愛するということ【完】

裁き

『エレノア、無事で良かった…』

ウィリアムはエレノアな無事を確認すると安堵したように呟いた。


目の前には拘束されているシンシア。

ハインリッヒはため息を付きながらも


『まあ、お騒がせ王女様だけど姫が無事で帰ってきたし、姉妹のイザコザだからね。』

ウィリアムも呆れ果てたように頷くも目の前の側近２人は何故かブルブルと首を振っている。


…？


ウィリアムとハインリッヒは顔を見合わせた。


『殿下、先日帝国でおっしゃいましたね？』


ウィリアムは不機嫌なエレノアの声に押されながら

『何をかな？』


エレノアは真っ直ぐウィリアムを見据え


『国同士での事にはケジメが必要だと。』


怖いくらい美しく問うエレノアに若干の恐怖を覚えながら

『言ったね…』


『私はヴェルヘルトの王太子妃ですね？』


『もちろんだ』


『アミュレットの高々第２王女が私に暴力を振るったのですよ？』


…。


『テオドール、すぐにアミュレット国王を召喚しなさい。そしてケジメをつけさせるです！』


驚く一同。

『待て待て、エレノア君の姉上であろう？』


『それが？』

エレノアの冷たく鋭い視線に慄くエリート達。



『皆さん分かりました？これがエレノアの本性ですわ。末っ子で甘やかされて育てられたもので姉としてお恥ずかしい限り。』


シンシアが得意気に話す。


『昔から人のことなど全く気にもとめませんの。テオドール様はご存知でしょう？求婚にいらした時のエレノアは幼子のように好き勝手で、手に終えませんでしたものね。』


シンシアの話にエレノアは黙ったまま涙を流していた。その姿があまりに美しく誰も声を掛ける事は出来なかった。


『お話しは終わりましたか？

私はアミュレット王女としてとても恥ずかしく思います。お姉様の勝手でヴェルヘルトに迷惑を掛けた事をどう思われますか？どれだけの者が翻弄させられた事か。彼らはこんなくだらない事に力を注ぐ為に日々鍛錬を重ねているのではありません。

アミュレットの王女であるならば潔く責任を取られるべきです。それはお姉様の為では無くアミュレット王国の為に申し上げております。』　


『思い上がるのもいい加減にしなさい！たまたまヴェルヘルト王太子妃になっただけの貴女が。あの時、私が手を上げていたら第２王女である私がここに居たのよ？私がヴェルヘルト王太子妃だったのよ！』



…。



『シンシア王女。貴女に礼を言う。ありがとう。』


ウィリアムは完璧の王子様スマイルでシンシアを見つめるとシンシアは赤くなりウィリアムを柔らかな微笑みで見つめ返す。


…まぢで？嘘だろ？

テオドールは心の声を必死に抑えた。


『貴女が手を上げてくれなかったからこそ、エレノアが私の妻となりヴェルヘルト王太子妃となったのだ。感謝しかないよ。』


…だわな？
テオドールは大きく息を吐いた。

ウィリアムが本音を語るとシンシアは目を見開き呆然とその場に座り込んだ。

…どうして？
シンシアはもぬけの殻となり固まる。



エレノアはシンシアに手を貸す事なく、広間を出て行った。





『で？どうするの？』

ハインリッヒは側近２人に声を掛けた。

『…。』

『…。』


ウィリアムはシンシアの前に身を屈め

『義姉上、お立ち下さい。』

シンシアはウィリアムの柔らかい表情に素直に立ち上がると促された椅子に腰を下ろした。流石はアミュレット王女、立ち居振る舞いはお世辞抜きに美しく見るものを見惚れさせてしまう。


『申し訳ございませんでした。』


小さく声を絞り出すシンシアに

『私はヴェルヘルト王太子として貴女の謝罪を受け入れます。ですが我が国の王太子妃を拉致し暴行を加えた事に付いては責任を求めさせて貰います。申し訳ないがご理解頂きたい。』


深く頭を下げるウィリアムにシンシアは驚きを隠せない。


『何故…。貴方が…。』


ウィリアムは小さく微笑み


『私はエレノアの夫です。このまま貴女を帰せばエレノアは本心として安堵するはずです。でもそれでも彼女はヴェルヘルト王太子妃としてずっと背負わなければなりません。ですからここは何らかのケジメを付けて頂き彼女を救いたいと思うのは夫として当然ではないですか？』


静かに話すウィリアムにシンシアは１筋の涙をこぼし

『ありがとうございます。妹を大切に想って下さり感謝いたします。私もどうかしておりました。どうぞアミュレット国王を召喚し賠償をさせて下さい。国として責任を取らせて下さい。』


『よろしいのですか？』


シンシアは美しく微笑み

『父にどっぷり絞られますわ（笑）』



それからまもなくアミュレット国王が国を上げてヴェルヘルトに謝罪に上がった。

ウィリアムは賠償ではなく、真ん中の王女として欠落している心を癒すよう国王に命じた。実質のお咎めは無しという事だ。それでも国王自らが王女を迎えに来るなど前代未聞の事。ウィリアムはそこを評価し命じたのであった。



シンシアは馬車に乗る前にエレノアの前まで来ると
ヴェルヘルトエリート集団たちも見たことの無い、そしてエレノアでも成し得ない美しいカーテシーを披露すると笑顔で馬車に乗り込んだ。