反主流派の公爵令嬢ですが何か？【完】

闘牛

想定内の嫌味の数々を受け流しようやくお茶会もお開きとなった。馬車に向かう者、バラ園に足を運ぶもの、王宮に入っていく者を見ながらアナベルも王宮へ戻るべくエレナを促した。


エレナはアナベルの視線虚しくバラ園の方へまたもピョンピョンと掛けて行った。

…ねえ、その元気はどこから？


クタクタに疲れているアナベルは未来の王太子妃の背中を追った。


遅れる事数分。

何やらエレナはどこぞやの令嬢と口論となっていた。口論からするに顔見知り。アナベルは思案しながら声を掛けるも公爵令嬢の小さな声は届かない。アナベルは聞いた事の無いような大きな声で言い争う様に驚き声を失った。


『可哀想な人だわ！そんなに私が羨ましいの！貴女昔からそうよね？いつもいつもみんなにチヤホヤされる私を妬んでたものね！』


『な、なにを！貴女なんて羨ましくも何ともないわ！』


『そんな口きいてもいいのかしら？』


真っ赤に怒りを表すどこぞやの令嬢がエレナの頬を思いきり打ち付けた！

バッチン！

大きな音とその様子にアナベルは驚愕するもエレナは負けじとその令嬢にあろうことか飛びかかっていく。まるで闘牛のようだ。

争う２人は合わせ様に赤と青のドレス。まさしく闘牛だ。余り仕立てが良くないのか安っぽいシフォンがビリビリになっていく。髪を振り乱す２人はもはや貴族令嬢とは思えない。

はっと我に返るとエレナがその令嬢を突き飛ばし令嬢は後方へ飛ばされた。両手でスカートを直すエレナを睨みつける令嬢は胸元から短刀を取り出した。


『このアバスレぇ～！』

訳の分からない言葉と共にエレナに突っ込んでくる令嬢を前にアナベルはエレナの前に飛び出すと令嬢の短刀は真っ直ぐにアナベルを捕らえた。


『うっっ』


アナベルば右脇腹を押さえその場に倒れ込んだ。
エレナは驚き目をキョロキョロさせ次に悲鳴をあけだ。


『キャー！』

その悲鳴に合わせて人だかりとなるとその令嬢は
焦りながらも


『エレナの侍従が勝手に！勝手に飛び出してきたの！私の前に！不敬だわ！エレナ貴女のせいよ！』



意識が遠のくアナベルはブルーの叫ぶ闘牛の後方からなだれ込んできた騎士団らがかすかに写る。


『アナベル嬢！しっかりしろ！アナベル嬢』


『すぐに運んで処置を施せ！』


大きな声が目の前で聞こえる。微かに写る姿はあのランドルフ殿下のようにも感じた。


…騎士団長か。流石だわ…


アナベルはそのまま意識を手放した。




叫ぶ令嬢のやかましさに冷たい視線を送る令嬢がすれ違いざまに一言。


『あのお方は侍従ではなくてよ？』



…。



続いてすれ違う令嬢は


『我が国3大公爵家、ヴィヴォワール公爵令嬢でしてよ。』


…！

固まり震える令嬢を横目に最後の令嬢は


『貴女の家もおしまいね。』



通り過ぎる令嬢の言葉に青いドレスの令嬢は己のしでかした事の重さを痛感した。


『そ、そんな…。知らない知らない知らない』


ボソボソと１人呆然と座り込んだ。



赤と青の闘牛の様子を王宮の窓から眺めていたミハエルは顔を顰めながら強くカーテンを引いた。