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第五章 若頭 工藤飛鳥

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その頃、私はあてもなく途方に暮れた。

なんでこんなことになっちゃったの?

三十六年間、お兄様とお父様に守られて、過ごしてきた。

優しいお兄様は仕事で渡米して、帰ってきたら別人だった。

薬のためだけれど、私に対する義理の関係に不満を抱いていたのだろう。

義兄に犯されるなんて、想像出来ないことだった。

それによってお父様の会社は倒産した。

お父様も別人のようになった。

お金をむしる鬼のようだった。

私は祐志さんと知り合って、はじめてを経験した。

恋人の振りを頼んだのに、私を愛しているとプロポーズをしてくれた。

こんな私を受け入れようとしてくれるなんて、信じられない。

祐志さんの優しさに甘えてはいけない。

一人でたくましく生きていかなくちゃ。

そんな時、追い討ちをかけるように私に悲劇が襲いかかった。

いきなり、黒のワゴン車が私の横に停まり、私はあっという間に車に押し込まれた。

口にハンカチを当てられ、意識が遠のいた。

何が起きたの。




私はしばらくすると、意識が戻った。

ロープで拘束されて、身動き取れない状態だった。

「やっとお目覚めかい」

私にそう声をかけたのは、絶対この人ヤクザだとわかる男性だった。

「深海まゆさんだな、手荒なことをして悪いな、あんたの親父さんの借金を返してもらいたい」

「父の借金?」

「ざっと一億円ってとこかな」

「一億円?」

「あんたの親父さん、深海健一郎は金を借りて返さないんだぜ、それはダメだろう」

お父様は私にお金を借りにきた。

私があてに出来ないとわかって、他の人に借りたんだろう。

返すあてなどないから、逃げてしまったんだ。

「親父さんの代わりに金を返してくんないかな」

「私はそんな大金持っていません」

「男いるだろう、男に払ってもらえよ」

「そんな人はいません」

「服部総合病院の外科医、服部祐志はお前の恋人だろう」

なんで、そんなことまで知ってるの?




「なんでそんなことまで知ってるの?って顔してるぜ」

嘘、この人、心が読めるの?

「こっちは全て調べ済みなんだよ」

「祐志さんは、私の恋人ではありません」

「そうか、じゃあ、この身体で払ってもらおうかな」

「あなたばかり、私のこと調べて、私にもあなたのこと知る権利あると思うんですが」

「おお、それは失礼したな、自己紹介まだだったよな、俺は工藤組若頭、工藤飛鳥だ」

やっぱりヤクザなんだ。

と言うことは、お父様が借りたのは闇金。

つまりほとんどが利子だろう。

「元本はいくらですか」

「はあ?元本?そんなの知らねえよ、とにかく多額の借金ってことだ、お前を品定めしてやる、お前ら、表に出てろ」

若頭の指示で周りの男達はドアの外に出た。

「さてと」

若頭、工藤飛鳥は私に荒々しいキスをした。

身動き取れない私は受け入れるしかなかった。

首筋に工藤飛鳥の唇が這う。

頭がくらくらしてきて、お兄様に押さえつけられた記憶が蘇った。

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