最愛の人の幸せが私の幸せ【完】

mako

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王太子の密会と忠実な側近

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​王太子の幼なじみでありながら、常に一線を引いてきたファビウスは、モルディアン王国の公爵令息である。品行方正で、公爵家の嫡子としての責務を完璧に果たしてきた。

​「ハインツ! こっちこっち!」

​楽しげに手招きする娘の後を、王太子ハインツが駆け足で追っていく。その背中を、ファビウスは複雑な面持ちで追いかけた。主であるモルディアン王国王太子ハインツは、どういうわけか今、町娘のマリアと森の丘で屋台の串を頬張り、幸せそうに笑い合っている。

​貴族たちの反発を受け、こうして人目を忍び、王宮から遠く離れた森までやって来ているのだ。まさに密会――。

​ファビウスが訝しげに二人を見守っていると、マリアはケラケラと笑いながらハインツの腕の中で小動物のようにはしゃいでいる。一方のハインツも、日頃の疲れを癒やすかのようにマリアを抱き込み、くるくると回る。二人は心底楽しそうだ。だが、ちっとも楽しくないのは、それを見守るファビウスただ一人。


​先ほどまで国の予算を真剣に検討していた主が、今は町娘との密会に興じている。
​「…ふぅ」
​ファビウスは深く息をついた。今はただ、この時間が過ぎ去るのを待つしかない。丘の上から見下ろすと、遠くに王宮がそびえ立っている。その王宮の主が、こんなところで町娘と――。貴族だけでなく、国王や王妃にこの密会が知られでもしたら、ファビウスとて無事では済まされないだろう。

​「…ふぅ」

​再度、ため息がこぼれる。貴族令嬢たちに囲まれるハインツが、たまには異質な魅力を持つ町娘に惹かれる気持ちも分からなくはない。だが、それはあくまで「たまに」で良いのだ。ここに真実の愛などあるはずがない。

その事実に気づかず、浮かれているハインツを、ファビウスはもどかしい思いで見守り続けるしかなかった。
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