最愛の人の幸せが私の幸せ【完】

mako

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沈黙の奥に潜む声

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蝋燭の炎が揺れている。壁に浮かぶ影が、静かにうねっていた。重厚な扉の奥、誰も寄り付かない深更の文書庫で、ファビウスは一人、書類の山を捲っていた。

机上には、マリアが書いたとされる偽の手紙。
その下に重ねられたのは、王宮で扱われる筆記具と紙の納品記録。彼はすでに、文具の“出処”が城下の小さな店であることを突き止めていた。
問題は、マリアがそれをどうやって手に入れたか――だった。

「……やはり、手引きした者がいる」

彼は静かに息を吐くと、次の帳簿をめくった。城下の文具店“クライン商会”――半年分の出荷記録。王宮関係者の購入履歴が、記号で記されている。その中で、ひときわ異質な記号が目を引いた。

「G-04」――“王宮文官補佐局 第4課”

「……ここで“筆跡の見本”が注文されている……?」

ファビウスの指先が止まる。その部署は、実際には存在しない課だ。予算上だけに存在する、いわば“幽霊部署”。

「誰かが“在籍しているように見せかけて”、備品や情報を動かしていた……?」

さらに調べを進めると、そこに関わる人物の名が浮かび上がってくる。

――アルノー・グレーヴ

王弟派に連なる、閑職に就いた老貴族。かつて王位継承を巡り、ハインツの父と対立した一派の残党だった。ファビウスは手帳を閉じ、立ち上がった。蝋燭の炎が、彼の眼差しに鋭く映る。


「……やはり、マリアはただの駒だった」

そして、その駒を差し出すことに何の迷いもなかった“者たち”が、今も王宮の奥に潜んでいる。



「王太子殿下、この件……静かに調査を進めるべきです」

ファビウスは低い声で言った。
ハインツは報告書を手に取り、目を細める。

「グレーヴ家……過去に王位継承の場で父に敗れた家系か。生きていたか、まだ」

「表立った活動はしていませんが、今なお“王弟派”の人脈に名前が残っています。マリア嬢の父とも、過去に交流があったようです」

ハインツは沈黙した。
やがて、一つの問いが彼の口をつく。

「――奴らの次の狙いは、誰だ?」

ファビウスは、無言で視線を落とす。
そして、一枚の報告書を差し出した。

その表紙には、こう記されていた。


 > 「公爵令嬢・リディアンネ殿に関する風評調査」

ハインツの眼が鋭くなる。

「……再び、彼女を標的にする気か」

「彼らは、宰相家と王太子殿下の双方に傷をつけるつもりでしょう。今度こそ、確実に」

ハインツは報告書を静かに閉じた。

「ならば――二度と、同じ過ちを繰り返させるな」

彼の声には、もはや迷いの色はなかった。

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