記憶を無くした公爵夫人【完】

mako

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解ける心

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レオンハルトは毎日アルベルタの部屋を訪れ、一人でアルベルタに話しかけていた。

『アルベルタ、君は数字に強いのだな?セバスチャンが心強い事だろうな。』


『アルベルタ、君の夫は素晴らしいらしいぞ。仕事は出来るし人脈もある。それに加えて見目麗しき男だそうだね?』


『アルベルタ、面談と称した雑談会が開かれぬと使用人がご馳走に有りつけぬ故、ひもじい思いをしておるぞ。』


『アルベルタ、ファーストダンスは夫と踊るのだぞ』


毎日毎日繰り返すレオンハルトの会話にはバリエーションが乏しい。


『アルベルタ、毎日毎日こうして話していると改めて気づいたよ。私アルベルタの事を何にも知らないのだな‥』

ふと、本音を漏らすレオンハルトは窓から見える花のアーチを眺めていた。



『クズの仕事の出来る顔だけ男ですわ。』

小さいアルベルタは呟いた。


振り返りアルベルタを見ると微かに微笑んでレオンハルトを見つめている。レオンハルトは急ぎアルベルタの元へ跪き

『そうだ、クズの顔だけ男だ!君の夫であろう?』


アルベルタは優しく微笑み

『いいえ。』


レオンハルトは固まる‥


『クズの顔だけ男ではありませんよ。クズの仕事が出来る顔だけ男ですよ‥』


レオンハルトは安堵しアルベルタを胸に引き込んだ。


『アルベルタ。少しづつで良い、話をしていこう。少しづつで良い食事もしよう。少しづつで良いベッドで眠ろう。』


一言づつ丁寧に紡ぐ言葉にアルベルタは丁寧に頷き返した。




この日から開かずの扉であった夫婦の部屋を繋ぐ扉が開けられたのではなく、取り壊され1つになった。

アルベルタを献身的に世話をするレオンハルト。令嬢に振り回されるのを嫌っていたはずが、自ら振り回されるのを望んでいるようだ。


『アルベルタ、今朝は食堂で食事にしないか?面談と称した雑談会を首を長くして待っているぞ?もちろん私も参加する。』

アルベルタは思い出したかのように笑顔で喜びを表すものの


『旦那様が居ては皆楽しめませんわ。あれは私達だけの愚痴り合い。ほとんどが旦那様の悪口ですもの』


ニコニコと話すアルベルタに複雑な表情になるレオンハルト。

『クズの顔だけ以外にもまだあるのか?』


『守秘義務がありますから』


アルベルタは心の底から大きく笑った。
そしてまたレオンハルトも大きく笑ったのであった。






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