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第八章 記憶が消えた雅也

山辺との過去は知られたくない

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「お前、妊娠してるのか、城之内の子供か」

「違います」

葉月は目にいっぱいの涙を溜めて訴えた。

「すまん、泣くなよ」

冨樫は葉月の頬の涙を拭った。

俯いていた葉月の頬を挟んで、上を向かせて、そっとキスをした。

「妊娠のこと男に話したのか」

葉月は首を横に振った。

「なぜ話さないんだ」

葉月は気持ちがいっぱいになって、溢れ出してワンワン泣き出した。

「おい、おい、泣くなよ」

冨樫はギュッと葉月を抱きしめた。

葉月も冨樫の首に腕を回してギュッと抱きしめた。

「俺が葉月を守ってやる、安心しろ」

「でも、麗美さんが……」

「麗美がどうしたんだ」

葉月はつい麗美との約束を言いかけて、口をつぐんだ。

「麗美に何か言われたのか」




葉月は自分の気持ちをどうしていいかわからなかった。

「なあ、葉月、俺はお前との記憶がない、いつお前を見つけて口説いたのか、
お前がどんな男と一緒にいて、俺はどんなことを思い、どんな行動をとったか、
全く分からねえ、ただ一つ言えることは、麗美を側におくつもりはねえ、だから、
何も気にするな」

「麗美さんのことだけじゃないんです」

「ほかに何があるんだ」

葉月はドアのノブに手をかけた。

「葉月行くな」

冨樫は葉月を背中から抱きしめた。

そして耳元で囁いた。

「俺が腹の赤ん坊の父親になってやる、だから全て俺に委ねろ」

冨樫は葉月を自分の方に向かせて優しいキスをした。

「葉月、結婚しよう」

「でも……」

「俺はお前になんかわかんねえけど、すっげえ惹かれてる、誰にも渡したくねえ」

「冨樫さん」

「決まりな、たった今から葉月は俺のものだ」

葉月は頷いた。

この日の夜はくっついて眠った。



次の日の朝、葉月は隣ですやすやと眠っている冨樫がとても愛おしかった。

お腹に手を当てて、この子はあなたの子供ですって言いたかった。

でも、山辺が退院してきたら、私は怯えながら生きていかないといけない。

そんな厄介ごとを冨樫さんに追わせるわけにいかない。

葉月はどこまで行っても、山辺から逃れられないと思うと、冨樫と幸せな家庭を築くなんて

夢のまた夢だろうと思っていた。

起き上がって、キッチンで食事の支度を始めた。

背中から、冨樫が葉月を抱きしめてきた。

「葉月、おはよう」

「おはようございます、今朝食出来ますから」

「ああ」

「冨樫さん、病院へ戻らないといけないんじゃないですか」

「葉月の顔見てる方が早く治るよ」

それから二人で食事を済ませた。

葉月も安定期に入り、つわりもだいぶ収まってきた。

今は冨樫に大事にされて、幸せだが、山辺が退院してきたらと思うと、

気が気ではない。

それに、記憶が戻ったら、私の淫乱な過去も、明るみに出る。

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