反主流派の公爵令嬢ですが何か？【完】

襲来4

湿った空気が漂う中、マリーナとその家族が疲れ果てた様子で広間に連れて来られた。


『マリーナ！』

ほんの数時間前までとは異なりマリーナの顔色は悪くその家族もまた困惑の面持ちで頭を垂れた。


カインは複雑そうにライドに視線を送るとライドは１つ頷きマリーナにお得意の皇太子スマイルを送った。


『君がマリーナかい？私はトゥモルデン帝国皇太子のライド・トゥモルデン。この度は妻が世話になったね。』


更に深く頭を垂れるマリーナの元へアナベルは駆け寄り肩を上げると己の胸に抱き込んだ。


『ごめんなさい、ごめんなさい…。』


マリーナは小さく笑うと


『アナベル様が謝る事は何もございません。』


2人のやりとりを横目にライドは


『君がどんな命を出したかは知らないけれどそれが思うような結果で無かったならばその責は一重に君にあるんだ。例えば私が君の立場ならば、このアナベルに仕える侍女にこのような聡明な女性は選ばないよ。そうだな、エレナ・シャニオンのような女性にするかな？彼女であれば今回のような事にはならなかったと思うよ？』


カインは自暴自棄になりながら


『彼女が侍女に？無理だよ（笑）マナー１つ習得出来ない奴に務まらないさ』


…かつて私の生徒でしたけど:(

アナベルはわざわざ振り返りカインを睨みつけた。



『そうだ。務まらない。だけどねそれでもマリーナよりもエレナの方が賢明だっただろうね。それが理解出来ない時点で君の落ち度だ。その責任は君にある。君の立場であれば直に手を下す事は無いよね？でもね家臣の失態の責任は喜んで君が背負うんだ。そうじゃなきゃ誰も付いてはこないよ？今回だって根源はそこじゃない？』


そうだった。ライド・トゥモルデンとはこうゆう男だ。いつも大勢の家臣が国の為に働いているがどんな時もその責任を背負ってきている。だからこそアナベルはライドに心を惹かれたのである。

『またきれい事ですか？全ての責任を背負っていたら統率者なんて何人居たって足りないよ。』


ライドはハニカミながら


『そりゃあそうだね。だけど私が言ってる事はそういう意味じゃなくて、対外的な責任という意味だよ。だって彼女では責任を果たす立場にないであろう？』

怪訝そうにライドを見るカインは

『対外的？』


『そうだ。今回トゥモルデン皇太子妃であるアナベルが何故カサンドラで生活することになったの？これ以上の詳細がまだいる？』


『…。』


『さっきも言ったけど大事にしたくはないけど、このアナベルが何を掴んで君たちの策略に乗ったか…』

それだけ言うとライドは口角を上げてカインを牽制した。



『マリーナ嬢と言ったね。君を我が国に連れて帰りたいんだけど、どう？』

驚き固まるマリーナたちはお互い顔を見合わせている。


『殿下！何をおっしゃるのですか！彼女はカサンドラ王国の貴族ですよ！』


『除籍すればいいでしょう？』


『何の為に？』


『だからさ、本当空気の読めない男だね…』

こめかみを押さえながらカインに視線を投げつけたライドに


『こ、この者には婚約者が居る。私の一存だけでは』

ライドは退屈そうに首を回しながら


『知ってるよ。辺鄙な土地の伯爵家だろ？』


ライドはマリーナに視線を移すと


『嫁ぎたい？』


困惑する固まるマリーナの言葉を遮るように


『嫁ぎたいとか嫁ぎたくないとかではない！貴族なのだから！』


『君もおかしな事を言う。先ほどまで真実の愛がどうだこうだ言ってたのは君だろ？ってまぁそこはいい。…その伯爵家には婚約破棄をすればよい。何ならここに呼んで？』


『婚約破棄？』


『あれ、カサンドラではないの？あるよね？婚約破棄。形だけの婚約だ。金さえ払えばどうとでもなるだろ？』


カインは勝ち誇ったかのように笑顔を咲かせると


『殿下、殿下の懐事情とは違いますよ？フランドル伯爵家にはそのような金など。そもそも困窮しているからこそ僻地へ娘を嫁がせるんだ。』


フランドル伯爵と夫人は俯き黙っていた。その様子にマリーナも悲しそうに俯いた。アナベルはマリーナの肩を抱きその様子を見守っているしか出来なかった。


『まさか殿下が肩代わりなさるおつもりかな？』


困った様子のライドはニコリと笑い


『そこなんだよ。私が肩代わりをすればそれはそれで問題が出る。私の妃として迎え入れるならまだわかるが。』


…！


びっくりする言葉にアナベルもマリーナもそして弟であるミハエルも一同にしてライドに視線を向けた。



『だからさ私の妃が肩代わりすればよくない？自費で侍女を持つ事は珍しくないからね？こう見えてアナベルは元公爵令嬢。このくらい痛くも痒くもないさ、ね？アナベル。』


アナベルはいきなり飛んできた矢に驚きながらも


『私がお支払い出来ます範囲でしたら…』


『大丈夫だよ。ミハエルも居るし』


ミハエルは驚いたように俺？とでも言いたげにアナベルを見るとアナベルは天使の笑みでそれを返した。


…どっから出てくるよ、俺が。


2人の様子を嬉しそうに見つめるライドは席を立ち窓を開けると清々しい空気を広間に通した。


『大丈夫、そんな破格ではないから。辺鄙な土地の伯爵家だよ？アナベルのドレス数着分だったよ？』


…だったよ？


首を傾げるアナベルにライドは１つ頷き


『もう立て替えて払っておいたから大丈夫。だから問題ないよね？』


カインは勝手に繰り広げられる茶番のような寸劇に返す言葉が見つから無かった。