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第十六章 ニューヨークの熱い夜

亜紀、手術してもらい日本へ帰ろう

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亜紀は、ニューヨークに着くと病気だと言う事が嘘のように気分が良かった。

十日間を思い出深くする為に、訪れる場所を二人で決めた。

「亜紀、以前行った場所もいいが、新たな場所を発掘するのもいいと思うぞ」

「そうですね、セントラルパークのベセスダ噴水ひろ広場に行ってみたいです」

「いいなあ、それから?」

「ハイライン、ここは廃線となったその跡地が1.6kmの空中線道公園なんですって」


「亜紀は広場とか公園とか好きだよな」

「はい、自然に親しむみたいなところが好きです、あっ、すみません、私の好みばかり言ってしまって」

「大丈夫だよ、俺も広場とか公園とか好きだから」

「そうですか、良かった」

「なあ、亜紀、この十日間の旅行で子供作ろうよ」

「えっ?」

亜紀は頬を真っ赤に染めて恥ずかしそうに俺を見つめた。

「もしかして、もう授かってるかもしれないけど」

「どう言う事ですか」

「ニューヨークに出発の前の夜、実は避妊してないんだ」

「そうなんですか、全然わかりませんでした」

「そうだろうな、だって亜紀はずっと感じてくれてたもんな、そんな余裕なかっただろ?」

「もう、理樹さんったら」

このままこの時間が止まればいいと思っていた。

でも残酷な運命は俺と亜紀の時間を奪った。

亜紀は急に具合が悪くなり、滝本先生に言われたニューヨークの病院へ連絡をした。

滝本先生は前もって大学時代の親友、北条亘先生に連絡しておいてくれた。

マンハッタンにある総合病院へ亜紀を連れて行った。

「はじめてお目にかかります、東條ホールディングス社長の東條理樹と申します」

「はじめまして、当病院の外科医、北条亘と申します、患者さんは奥様ですか」

「はい、東條亜紀と申します」

「滝本からカルテのデーターを送って貰っています、早速入院して頂き、診察致します」

「よろしくお願いします」

それからマンハッタンの総合病院に入院する事になった。

まもなくして俺は北条先生に呼ばれた。

「日本ですぐに手術を受けなかったのには、何か理由があるのでしょうか」

「はい、滝本先生に腫瘍が難しい場所にあるので、術後麻痺が現れる可能性があると聞きました、亜紀の希望で手術の前にニューヨークに二人で来たいとの事だったので、わがままを聞き入れて貰った次第です」

「そうでしたか」

「もう、旅行は続けられませんか」

「本来ならすぐ手術をする状況です、こちらで手術をして経過を見て日本に転院させるのがベストだと思われます」

「わかりました」

亜紀は北条先生の執刀の元手術を受ける事になった。

「理樹さん、ごめんなさい、私のわがままのせいで大変な事になってしまって、すごい迷惑をかけてしまいました」

「そんな事ないよ、手術して貰って、早く日本に帰ろう」

「はい」

でも亜紀は不安と麻痺が残るかもしれない恐怖に、精神的に弱っていた。

手術の前の日、俺と亜紀はニューヨークではじめて出会った時の話をした。

「亜紀は恋人に振られて傷心旅行でニューヨークに来たと言っていたが、どうしてニューヨークを選んだんだ?」

「友達に冬のニューヨークは最高だからと勧められたんです」

「そうか、もし亜紀がニューヨークを選ばなかったら、俺達は出会えていないな」

「本当にそうですね」

「それに夜、ふらふら出歩くなんて、無謀にも程があるぞ」

「反省しています」

「それもなかったら、出会えていないな」

「そうですね」
亜紀はちょっと笑顔になったが、不安な気持ちはありありと感じられた。

そのうち、亜紀は目にいっぱいの涙を溜めて俺に抱きついて来た。
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