反主流派の公爵令嬢ですが何か?【完】

mako

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闇の中で

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アナベルは真っ暗な闇の中、走馬灯のように今まで自分が歩んできた時間が映し出されているのを眺めていた。

無邪気に庭を走り回るアナベル。毎日お姫様の如く蝶や花やと育てられていたあの頃。

…楽しかったわ。

デビュタントを終えて強張る笑顔を振りまくアナベル。次第に社交界から距離を取るようになりいつしか引きこもり令嬢となっていた頃。


……幸せだったわ。


黒い渦が渦巻くように思い出はぐにゃぐにゃに映し出されていく。


ミハエルがこの国を出ていくならば、またトゥモルデン王国の社交界が揺れるのは間違いない。安定の王太子派に対抗し第3王子派の貴族らはこぞって第2王子派となるか、あわよくばと王太子派に入り込むか。考えただけでも辟易とする。

一方ショーンの言うようにミハエルをトゥモルデンから出ていかないように仕向ける輩が居る。そうなれば王太子を廃太子させる動きが加速するのは間違いない。筆頭はヴィヴォワール家も属する第3王子派であろう。アナベルはそこに属する公爵令嬢という事がこれほど辛い事だとこの時初めて思い知ったのである。

共に過ごした長くはない時間がアナベルにとってそれはかけがえのない時間であったのだ。己の立場を忘れいつしか共に歩む日を思い描いていたのも事実。それなのにあろうことかそのライドの足を引っ張るのがまた自分であるという事実がこの時のアナベルには身を裂かれる思いであったのだ。

それと同時にアナベルはトゥモルデン王国の王太子はライドでなければならない事も誰よりも知っている。側で見て感じたあのオーラ。そして実績。表立っての王太子の仕事など僅かなものでその殆どが裏でコツコツと励んでこられた努力の賜物。アナベルは公爵令嬢としてこの王太子が廃太子することになればその損失を考えても守り抜かねばならないと心に固く誓ったのである。


真っ暗な無音の闇の遠くからザワザワと音が復活したかと思うとアナベルの重いまぶたが小さく開かれた。ぼやけていた視界がクリアになっていくとそこには暗闇の中で何度も眺めたライドの姿があった。


『アナベル嬢!』


ライドがアナベルに覆いかぶさるように顔を近づけるとアナベルは小さく微笑み声を絞り出した。


『殿下…。』


ライドは大きく息を吐くと

『心配した…ユリウスから聞いて驚いて飛んで来たんだ。すまない、無理をさせていたね。』 

アナベルは首を横に振ると握られた手に視線を落とす。ライドははっとしたように手を離すと

『申し訳無い。ほら!レディの部屋だから気を付けていたんだけど…』


ライドは申し訳なさそうにきちんと開かれた部屋の扉に視線を移しあたふたとしている。アナベルは少しさみしげに離された手を見つめると

『殿下、執務のお時間ですわ。私は大丈夫ですから。』


『1日くらい大丈夫だから。君が殆ど片付けてくれていたからね。』


『いいえ、いけません。殿下にしか出来ない執務がまだありますわ。次から次へと待ってはくれませんもの。』

ライドは苦笑いを浮かべると


『手厳しいな、アナベル嬢は。ではまた王宮で待っているからね。』


ライドはアナベルのおでこに軽くキスを落とすと静かに部屋を後にした。



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