸く


『王子なのか？王女なのか？』



医師はにこやかに言う。


『元気な双子の王子と王女でございますよ！』


ラインハルトは我に返ると


『アリスは？アリスは無事か？』


『もちろんお元気で何の問題もございません！さあ中へ』


意思に促されラインハルトは中に入るとアリスが疲れ果てた様子で微笑んでいる。



『アリス、よく頑張ってくれたね。』

ラインハルトはアリスの手を両手でしっかりと包みこんだ。


ジュリラン王国王子ヘンリー、ジュリラン王国王女マリネットの誕生によりジュリラン王国には跡継ぎが誕生したのである。


その吉報はすぐに帝国にも伝えられるとオリヴィアも安堵の笑みを浮かべた。


『ラインハルト殿下は流石仕事が早い。チャチャッと作っちゃいましたね！』

レオナルドの言葉にオリヴィアは


『レオ、チャチャッとってどうなの？』


レオナルドは本日も平常運転である。