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王太子の執務室にて
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アレンは頭の中で思考を巡らせながら、無言で執務室へ戻った。
室内では、セリュアンがカイルとソファに腰掛け、昨夜の夜会の報告を受けていた。
アレンが入室すると、セリュアンはふと手を上げて視線を向け、唐突に口を開いた。
「そういえばさ……アメリアが最近、温室に通ってるって知ってたか?」
突然の話題転換に、カイルは少し戸惑いながらも、なぜか視線をアレンに向けた。
その視線に引き寄せられるように、セリュアンもアレンを見た。
アレンはため息交じりに答える。
「知ってるよ。別に、妃殿下が温室の進捗を見に行くのは不自然じゃないだろ?」
セリュアンは不満げに眉をひそめた。
「……でも、俺には何も言ってこなかった」
それを聞いたアレンは、思わず肩をすくめた。
「逆に聞くけど、“貴方の元カノが管理してる温室に行ってもいいですか?”って、確認されたいわけ?」
セリュアンは口を開きかけたが、返す言葉が見つからず、口を噤んだ。
代わりに、どこか不安げに呟く。
「……まさか、エルナに何か言いに行ってるんじゃないか?」
アレンは、呆れたように目を細めた。
「逆だよ。妃殿下はただ、エルナの話を黙って微笑んで聞いてるだけだ」
「……何を微笑むことがあるんだ?」
(まったく、こいつはどこまでも鈍い)
アレンが内心で毒づいていると、カイルが慎重に口を開いた。
「妃殿下……泣いておられました」
二人の視線が同時にカイルに注がれる。
「エルナが立ち去ったあと、おひとりで温室に残り、ブルーローズを見つめながら……あの、肩を小さく震わせて。
華奢な背中が揺れているのを見て……正直、胸が締めつけられました」
セリュアンは混乱したように眉をひそめる。
「なぜ……なぜアメリアが泣く? 泣く理由がないだろう? エルナではなく彼女が?」
その言葉に、アレンは鋭く言い放った。
「だから言ってるだろ。逆なんだよ。エルナは、誰かに操られてる可能性がある」
「……どういうことだ、それは」
動揺を隠せないセリュアンに、アレンは少し声を低くした。
「まだ確証はない。ただ……エルナは、“妃殿下が次に担当するのはサロンの花です”とか、“温室をとても褒めてくださいました”とか、
まるでお前からの指示を受けているような口ぶりだった。しかも、嬉しそうに」
セリュアンの顔が一瞬にして険しくなる。
「待て、それはおかしい。俺はエルナの接見の申し出には一度も応じていない!」
今度はカイルが戸惑いを含んだ声を上げた。
「では……エルナが、嘘を?」
セリュアンが反射的に否定する。
「そんなはずはない。彼女が何のためにそんな嘘を?」
そのやり取りを聞きながら、アレンは一人、静かに呟いた。
「いや……あの目は、嘘をついてる目じゃなかった」
セリュアンとカイルが再びアレンを見る。
「だとしたら……」
アレンは重く言葉を繋いだ。
「そう。やっぱり“誰か”が――お前になりすまして、エルナに書面を送っているんだ」
部屋に重たい沈黙が落ちた。三人は顔を見合わせる。
これは、単なる誤解や嫉妬の問題ではない。
何者かが意図的に、王太子の名を使って人を操り、動かしている――。
そしてその矛先は、エルナだけでは終わらない。
アメリアにも、間もなく“何か”が仕掛けられる。
アレンは口を固く結んだ。
(急がないと、妃殿下は――取り返しのつかない罠に嵌る)
室内では、セリュアンがカイルとソファに腰掛け、昨夜の夜会の報告を受けていた。
アレンが入室すると、セリュアンはふと手を上げて視線を向け、唐突に口を開いた。
「そういえばさ……アメリアが最近、温室に通ってるって知ってたか?」
突然の話題転換に、カイルは少し戸惑いながらも、なぜか視線をアレンに向けた。
その視線に引き寄せられるように、セリュアンもアレンを見た。
アレンはため息交じりに答える。
「知ってるよ。別に、妃殿下が温室の進捗を見に行くのは不自然じゃないだろ?」
セリュアンは不満げに眉をひそめた。
「……でも、俺には何も言ってこなかった」
それを聞いたアレンは、思わず肩をすくめた。
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代わりに、どこか不安げに呟く。
「……まさか、エルナに何か言いに行ってるんじゃないか?」
アレンは、呆れたように目を細めた。
「逆だよ。妃殿下はただ、エルナの話を黙って微笑んで聞いてるだけだ」
「……何を微笑むことがあるんだ?」
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「なぜ……なぜアメリアが泣く? 泣く理由がないだろう? エルナではなく彼女が?」
その言葉に、アレンは鋭く言い放った。
「だから言ってるだろ。逆なんだよ。エルナは、誰かに操られてる可能性がある」
「……どういうことだ、それは」
動揺を隠せないセリュアンに、アレンは少し声を低くした。
「まだ確証はない。ただ……エルナは、“妃殿下が次に担当するのはサロンの花です”とか、“温室をとても褒めてくださいました”とか、
まるでお前からの指示を受けているような口ぶりだった。しかも、嬉しそうに」
セリュアンの顔が一瞬にして険しくなる。
「待て、それはおかしい。俺はエルナの接見の申し出には一度も応じていない!」
今度はカイルが戸惑いを含んだ声を上げた。
「では……エルナが、嘘を?」
セリュアンが反射的に否定する。
「そんなはずはない。彼女が何のためにそんな嘘を?」
そのやり取りを聞きながら、アレンは一人、静かに呟いた。
「いや……あの目は、嘘をついてる目じゃなかった」
セリュアンとカイルが再びアレンを見る。
「だとしたら……」
アレンは重く言葉を繋いだ。
「そう。やっぱり“誰か”が――お前になりすまして、エルナに書面を送っているんだ」
部屋に重たい沈黙が落ちた。三人は顔を見合わせる。
これは、単なる誤解や嫉妬の問題ではない。
何者かが意図的に、王太子の名を使って人を操り、動かしている――。
そしてその矛先は、エルナだけでは終わらない。
アメリアにも、間もなく“何か”が仕掛けられる。
アレンは口を固く結んだ。
(急がないと、妃殿下は――取り返しのつかない罠に嵌る)
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