愛するということ【完】

mako

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最終日の夜会にて②

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優しい笑みでエレノアをウィリアムに引き渡すとテオドールは控え室を後にした。


2人は緊張の面持ちのまま夜会の呼び出しを待った。会場に響き渡るコールを待つ2人は真っ直ぐと前を見据えヴェルヘルトを守る2人である。

やがてヴェルヘルトを告げるコールと共に扉が開かれた。


会場には帝国貴族らを始め交流会の参加国が揃っている。皆煌びやかな衣装に身を包み宴が始まりを告げるファンファーレが鳴り響いた。

皇帝と皇后、皇太子と婚約者のダンスから始まり会場にはワルツが雅楽団によりハーモニーが奏でられている。

ウィリアムとエレノアも2曲を踊ると各々社交へと繰り出した。

エレノアはダンスが苦手でないがあまり好きではない。もちろん優雅に舞う姿は美しく実力も兼ね備えているが社交界のダンスはあくまで社交の一貫。そこで始まる社交もあるのも事実だがエレノアは男性の甘い言葉が苦手なのである。背中に添えられる手が人によっては下心が感じられ、それを優雅に避ける術を持っていないのである。


それから逃げるようにエレノアは一人バルコニーに出た。先日涙を流した夜のような美しく輝く満天の空。遥かに輝く光。その光には間違いなく民がそこに居る証。これからも光が数多く輝く未来の為にエレノアは背筋を伸ばす。


空気が冷たく心地良い。ゆっくりと瞳を閉じて木々の香りを目一杯吸い込む。エレノアのエネルギー補給だ。


『ちょっと!そこの貴女!』


エレノアは聞き覚えのあるセリフと声にうんざりとしながら重い瞳を開いた。



エレノアの前にはステファニー王女が皇太子の瞳の色である真っ赤なドレスに身を包みエレノアの首飾りに手を置いた。


驚いたエレノアは小さく身を避け

『何でしょう?』


ステファニーはエレノアの付ける首飾りを本物と確認したのか驚いたように

『ヴェルヘルトは富裕国なのね?』


大陸の外から帝国に嫁ぐことから、この大陸の情勢を分かって居ないようだ。

『ちょうだい。』


エレノアは予期せぬ言葉に思わず


『え?』


『だから譲って頂きたいの!』


…どうしましょう、こんなアホにまた絡まれたわ。


『これは私が着飾る道具ではなくヴェルヘルトを象徴させるもの。どなたにもお譲りできませんわ。』


ステファニーは酔っているのかまたも


『ならばヴェルヘルトを譲って下さらない?』


…返す言葉が見つからないわ。

『えっと?それは帝国がヴェルヘルトを手に入れたいと?それならば国際問題となりますが?』


『何小難しい事言ってるのよ!』


…何も難しい事はないのですが?

エレノアはついに言葉を失った。


『だからヴェルヘルトに私が嫁ぐの。ウィリアム殿下との真実の愛を貫きたいのよ!』



…?真実の愛。誰と誰の?


『何を仰っておられるのかしら?ステファニー様お酒を飲みすぎてはいらっしゃらないかしら?お水をご用意させましょうか?』


『貴女は政略結婚なのでしょう?愛されない妻。私は愛されたいのよ。』


…意味が分からない。


『政略結婚は貴族でも王族でも常よね?でもねそこから育む愛もあれば、お互い他に愛を求める事もあるの。』



…得意気に語ってるけれど…困ったわね。


『私とウィリアム殿下も他に愛を求めるのよ。』


…。



『何、反論もしないのね?政略結婚だからかしらね。で?譲ってくれるの?ついでにその首飾りも私のものになるわよね?』


…。


『気持ち良さげに語られている所申し訳ないのですが、それは側妃にという事ですか?まさか妾ですか?』

ステファニーは目を見開くとエレノアに掴みかかり


『私を誰だと思ってるの?』


あまりの近距離のため、ステファニーのきつい香水がエレノアの鼻にダメージを与える。


…えっと、ビシャリン公国の公女でしたっけ?



首元が苦しく声にならないエレノアに尚もあろうことがステファニーはエレノアの左頬を打った。その勢いを物語る様にエレノアは軽く1メートルは飛ばされた。

…凄い馬力だわ。

エレノアは頬を押さえる手に視線をやると、血が滲んでいる。事を荒げてはならないと考えたエレノアは黙って立ち上がると

『暴力なんて知性が問われますわよ?』

上からの物言いにステファニーは尚もエレノアに飛び掛かろうとした時、ステファニーは腕を後ろに引かれ動きを封じられた。


『何をしているの?』


言葉こそ穏やかであるがそこには鬼の形相のウィリアムが立っていた。


ウィリアムが手を離すとステファニーは

『ウィリアム殿下!エレノア様が!』


涙を浮かべるステファニーに


『エレノアが何?』


『それが、その…』

ウィリアムを見上げるステファニーは言葉が続かない。


『長くなりそうだね。ゆっくり整理して。』

ステファニーの前から離れエレノアの顔を覗き込む。


『エレノア、どうしたの?』 

ウィリアムが指でエレノアの左唇の血を拭うとステファニーに向き直し


『どうゆう事かな?』


ウィリアムはすぐにテオドールを呼び、皇太子を呼ぶ様に顎をあげた。

『お待ち下さい!』

エレノアの言葉にテオドールは振り返るもウィリアムは尚も顎をあげる。


『ここは穏便に。どうか!』


必死に訴えるエレノアに


『エレノア、そのセリフはこの女が吐くセリフであろう?何故エレノアが必死になるの?』


『今宵はヴェルヘルトが王太子妃を迎えて初めての交流会。その大切な場所をこの様な醜態を曝すは我が国の恥となります。』


『被害者でも?』


『被害者でもです!私達の帰りを待つ者がこの様な醜態を知れば悲しみます。私だって交流会の楽しい思い出が、すべてこの醜態に持って行かれるのは嫌ですわ!』

テオドールはエレノアの訴えに心を鷲掴みにされた気になった。これでこそ国母となられるお方なのだと。だがウィリアムは尚も



『悪いがそれは承服できない。』

テオドールでさえ聞いた事のない強い口調でエレノアに投げかけた。


固まるエレノアに


『エレノアの気持ちは誇りに思うし理解した。だけどね、私はヴェルヘルト王太子だ。私の妻に手を上げ暴言を吐く者を許すわけにはいかない。それにエレノア。私の気持ちを考えてみてくれ。逆の立場であればエレノアだって同じ事をすると私は信じたいけどね?』


押し黙るエレノアに


『必ず素敵な思い出に上書きすると約束しても納得してくれないかな?』

ウィリアムはようやく穏やかな口調でエレノアに問いかけると


『殿下に全てお任せいたします。』

エレノアは俯きながら答えた。


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