人質王太子妃【完】

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大陸の安寧【完】

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イングリットはまだ夢心地のまま、帰路につく馬車に揺られていた。

『イングリット、少し休んではどうだ?疲れたであろう。』


アルベルトはイングリットに肩を貸すと優しく頭を撫でた。その手つきは愛に溢れイングリットを極上の眠りへと案内してくれる。子守唄のように優しく語るアルベルトの言葉にイングリットは耳を傾けていた。


『義父上もようやく重い鎧を脱ぐ事が出来て安堵されていたな⋯。長く続いた争いもヴェルニの父上もそうだが義父上も心を痛めながらも国王としての責務を果たされてきたからこそ、我らにこの安寧が託されたのだ。イングリットは言っていたね。バイエルンは争う事しか考えてないって。大義名分も無いって。争う事しか考えてこられなかったのは、この安寧の為。大義名分はあったのだ、しっかりとな。な?イングリット。』


イングリットにとって耳心地良いアルベルトの言葉は最高の睡眠薬と化していた。


⋯早すぎるだろ(笑)


アルベルトは己の肩でスヤスヤと眠る妃を愛おしそうに見つめていた。


長い道のりを経てヴェルニ王国王宮へと入った馬車を出迎えの列がなされている。2人が馬車からおりると前面で出迎えるは第2王子であるサイモン。そしてその婚約者ソフィアであった。



⋯。



⋯。


驚き声を失う2人とは裏腹にソフィアは満面の笑みで微笑んだ。

『おかえりなさいませ。』

2人は目を見開きソフィアを見るも隣のサイモンはにこやかにソフィアを見つめていた。



⋯?


⋯?


夫婦仲良く同じ事を思いながら、列を成す家臣らの歓迎に頷きながら中へと入って行った。すぐさま執務室に戻りアンドレとアレクセイにサイモンについて問いただすべくソファに腰を下ろすと2人を呼ぶ前に渦中の人、サイモンが軽快に執務室にやって来た。


⋯!


驚くアルベルトとサイモンの登場にサッと席を空ける家臣たち。イングリットは定位置でサイモンを見つめている。



『兄上、バイエルン王国はいかがでしたか?次は兄上の番ですからね。バイエルン王国に負けぬようわが国でも盛大に執り行いましょう。』


アルベルトは小さく息を吐くと


『別に競うものでは無いってか、お前どうなってるんだ?ソフィア王女との婚約は破棄するのではないのか?』


サイモンは驚きをみせ、後方に控えるアンドレとアレクセイを見た。


『婚約破棄するって思ってた?』

飛んで来た矢をスムーズに処理するアンドレは
黙って首を横に振るとサイモンは納得の表情でアルベルトを見た。


『びっくりさせないでよ。兄上だけだよ。そんな風に思ってたの。そもそも政略結婚は王族にとって必要不可欠なもの。それから逃げようなんて思わないよ。』



⋯いやいや、泣きついてきたのはお前だろ?



『僕は兄上とは違う。兄上はおっしゃいましたね。』


⋯?

『政略結婚とはそういうものだ。話しが合わぬなら話さなければ良い。容姿が気に入らないなら…見なければ良い。ただのポジションだからな。と。』


⋯!な、なんて事


イングリットは激しくアルベルトを睨みつけるとアルベルトは思わず首を振るも


⋯確かに言った。言ったは言ったが⋯。



サイモンはニヤリと口角を上げると


『だけどね、逃げていてはその先は無い。夫婦となるならばその中で最善を尽くさなければ真の夫婦にはなれないからね。』

『す、素晴らしいわ!流石サイモン殿下。』


嬉しい歓声を上げるのはイングリットを複雑そうな面持ちで見つめるアルベルトは疲れた身体を大きく伸ばした。


『はぁ~まぁお前が良いのであれば構わない。理解したからもう休ませてくれ。私もほとほと疲れてるんだ。』


アルベルトはイングリットの手を取り、執務室を後にした。


それからまもなくサイモンとソフィアの婚約が正式に発表されるとそれに続くようにイングリットの懐妊も発表されヴェルニ王国は一気にお祭りモードとなった。これも長い乱世を越え安寧の世だからこそである。

その礎を築いてこられた王らに国を越え敬意を示すアルベルトとイングリットである。


送りつけ商法によってヴェルニ王国に届けられた離宮の姫はいつしかヴェルニ王国の国母となり、生まれて来る我が子の為に安寧の日々を与えられるよう、アルベルトとイングリットは共に歩み続けているのである。












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