愛するということ【完】

mako

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一応王女ですから…

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テオドールは混乱していた。

あの姫と初めて会った日の事を昨日の事のように鮮明に思い出せる。

姫はまだあどけなさの残る末っ子で年よりも若く見えた。蝶よ花よと育てられてきた証だ。

こんな理不尽な条件を考えなしで乗っかかり、テオドールさえも良心が傷んだ。


あれから一年。容姿だけは美しく成長したものの頭の中はあの時のまま。良く言えば天衣無縫。

無邪気に話す姫と、エリート中のエリートである殿下がこの先交わる事があるのであろうか。もちろん交わる必要は無いが、王太子妃、王妃となる女性がアレで大丈夫か?


テオドールは失意の中、エレノアの待つ控え室に急いだ。



『エレノア様、お迎えに参りました。』

テオドールの低い声が広い廊下に響き渡ると侍女が静かに扉を開く。


『!』

眼の前には美しく着飾るエレノアがテオドールに向かって手を振っている。

今夜はヴェルヘルト大王国の夜会である。こんなのが王太子妃とわかれば落胆する貴族らが目に浮かぶ。社交界に一気に広がるであろう醜態…。


テオドールの心配を他所にエレノアは

『さあ、参りましょう!』

エスコートのテオドールを置いてきぼりにしウィリアムの部屋へと歩みを進めて行った。



テオドールは急ぎ後を負うと、ウィリアムとエレノアの2人に夜会の説明をする。
熱心に段取りを確認するウィリアムと心ここにあらずのエレノア。

『エレノア、しっかり聞かなければ困るのは君だよ?』

ウィリアムの言葉を軽く流すとエレノアは侍女と何やら楽しそうに話し込んでいた。


…おいおい、これから大王国の夜会ですが?

2人の前のエレノアは静かにしていれば、美しく気品も備わっているのだが。

夜会の間だけでも粗相なく過ごしてくれと切望する2人に


『そろそろ?』

エレノアは満面の笑みで声を掛けた。







扉の向こうでは盛大なファンファーレが鳴り響く。
正面の大きな扉がゆっくりと開かれると割れんばかりの拍手が2人を包んだ。


エレノアは優雅に微笑みエスコートのウィリアムと共に会場に入った。

エレノアの気品溢れる美しさに会場にため息が漏れる。その多くの視線を一身に受け、尚も真っ直ぐに壇上から見下ろす様はもはや圧巻。

テオドールは思わず目を見開いた。

…まあ、黙ってさえいれば。
テオドールは祈った。


そのまま会場の中央に降りると一斉に貴族らは端に寄り2人のダンスが始まる。

これまた2人のダンスは素晴らしく優雅に舞うエレノアがますます際立つ。

…まあ、王女だからダンスくらいは。
テオドールは尚も祈る。


『君はダンスが得意なのだね?』
ウィリアムがエレノアの耳元で話すと周りの令嬢らが黄色い声をあげる。

『…。』


『エレノア?』

エレノアを覗き込むウィリアムに


『しっ!黙って!これでも一応必死なのです!』

ウィリアムには目もくれずリズムを刻むエレノアに目を丸くするウィリアム。

2人のやり取りなど聞こえない周りの貴族らは仲睦まじい2人に優しい視線を送っている。

何とか第1関門を突破した2人の様子を眺め安堵するテオドールは急いでダンスを終えた2人を回収に走るもテオドールの願い虚しく、2人は貴族らに囲まれ祝福を受けていた。


…勘弁してくれ



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