反主流派の公爵令嬢ですが何か?【完】

mako

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襲来2

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アナベルはミハエルと2人になると呆れ果てた眼差しでミハエルを見た。

『ミハエル様、我が国第3王子殿下と崇め奉られた元王子であり、今や皇子ともあろうお方がお一人で早馬なんぞでやって来るとはどういうおつもりですの?』


言えた義理では無いアナベルからの言葉にこれまたミハエルは驚いたように

『びっくりするよ!君の口から出る言葉かね?全く。誰が好き好んでこんな所に来るんだよ。今回はね兄上からの直に受けた命だからね?ってか何やってんだよ。帝国の妃殿下という自覚はあんのかね?』


アナベルは見張りを警戒しながら声を落とすと

『ミハエル様…。』


アナベルの心配を他所にミハエルはより声を張り上げ


『旧帝国に馴染みが深いようだけど、この私の顔を見てもただの遣いだと思い込んでいた所を見るとね、力が知れてるよね?一応帝国の血を引く私だ。まさかいつまでも地べたで跪いてるなんて自分が自分で驚いてるよ(笑)』


広間を監視しているであろうカサンドラ王国への牽制である。

アナベルは筒抜けの会話に配慮し敢えてマリーナの話には言及しなかったがその想いはミハエルも同じであった。




『ねえ、ミハエル様は馬術に優れておりましたっけ?』


突然の話題にミハエルは眉間にシワを刻むと


『いきなり何?べつに特別得意ではないけど?普通じゃないの?競った事などないからね。』


『でもライド殿下はかなり遅れをとってますわ。』


ミハエルはソファから崩れ落ちそうになりながら
アナベルを睨みつけると


『あのね?ってか君は本当にバカなのか?利口であったり無知であったりどちらが君なんだよ。兄上はね、早馬ではないし私よりも護衛も多く連れてるからね?』

よくわからないアナベルはふ~んとでもいうような表情で辺りを見渡した。


…マリーナ大丈夫かしら?

ミハエルは改めてびっくりした様子でアナベルを見つめていた。


…勘弁してくれよ。本当に。


2人各々、頭を巡らせているとカサンドラ王国外相である男が足早にやって来ると


『皇太子殿下がお越しになりました。』


そう言うと2人は広間よりも格段と豪華な謁見の間へと案内された。



扉が開かれるとアナベルは久方ぶりの夫に顔が綻んだ。


…お元気そうね♡

一方のライドは表情を崩す事なく用意されている豪華な椅子に腰を下ろしていた。


『これはこれはライド殿下!お待たせしました。』


声高らかに現れるはカイン・カサンドラ。先ほどまでとは異なり正装に近いフォーマルな装いでライドの前に腰を下ろした。


『ご無沙汰…では無いな。』


ライドはポツリと呟いた。


それはそう。帝国交流会で会談したのはほんの数ヶ月前。

『この度は大変失礼をいたしました。何でも、皇太子妃アナベル様が帝国での暮らしに辟易とし亡命をの意思があるとの情報で我が国も動いておりました。もちろん大切に保護させて頂いておりましたが…』


先ほどまでの話とはえらい違いである。アナベルは眉間にシワを寄せカインを見つめた。


『マリーナは?マリーナはどうされました?』


カインはとぼけたように


『マリーナ?…あ、妃殿下に仕えておりましたあの侍女の事でしょうか?あの者は我が国へ偽の証言をしており反逆とみなし…ってまぁこれは我が国の事ですから、今は関係ないですがね(笑)』


『反逆!そんなバカな。彼女はカサンドラ王国に忠誠を誓う立派な令嬢ですわ!』


『お褒め頂き光栄の極み。ですがそれは妃殿下にとって、では?ここはカサンドラ王国ですからね。貴女が我が国の…例えば王太子妃などのお立場ならば貴女の意見にも耳を傾けますが。今の貴女は帝国皇太子妃というお立場。このような小国の内政にまで頭を悩ませる事はありませんよ。』


カインは視線をライドに向けるとにっこりと微笑んだ。ライドもその視線を微笑んで受け取った。


…怖いんだけど?


ミハエルは2人に交互に視線を送っていた。


『マリーナは。マリーナは私のせいで?』


カインはさぁ?とでも言うように首を傾げると意味有りげに首を擦った。

…!


アナベルは大きな瞳が熱くなり潤んできたのを感じた。


…マリーナ、マリーナ。私が調子に乗って仲良くなろうとしたから。私が…私のせいで。


『カイン殿。マリーナという娘とその家族をここに呼んでくれぬか?』







一斉にライドへ視線が集まる。


『殿下、まさか内政干渉ですか?』


ライドは王太子スマイルで培った笑顔を振りまくと


『貴殿も大袈裟な。その娘は内政干渉に値する程の力を持っているのかな?ただの伯爵家の次女であろう?』






驚きの視線を嬉しそうに浴びながらライドは尚も


『帝国にカサンドラの人間が潜入しているようにここにだって私の手の先がね?逆も然りって事。ってまぁ今回の件の発端は我妻の責も否めない。だから大事にしたくはないんだけど?』


大事。仮にも帝国皇太子が言う大事にとは。カインは苦虫を噛みつぶしたような表情で側近に耳打ちすると側近は急いでその場を後にした。

静まり返る部屋、振り子時計のカチカチと針を打つ音だけが美しく響く。その静寂を破ったのはライドであった。


『にしても貴殿はアナベルを昔の天使のままだと思ってるのかい?』


…?

…?


不思議そうに視線を交わすアナベルとミハエルのとなりでカインは驚いたようにライドに視線を置いた。


『旧帝国での交流会。そりゃ各国から王子や王女。上級貴族の令息や令嬢も沢山集まるよね?私もその1人だけど貴殿もそうだ。そしてアナベルもね。

あの当時はお気に入りの女の子に1輪のお花を贈るのが流行ってたよね~。日々時間に追われる後継者として育てられる我らにとって癒しでもあるからね、君の気持ちもよくわかる。その想いを持ち続けるのは素敵な事だけど、後継者として日々追われる中でその想いは少しずつ消えていくものなんだ。』


『それは違う!それならばその想いはそれだけのものだっただけの話。アナベル嬢聞いた?これが殿下の気持ちなんだ。所詮その程度の想いだったっ事。』


『子どもの頃の想いなんて風が吹けば吹っ飛ぶさ。我々はもっと考えなきゃならない事が沢山あるだろう?幼き天使を想い続けるなんてある意味贅沢なんだよ。』


『ならば何故?そんな事を仰りながらその天使を娶ったのは貴方だ。リルムの血を公爵令嬢としての肩書が後ろ盾として必要だったからだ。』


ライドは小さくため息を落とす


『君の考えは飛躍しすぎてるよ。アナベルだって同じさ。幼き頃確かに君はアナベルに求婚したのかもしれない。だけど少なくとも私もしたんだよ?他にも居たかも知れない、流行ってたもん。でさ?アナベルはその相手が誰だか覚えてなんて居ないさ。そうゆう王子様が居た。とキュンキュンはしていたけどね?そんなもんだろ?普通。』



カインはゆっくりと、アナベルへ視線を流した。















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