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火種は、沈黙の中に
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深まる秋の風が、葉擦れの音を運んでくる。
リディアンネは庭園の石造りの椅子に腰掛け、手元の本に視線を落としていた。けれど、文字はもう頭に入ってこない。
(……誰かに見られている)
背筋を撫でるような気配。さりげなく顔を上げ、周囲を見回す。
――視線の主はいない。けれど、違和感は消えなかった。
(おかしい。この場所は、侍女のアデルしか居場所を知らないはず)
立ち上がろうとしたその瞬間、背後から声がした。
「公爵令嬢。……王妃様がお呼びです。今すぐ、私室まで」
振り返れば、侍従の制服を着た若い男が立っていた。見覚えのない顔だ。アデルがいないことも不自然だったが――相手は、王妃の名を出した。
リディアンネはほんのわずかに警戒しながらも、その場を離れることにした。
男に案内され、渡り廊下を曲がった先。
そこは確かに王妃付きの侍女部屋が連なる東棟だったが、彼が立ち止まった部屋は、使われていない空き部屋だった。
「ここは――?」
「王妃様は、内密な話をお望みです」
リディアンネが一歩退いた、その瞬間。
扉が開き、背後から別の人物が現れる。
グレーの外套をまとった中年の男。その顔に、見覚えがあった。
(……アルノー・グレーヴ!)
マリアの件でファビウスが報告していた“王弟派の古株”。彼が、なぜここに?
「驚かれましたか、リディアンネ嬢。……いや、“次期王太子妃候補”とお呼びすべきかな?」
グレーヴは、まるで古い友人にでも会ったようににこやかに微笑んだ。
「残念ながら、このままではそうはならない。いや、なってもらっては困る。王家の血統には、我々の手が届かなくなる」
彼の目が光を失い、言葉は氷のように冷たくなる。
「君の父が、王太子に忠誠を誓ったこと。それがすべての“引き金”だった。……少し、痛い目を見てもらおうか。“裏切り者の娘”として」
扉が閉まりかける。しかし、そこへ――
「開けよ」
鋭い命令が廊下に響いた。扉が破られ、数人の近衛兵が雪崩れ込む。先頭に立っていたのは、ハインツ。
「リディアンネから離れろ」
彼の声は、怒気と――焦りに満ちていた。
兵士に押さえつけられるグレーヴを一瞥し、ハインツはリディアンネに駆け寄る。
「怪我はないか?」
リディアンネは、ただ一つだけ答えた。
「……来て、くださったのですね」
「当然だ。君がいなければ、私は“王”になどなれない」
リディアンネは庭園の石造りの椅子に腰掛け、手元の本に視線を落としていた。けれど、文字はもう頭に入ってこない。
(……誰かに見られている)
背筋を撫でるような気配。さりげなく顔を上げ、周囲を見回す。
――視線の主はいない。けれど、違和感は消えなかった。
(おかしい。この場所は、侍女のアデルしか居場所を知らないはず)
立ち上がろうとしたその瞬間、背後から声がした。
「公爵令嬢。……王妃様がお呼びです。今すぐ、私室まで」
振り返れば、侍従の制服を着た若い男が立っていた。見覚えのない顔だ。アデルがいないことも不自然だったが――相手は、王妃の名を出した。
リディアンネはほんのわずかに警戒しながらも、その場を離れることにした。
男に案内され、渡り廊下を曲がった先。
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「ここは――?」
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リディアンネが一歩退いた、その瞬間。
扉が開き、背後から別の人物が現れる。
グレーの外套をまとった中年の男。その顔に、見覚えがあった。
(……アルノー・グレーヴ!)
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グレーヴは、まるで古い友人にでも会ったようににこやかに微笑んだ。
「残念ながら、このままではそうはならない。いや、なってもらっては困る。王家の血統には、我々の手が届かなくなる」
彼の目が光を失い、言葉は氷のように冷たくなる。
「君の父が、王太子に忠誠を誓ったこと。それがすべての“引き金”だった。……少し、痛い目を見てもらおうか。“裏切り者の娘”として」
扉が閉まりかける。しかし、そこへ――
「開けよ」
鋭い命令が廊下に響いた。扉が破られ、数人の近衛兵が雪崩れ込む。先頭に立っていたのは、ハインツ。
「リディアンネから離れろ」
彼の声は、怒気と――焦りに満ちていた。
兵士に押さえつけられるグレーヴを一瞥し、ハインツはリディアンネに駆け寄る。
「怪我はないか?」
リディアンネは、ただ一つだけ答えた。
「……来て、くださったのですね」
「当然だ。君がいなければ、私は“王”になどなれない」
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