32 / 70
失態
しおりを挟むアナベルが乗る公爵家の馬車は先ほど具合を悪くした令嬢にユリウスが貸しアナベルは王宮の馬車で公爵邸に戻らなければならない。王宮の馬車が待機している所まで来るとアナベルを待っていたかのように扉が開かれるとアナベルは俯きながら乗り込んだ。しばらくしても動く気配の無い馬車にアナベルが窓の外を見ると使用人が申し訳なさそうに扉を開いた。
『申し訳ありません。正面は帰路につく馬車で混み合っておりますので裏側から出る許可が下りるのを待っている所でございます。』
遠くの様子を伺いながら頭を下げる使用人にアナベルは逆に申し訳なくなり小さく頭を下げた。
正面からの出口は爵位の高い馬車から王宮を出る為に皆、順番待ちをしているのだ。普段ならば早々に王宮を出るアナベルだが今宵は珍しく馬車で待機中だ。申し訳なく思った使用人は果実水を片手に扉を開け
『よろしればどうぞ。ただいま裏口から出る事が許可されましたのですぐに出ます。』
流石は王宮の使用人だ。無駄な事は話さずそれでいて柔らかい表情だ。アナベルは安堵感からすぐに果実水を口に含み重い瞼を閉じた。
目が覚めるとアナベルは頭を巡らせた。
…えっと?
確か王宮馬車で王宮を出た。混雑しているから裏口から外に出たのを覚えている。そして睡魔に誘われるまま瞼を閉じた。さすれば目が覚めるのは自宅である公爵邸でなければならない。
しかし、アナベルが居るのは馬車でもなく、公爵邸でもない。
…どこ?
ぐるりと見渡すと、お世辞にも趣味がいいとは言えない派手な部屋だ。アナベルも見たこともない形式の部屋の造り。恐らく貴族の屋敷ではない事は分かる。
分かるはいいが何故自分がここに居るのだろうか?それが分からなければ始まらない。
あれからどれくらい経ったのかも分からずアナベルは目の前にある見覚えの有る果実水を一気に飲み干した。
…あぁ生き返ったわ。それにしても感じの良い使用人だったわね。
馬車で受け取った果実水の瓶を眺めながらそんな事を考えていたアナベルだが次第に身体が熱に帯びてくるのを感じた。これまで感じた事の無い感覚にアナベルは息遣い荒く己の身体を案じた。
…ハァ~ハァ~何これ。どうした私。
落ち着かせようと心を沈ませるも身体の熱はどんどんとこもっていく。目が虚ろになり視界が定まらないアナベルは思考回路が停止してしまっていた時部屋の左端にある木のドアが乱暴に開かれた。
『やぁ待たせたね!』
待ってもいないアナベルは目の前にニヤニヤと近づいてくる男に危機感を覚え後ろに下がるも息は荒いままだ。
『アナベル嬢、噂には聞いていたけどそれ以上だよ。でもこんな事をしているなんて勿体ないなぁ。ってことはアナベル嬢は王太子妃には最初からなれなかった訳だね。そりゃぁそうか第3王子派だもんね、君のところは。』
アナベルは訳の分からない事を言う目の前の男に力の限り声を上げた。
『どこの誰か存じませんが助けて下さいませんか?なんか、なんかおかしいのです!熱くて!』
男はアナベルが自分を知らない事に立腹したのかアナベルの顎を持ち上げると
『何?そういう設定なの?ってかさいくら公爵令嬢っていってもさ、伯爵令息なんぞ知らねえよってのはあんまりじゃないの?見ず知らずの男と媚薬で楽しもうとしてるくせにさ!』
男は自らもその媚薬と称する果実水を飲もうとしたがアナベルは咄嗟にそれを奪い取り床に叩きつけると瓶は激しく割れ散った。
『お前!いい加減にしろよ!どういうつもりか知らないけどなこんな所まで来てやったのに何だよその態度!』
男は上着を脱ぎ捨て、アナベルを抱き寄せると
『どうせ純血でなければ君の価値は無いんだ。だからこんな事してんだろ?そんな素振りはいいからほら?』
アナベルは拒絶の涙が流れるも身体は男の愛撫を心待ちにしているかのように熱を帯びてきている。潤んだ瞳に荒い息遣いに男はますます興奮を覚え遂にはアナベルをベットに押し倒し一気にドレスを剥がしていく。
…嫌!
声にならないアナベルは心と身体がバラバラで壊れてしまいそうになる時にけたたましい音をたて屋敷に飛び込んで来たのはまさかのライドであった。
乱暴に現れたライドに男は心の底から
『殿下!どうされましたか?』
本当にライドを案じているその男に
『どうされたか?だと。お前は何をしているか分かっているのか?』
既に確保されているアナベルを横目に
『え?殿下も?え?』
混乱している男を見てライドは護衛に顎を突き出した。
…連れてけ!
男は半裸のまま捕らえられ訳もわからず連れて行かれると部屋にはアナベルとライドが残された。ライドはアナベルに近づくとアナベルは声も出す事も出来ず首を横に振りながら剥がされたドレスを胸に当てながら涙を流し、それでいて息は荒い。
…来ないで!
必死に訴えるアナベルの思い虚しくライドはアナベルを抱き込んだ。
アナベルは必死に尚も首だけを横に振り解毒するのをひたすら待つ。真っ赤に悶えながら涙を流し首を振るアナベルにライドを突き放した。
『大丈夫、大丈夫だから。恐らくこの媚薬の効力は数時間だ。今私が楽にしてあげるから』
あれこれ頭を巡らせるライドの視界には
どんどん熱を帯び、息遣いは激しくなり悶え続けるアナベルにライドは堪らず再び抱き込み唇を塞ぐとアナベルをホールドしアナベルを解そうとするも、どこにそんな力があったのかと思われる程の力でアナベルはライドを突き放した。
『私に触れられるのがそんなに嫌なの?』
ライドは悲しげにアナベルを見るもアナベルは首を横にひたすら振り続けている。その様子をただ見守るしかないライドは唇を噛み締め近くにあった椅子を蹴り倒した。
アナベルは自身で耐えながら呟いた。
『ハァ、ハァ、純血じゃなければならないから…』
…?
ライドはそのおぞましい光景をただひたすら見守るしか無かった。
2
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」
その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。
努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。
だが彼女は、嘆かなかった。
なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。
行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、
“冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。
条件はただ一つ――白い結婚。
感情を交えない、合理的な契約。
それが最善のはずだった。
しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、
彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。
気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、
誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。
一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、
エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。
婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。
完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。
これは、復讐ではなく、
選ばれ続ける未来を手に入れた物語。
---
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
婚約破棄されたので隣国に逃げたら、溺愛公爵に囲い込まれました
鍛高譚
恋愛
婚約破棄の濡れ衣を着せられ、すべてを失った侯爵令嬢フェリシア。
絶望の果てに辿りついた隣国で、彼女の人生は思わぬ方向へ動き始める。
「君はもう一人じゃない。私の護る場所へおいで」
手を差し伸べたのは、冷徹と噂される隣国公爵――だがその本性は、驚くほど甘くて優しかった。
新天地での穏やかな日々、仲間との出会い、胸を焦がす恋。
そして、フェリシアを失った母国は、次第に自らの愚かさに気づいていく……。
過去に傷ついた令嬢が、
隣国で“執着系の溺愛”を浴びながら、本当の幸せと居場所を見つけていく物語。
――「婚約破棄」は終わりではなく、始まりだった。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる