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拓真の怒り②
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拓真は事務員の元に向かうと、かすみの担当医師が話があるとのことだった。
「花園かすみさんの担当医師の村上と申します、春日部拓真さんはご家族とのことでよろしいですか」
「はい、結婚の相手ですから」
「そうですか、ではお話しましょう、花園さんの病状なんですが」
拓真はかすみの余命でも告げられるのかと緊張が走った。
「三年前に子宮全摘出手術を行ったのはご存知ですよね」
「はい」
「お子様も難しいと言うこともご承知頂いていますね」
「はい」
「今回再発の疑いが見つかりました、卵巣です」
「また手術すれば助かるんですよね」
担当医師は即答はしなかった。
「子宮は赤ちゃんが育つ部屋みたいなものです、卵巣がなくなると卵子を、
作り出すことが出来ません、つまりお子様は無理だと言うことになります」
「俺は子供が欲しいと言う、強い要求はありません、かすみに生きていてほしいんです」
「でも女性にとっては大事な選択です、よく話し合ってください」
命より大事な選択なんてあるわけないだろう。
拓真は病室に戻った。
「拓真さん、ごめんなさい、あのう……」
「何を謝ってるんだ」
「え~っと、拓真さんが嫌だと思ってることを、私がしちゃったんですよね」
「しちゃったの?」
「あのう、何を?」
「俺以外の男に抱かれたの?」
「そんなことしてません」
「なら、俺が嫌だと思ってることかすみはしてないんじゃないかな」
「してないです」
拓真はニヤッと笑った。
「大館、席を外してくれ」
「かしこまりました」
病室に拓真とかすみだけになった。
「かすみ、大事な話がある」
かすみはどんな言葉が拓真の口から飛び出すのかハラハラ、ドキドキだった。
「俺に話していない大事なことあるだろう」
かすみはすぐにわかった。
子宮全摘出手術のことだ。
そして、かすみは意を決して話し始めた。
「どうして黙ってたんだ」
「分かりません」
拓真は一枚の紙をかすみの前に広げた。
それは拓真のサイン済みの婚姻届だった。
「これは……やっぱり、梨花さんと結婚するんですね」
「何言ってるんだ、ここにサインするのはかすみだ」
かすみはびっくりした表情を見せた。
「私ですか」
「かすみ、俺ははじめから結婚しようって愛を伝えてきた、多分、
かすみは子供が生めないからと気にしているようだが、俺は子供に強い
執着はない、確かに春日部コーポレーションや新堂組のことを考えると、
俺の血を引いた子供はいた方がいいが、そのためにかすみを諦めるのなら、
俺は子供はいらない」
「でも、もしかして人生を共にずっと一緒に生きることが出来ないかも知れません」
かすみは涙が溢れて止まらなかった。
「それを言うなら、俺はいつも死と隣り合わせに生きている、俺の方こそ、
かすみより先にあの世に行ってしまうかもしれない」
「そんなの嫌です」
「俺だって嫌だよ、だから少しでも一緒にいられる時間を大切にしたいんだ」
拓真はかすみを抱きしめた。
「かすみ、今回卵巣に腫瘍が見つかったそうだ、良性かもしれないが、卵巣を摘出しておいた方がいいと先生は言っていた、手術受けるだろ」
「卵巣摘出?癌が再発したんですか」
「用心に越したことはない」
「私、子宮がなくて、その上卵巣まで取ったら、もう女じゃありません」
「そんなことはない、命の方が大切だろ?」
「拓真さんは男だからそんなこと言えるんです、今でも私は女として半人前なのに、
これ以上私から女の部分を取り除いて、拓真さんは私を女としてみられますか、
もしかして私は死んじゃうんですか、だから……」
かすみは泣きじゃくっていた。
俺は軽率だったのかもしれない。
拓真はかすみと早く結婚したかった。
剣城がかすみを狙っている。
しかも、かすみにとって人生の蝋燭は消えかかっているとしたら、
一分一秒が惜しい。
拓真は事を急ぎすぎた。
かすみの気持ちを置き去りにして、拓真自身ばかり先に進んでしまった。
なんて愚かな、なんて自分勝手なんだと悔いた。
「かすみ、ごめん、でもお前と共に人生を歩んでいきたい気持ちは嘘じゃない」
「ごめんなさい、一人にしてください」
