竜と絵描きは世界で一番仲が悪い

mitsuo

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8章

新しい魔法

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 その日の夜。アイたちの家の食卓は、不思議な緊張感に包まれていた。
「お母さん。このイザナの蒸し焼き、すごくおいしいよ!」
「ありがとう。でもね…同じことを三回も言わなくていいんだよ」
「えっ?私、そんなに同じこと言ってた?」
 シェイラは赤くなったアイを見て、にっと笑った。
「本当は、もっと気になることがあるんでしょう?」
 心の奥を完全に見すかされたアイは、苦笑いを浮かべてうなずくしかなかった。
「ねえ、お母さん。魔法にはちがう場所に移動できるものもあるんでしょう?その魔法で、リオンがトトラスさんの所から逃げ出してるなんてことはないのかな」
「瞬転魔法のことね。あの魔法はかかる負担が大きくてね、人間でも一度使うと二・三日は使ってはいけないといわれているの。体の大きな竜にはその負担が特に強いから、リオン君が傷ついているのなら無理だと思うわ」
 最後の可能性もあっさりと消え去ってしまい、アイは大きく肩をおとす。
「ミューイ先生に、八年前のことを教えてもらったのね」
 アイがこの魔法を知った理由はそれしかないと思ったのだろう。シェイラに聞かれて、アイはゆっくりとうなずいた。
 それから二人の会話はとぎれてしまう。本当はもっと大事なことがあるのに、アイにはその勇気がわいてこなかった。イザナの蒸し焼きを口に運び、思わず四回目の「おいしい」を声に出しそうになったところで、シェイラが先に口を開いた。
「アイ、ほかにも言いたいことがあるんでしょう?」
「…うん。ごめんね、お母さん」
 そう言われないと自分の気持ちも伝えられない自分は、やっぱりまだまだ未熟だと思う。それでもアイは顔をあげて、今度はきっぱりと言った。
「私、リオンを助けに行きたい!そのための魔法を教えて!」
「はい、よく言えました」
 シェイラはにっこりと笑い、うなずいた。
「お母さん…許してくれるの?」
「だって、全部分かったんでしょう?それでも行くっていう子を止めることはできないわ」
 その言葉を口にする前に、お母さんは一体どれくらいの気持ちを飲みこんだのだろう…そんなことを考えたら、アイはすごく申しわけない気持ちになった。
「それじゃあ、すぐに儀式の準備をはじめないとね」
「えっ、儀式?」
 アイはぽかんと口を開けているアイをしげしげとみまわし、やがてぽんと手をたたいた。
「よしっ、髪の毛にしようか。かなり伸びちゃってるし」
 もしかしたらこれは、シェイラのせめてもの逆襲だったのかもしれない。だけどアイはこの一方的な展開に、ぱちぱちとまばたきをくり返すばかりだった。

 新しい魔法をさずける儀式は、夜の空に朝の光がまじわる時間に行うことになっているという。アイとシェイラはその時が来るのを待って、儀式を行うための部屋に入った。
 アイの家の中でもここだけは特別で、いつでもおごそかな雰囲気に包まれていた。部屋の奥には祭壇と小さな石室があり、石室の四角い穴の中で聖なる火が静かにゆれている。
 シェイラは火の前にひざまずき、うやうやしく右手をかざして不思議な言葉をとなえた。その言葉は村に古くから伝わるもので、まじないごとをする時だけもちいられるそうだ。
 それから左手に持っていた小さなたいまつを、石室の穴に入れる。ゆっくりたいまつを引くと、燃えうつった火が部屋の中をオレンジ色の光で包んでいった。
「アイ、お水をおけにそそいでちょうだい」
 祭壇の下には、黒い御影石でできた水おけが置かれている。シェイラの言葉にうなずいたアイは持っていたびんの口をかたむけ、その中に水をそそいだ。 
 さざなみがおさまると、水面に髪の短い女の子の顔が浮かびあがる。それが自分だと気がつくまでに、アイは少し時間がかかってしまった。
「お母さん…髪、切りすぎじゃない?」
「しかたないでしょう。魔法を二つも使うようにするんだから、ちょっとくらいのささげ物じゃたりないもの。大丈夫、ショートヘアも似合ってるわよ」
 シェイラはてきぱきと作業をすすめながら、さらりとこたえる。アイはまだ不満だったけれど、お願いしたのは自分だからしかたがないとあきらめた。
「知らなかったよ。まさか魔法を覚えるには、儀式を受けないといけなかったなんて」
「そっか。前に魔法をさずかった時はまだ小さかったから、忘れちゃったのね」
「そうなんだ。じゃあさ…お父さんが聖堂に行った時も、こんな儀式を受けたの?」
 ミューイに見せてもらった八年前の出来事を思い出して、アイはたずねた。
「そうよ。お父さんは魔法使いの血が流れているわけでもないし、契約には大きな対価が必要だったの。結局、持っていた絵の道具をすべてささげないといけなかったわ」
 話しながらゆっくり部屋を見まわすシェイラのまなざしは、どこかなつかしそうだった。
「さて…用意ができたわ。アイも水鏡に向かいなさい」
 シェイラに言われて、アイは御影石に顔を近づけた。 
 シェイラが祭壇に向かって不思議な言葉で語りかけている間、アイはずっと水鏡に自分の顔をうつしこんでいた。こうすることで精霊がアイの顔を覚えてくれるそうだ。
 最後にささげ物の髪が火の中に入れられると、炎が金色の光になって部屋の中に広がった。
 シェイラは祭壇の上の火をふき消すと、アイに儀式の終わりを伝えた。
「これであなたは新しく、二つの魔法が使えるようになったわ。離れた場所に移動したい時は、その場所を念じながら『ボルブ・レーティア』ととなえること。そして姿を消したい時には『クレイド・ゼダ』ととなえること。それに『フィーロス・イラード』の呪文だって、前よりもっと強い風が起こせるようにお願いしておいたから」
「本当?お母さん、ありがとう!」
「お礼なら精霊たちに言いなさい。それより、すぐにリオン君の所に行きたいんでしょ?」
 シェイラはそう言うと御影石のおけに近づき、水面に手を伸ばした。
「ルーレス・ロロ」
 水面がぼんやりと輝き、ここではない場所が浮かびあがる。シェイラが魔法を使って、リオンのいる場所をうつし出したのだ。アイも近づいて水面をのぞきこむ。
 そこにうつっていたのは、フルムド・エムザの格納庫の中だった。
 シェイラが右手をゆっくり動かすと、水鏡の映像がその中をぐるりと見回すように動く。そこに突然うつりこんだリオンの姿を見て、アイは思わず悲鳴をあげた。
「大変だ!私、今すぐ行くね!リオンを助けないと」
「ええ。気をつけてね…本当に」
 シェイラの声が急に震えだしたので、アイの目にも涙がこみあげてくる。それをこらえてにっこりうなずくと、服のししゅうに右手をあてて呪文をとなえた。
「ボルブ・レーティア」
 白い光がアイの体をつつんでいく。うっすらと朝の光がさしこんできた部屋の景色も、笑いながら大粒の涙をこぼしたシェイラの顔も、すぐに見えなくなった。
 次にアイの目にうつったのは、わずかな光にてらされた不気味な室内。そして巨大な鉄の柱にしばりつけられた、あまりにも無惨な姿のリオンだった。
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