反主流派の公爵令嬢ですが何か?【完】

mako

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理不尽でないでしょうか?

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ミハエルは昨日、言い過ぎた自覚はある。だからこそ茶会が終わるのを伺っていたのだ。


第3王子としてこの世に生を受けたミハエルはこう見えて公私の区別をはっきりと付けた出来る男である。だからこそ公爵家に生まれその存在自体が恵まれているにも関わらず、公爵令嬢としての責務を果さぬアナベルに思う所があった。

第3王子派とされるヴィヴォワール公爵家。ミハエルでさえ公爵邸で開かれる夜会の折に数回簡単な挨拶をした事があるのみ。それも何年も前の話。ここ数年は私室に引きこもり顔を見たのは数年ぶり。

コミュニケーションに問題があるのか?それとも容姿に問題があるのか?はたまた体が弱いのか?そのどれもが当てはまらない事を王太子妃選考会で確信した。ならば何故。


ミハエルはアナベルという令嬢に興味を抱き少々意地の悪い事を言ってしまった事を少しだけ後悔していたのである。



アナベルは重いまぶたをゆっくりと開くとぼやけていた視界が徐々にクリアになってきた。

『…!』

目の前に映し出されたその顔面にアナベルは起き上がろうとするも


『ったぁ。』


ミハエルはアナベルを静かに寝かせると


『そんなあからさまに嫌そうな顔をしないでくれよ。』


『そ、そんなつもりはございませんわ。ただ驚いただけです。』


アナベルも昨日の今日でバツが悪そうに横を向いた。

『ねえ、側妃は嫌なんじゃなかった?』 

『駒ですから』

ミハエルはため息を吐くと


『分かった分かった謝るから!』

『別にミハエル殿下が謝られる事はございません。本当の事をおっしゃったまで。』


…。


『ならば聞くけど、何故助けた?』


『何故?』


『そう、何故あのサルを助けた?あのまま刺されていたら君は側妃にならなくても済んだかもしれないのに。』


…。

何故?アナベル自体もよくわからない。何故だろう。じっくり考えているアナベルをミハエルは急がせる事なく静かに待っている。

『適切かどうかは分かりませんが強いて言うならご恩返しでしょうか?』


『恩?サルに?』


『いいえ、我がトゥモルデン王国にですわ。』

『…?』

『私は公爵令嬢としての務めを果たす事なく勝手をして参りました。それを咎める事無く自由にさせて頂けた事にですわ。』


『だからってサルは関係ないよね?』


アナベルは静かに首を横に振った。


『いいえ、彼女はこの国の王太子であるライド殿下の真実の愛でございます。その真実の愛が無くなれば殿下だけでなくこの国も打撃を受けると同じ事。だからでしょうか。私にもよく分かりませんわ。』


アナベルは力なく美しく微笑んだ。


…。


ミハエルは返す言葉が見当たらなかった。




長い沈黙を打ち破ったのはランドルフとライドの入室であった。ランドルフから事の経緯を聞いたライドは険しい表情で部屋に来るや、連れ添ったランドルフとミハエルを部屋から出し今の今までミハエルが掛けていた椅子に腰を下ろした。


『…が言った?』


アナベルは聞き取れない言葉に首を捻る。


『誰がエレナの護衛になれと言った!』


アナベルは目の前で見たことの無いライドの姿に声を失った。王宮内での事件であるため頭を下げるのか、大切なエレナを救った事に頭を下げるのならばまだ分かる。だが目の前のライドは険しい表情でアナベルをその鋭い視線で射抜いているのだ。アナベルは逡巡させながらも


『も、申し訳ございません。』


『謝ってほしいわけじゃない、何故かと聞いている。』


…何故って。


アナベルはライドの意図が分からず混乱しながらライドの怒りの矛先が自分であるという事は理解した。


…こっちこそ、何で?ですが?


まるで理不尽に叱られているようでアナベルは次第に怒りが込み上げてきた。

…全ては殿下の頭がお花畑な事に起因するんじゃないの?混乱を招いているのは貴方です!


怒りをそのまま視線に込めてライドを軽く睨見つけるとライドは大きく息を吐いてつぶやいた。


『良かった…』


…は?


アナベルは自分の頭を打ち所が悪かったのかと確かめるように頭を振った。

…大丈夫みたいだけど。


不思議そうにライドを見つめるとライドは小さく笑いそのまま部屋を後にした。



…何?何なん?


アナベルはライドの後ろ姿を見送りながら首をひねった。


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