かすみはタオルケットを頭から被り、泣いていた。
拓真は婚姻届を病室の引き出しに閉まって、病室を後にした。
「花園かすみさんの担当医師の村上と申します、春日部拓真さんはご家族とのことでよろしいですか」
「はい、結婚の相手ですから」
「そうですか、ではお話しましょう、花園さんの病状なんですが」
拓真はかすみの余命でも告げられるのかと緊張が走った。
「三年前に子宮全摘出手術を行ったのはご存知ですよね」
「はい」
「お子様も難しいと言うこともご承知頂いていますね」
「はい」
「今回再発の疑いが見つかりました、卵巣です」
「また手術すれば助かるんですよね」
担当医師は即答はしなかった。
「子宮は赤ちゃんが育つ部屋みたいなものです、卵巣がなくなると卵子を、
作り出すことが出来ません、つまりお子様は無理だと言うことになります」
「俺は子供が欲しいと言う、強い要求はありません、かすみに生きていてほしいんです」
「でも女性にとっては大事な選択です、よく話し合ってください」
命より大事な選択なんてあるわけないだろう。
拓真は病室に戻った。
「拓真さん、ごめんなさい、あのう……」
「何を謝ってるんだ」
「え~っと、拓真さんが嫌だと思ってることを、私がしちゃったんですよね」
「しちゃったの?」
「あのう、何を?」
「俺以外の男に抱かれたの?」
「そんなことしてません」
「なら、俺が嫌だと思ってることかすみはしてないんじゃないかな」
「してないです」
拓真はニヤッと笑った。
「大館、席を外してくれ」
「かしこまりました」
病室に拓真とかすみだけになった。
「かすみ、大事な話がある」
かすみはどんな言葉が拓真の口から飛び出すのかハラハラ、ドキドキだった。
「俺に話していない大事なことあるだろう」
かすみはすぐにわかった。
子宮全摘出手術のことだ。
そして、かすみは意を決して話し始めた。
「どうして黙ってたんだ」
「分かりません」
拓真は一枚の紙をかすみの前に広げた。
それは拓真のサイン済みの婚姻届だった。
「これは……やっぱり、梨花さんと結婚するんですね」
「何言ってるんだ、ここにサインするのはかすみだ」
かすみはびっくりした表情を見せた。
「私ですか」
「かすみ、俺ははじめから結婚しようって愛を伝えてきた、多分、
かすみは子供が生めないからと気にしているようだが、俺は子供に強い
執着はない、確かに春日部コーポレーションや新堂組のことを考えると、
俺の血を引いた子供はいた方がいいが、そのためにかすみを諦めるのなら、
俺は子供はいらない」
「でも、もしかして人生を共にずっと一緒に生きることが出来ないかも知れません」
かすみは涙が溢れて止まらなかった。
「それを言うなら、俺はいつも死と隣り合わせに生きている、俺の方こそ、
かすみより先にあの世に行ってしまうかもしれない」
「そんなの嫌です」
「俺だって嫌だよ、だから少しでも一緒にいられる時間を大切にしたいんだ」
拓真はかすみを抱きしめた。
「かすみ、今回卵巣に腫瘍が見つかったそうだ、良性かもしれないが、卵巣を摘出しておいた方がいいと先生は言っていた、手術受けるだろ」
「卵巣摘出?癌が再発したんですか」
「用心に越したことはない」
「私、子宮がなくて、その上卵巣まで取ったら、もう女じゃありません」
「そんなことはない、命の方が大切だろ?」
「拓真さんは男だからそんなこと言えるんです、今でも私は女として半人前なのに、
これ以上私から女の部分を取り除いて、拓真さんは私を女としてみられますか、
もしかして私は死んじゃうんですか、だから……」
かすみは泣きじゃくっていた。
俺は軽率だったのかもしれない。
拓真はかすみと早く結婚したかった。
剣城がかすみを狙っている。
しかも、かすみにとって人生の蝋燭は消えかかっているとしたら、
一分一秒が惜しい。
拓真は事を急ぎすぎた。
かすみの気持ちを置き去りにして、拓真自身ばかり先に進んでしまった。
なんて愚かな、なんて自分勝手なんだと悔いた。
「かすみ、ごめん、でもお前と共に人生を歩んでいきたい気持ちは嘘じゃない」
「ごめんなさい、一人にしてください」
かすみはタオルケットを頭から被り、泣いていた。
拓真は婚姻届を病室の引き出しに閉まって、病室を後にした。
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