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11. シルベスカ公爵家
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「ユリアンナは今日も部屋に閉じこもっているのか?」
「左様でございます」
シルベスカ公爵は執務室の豪奢な椅子に座り、執務の手を止めることなく侍女の報告を聞いている。
「古屋敷でウォーム家の末息子に魔法を習っていたかと思えば………それも数回で飽きてしまい、今度は引き篭もりか」
ユリアンナはこの1年間、きっかり週3回古屋敷に通っているが、オズワルドから〝認識阻害〟と〝幻影〟魔法を習ってからは、出かけている時間は魔法で部屋にいるように偽っている。
自分の動向をできるだけ家族に知られないようにするためである。
「不定期でお声かけしておりますがいつもお部屋におられます。特に何もなさっていないようです」
この侍女はユリアンナを監視する目的で付けられている専属侍女である。
ユリアンナが問題行動を起こしていないか、逐一シルベスカ公爵に報告している。
この一年、ユリアンナは使用人に向けて癇癪を起こしていないし、王宮主催の社交場以外には出ず、アレックスの婚約者として仕方なく出なければならない場合にも問題を起こさなかった。
それどころか、実はシルベスカ公爵が権力で捩じ込むつもりだったゴールドローズ学園にも自力で合格していたのだが、シルベスカ公爵はそう聞いても「学園関係者が公爵家に忖度したのであろう」とまともに受け取らなかった。
つまり、この一年でどれだけユリアンナが心を入れ替えて素行を改善しようが、シルベスカ公爵のユリアンナに対する態度は全く変わらなかったのである。
「最近は気味が悪いほど大人しいが……どんな魂胆があるにせよ、第二王子に嫁ぐまで大人しくしてればそれで良い」
シルベスカ公爵は吐き捨てるようにそう言うと、片手を払うような仕草をして侍女を部屋から追い出した。
◇
シルベスカ公爵家の食堂には家族用の食堂と言えども30人は座れるのではないかという大きな一枚板のテーブルがあり、この一家は余程のことがない限りは必ず晩餐を共にする。
ただし、一般的な仲の良い家族のような会話は一切ない。
シルベスカ公爵にとって、晩餐の時間すら家族を監視するための時間なのだ。
「……ユリアンナは最近王宮に上がっていないそうだが、第二王子殿下とはちゃんと交流してるんだろうな?」
少しもユリアンナに視線を向けることなく、食事をしながらシルベスカ公爵が話しかける。
「ええ。学園に入れば嫌でも毎日顔を合わせるのですし、定例のお茶会は中止いたしましたの。手紙のやり取りはしておりますので問題はありませんわ」
ユリアンナも少しも父に視線を向けることなく、涼しい顔で答える。
この一年でアレックスと手紙をやりとりしたのは、お互いの誕生日と王室行事の形式的な招待の3回のみ。
どう考えても良好な関係とは言い難いが、手紙のやり取りをしたというのは全くの嘘ではない。
「お前、珍しく魔法を習ったのにすぐ辞めてしまったそうだな。何をやってもダメな奴だ」
父とよく似た感情の見えない表情で兄のアーベルが口を開く。
非難するような口調は特別怒っているわけではなく、これが彼の常である。
「……興味本位で始めましたけど、よくよく考えると王子妃になるのに魔法など必要ないかと思いまして」
ユリアンナが冷静に返すとアーベルは少しだけ眉を寄せたが、何も言い返さなかった。
母はこの家族の殺伐としたやり取りをチラリと横目で見ながら、黙って料理を口に運んでいる。
この母は滅多に言葉を発することはないので、ユリアンナや家族に対してどんな感情を持っているのか全く窺い知れない。
「……最近は部屋に引き篭もっているそうだが、卒業するまではそのまま大人しくしておけ。お前は王家に嫁ぐしか価値のない人間だ。もし破談になればお前の価値など塵芥も同然なのだからな。それを肝に銘じろ」
シルベスカ公爵はそう言うと、いよいよユリアンナから興味を失って食事もそこそこに席を立つ。
公爵に続いて母とアーベルも席を立ち、広い食堂にユリアンナだけが取り残される。
つい一年前までは、家族に愛されたいユリアンナが一生懸命父や兄に話しかけていたため、もう少し騒がしい食卓だった。
しかし前世の記憶が戻ってからは、時々ボソボソと会話をする以外は全く音がしなくなった。
さすが公爵家の人間だけあって皆テーブルマナーが完璧なため、食事をするのに食器や咀嚼の音を一切立てない。
そのため給仕をする使用人も音を立てないよう細心の注意を払い、壁際に待機している侍従が衣擦れの音に冷や汗をかくほど緊迫した時間である。
ユリアンナはまるで初めから1人で食事をしていたようにゆっくりと料理を堪能し、きっちりデザートをいただいてから優雅に席を立って部屋へ戻った。
「左様でございます」
シルベスカ公爵は執務室の豪奢な椅子に座り、執務の手を止めることなく侍女の報告を聞いている。
「古屋敷でウォーム家の末息子に魔法を習っていたかと思えば………それも数回で飽きてしまい、今度は引き篭もりか」
ユリアンナはこの1年間、きっかり週3回古屋敷に通っているが、オズワルドから〝認識阻害〟と〝幻影〟魔法を習ってからは、出かけている時間は魔法で部屋にいるように偽っている。
自分の動向をできるだけ家族に知られないようにするためである。
「不定期でお声かけしておりますがいつもお部屋におられます。特に何もなさっていないようです」
この侍女はユリアンナを監視する目的で付けられている専属侍女である。
ユリアンナが問題行動を起こしていないか、逐一シルベスカ公爵に報告している。
この一年、ユリアンナは使用人に向けて癇癪を起こしていないし、王宮主催の社交場以外には出ず、アレックスの婚約者として仕方なく出なければならない場合にも問題を起こさなかった。
それどころか、実はシルベスカ公爵が権力で捩じ込むつもりだったゴールドローズ学園にも自力で合格していたのだが、シルベスカ公爵はそう聞いても「学園関係者が公爵家に忖度したのであろう」とまともに受け取らなかった。
つまり、この一年でどれだけユリアンナが心を入れ替えて素行を改善しようが、シルベスカ公爵のユリアンナに対する態度は全く変わらなかったのである。
「最近は気味が悪いほど大人しいが……どんな魂胆があるにせよ、第二王子に嫁ぐまで大人しくしてればそれで良い」
シルベスカ公爵は吐き捨てるようにそう言うと、片手を払うような仕草をして侍女を部屋から追い出した。
◇
シルベスカ公爵家の食堂には家族用の食堂と言えども30人は座れるのではないかという大きな一枚板のテーブルがあり、この一家は余程のことがない限りは必ず晩餐を共にする。
ただし、一般的な仲の良い家族のような会話は一切ない。
シルベスカ公爵にとって、晩餐の時間すら家族を監視するための時間なのだ。
「……ユリアンナは最近王宮に上がっていないそうだが、第二王子殿下とはちゃんと交流してるんだろうな?」
少しもユリアンナに視線を向けることなく、食事をしながらシルベスカ公爵が話しかける。
「ええ。学園に入れば嫌でも毎日顔を合わせるのですし、定例のお茶会は中止いたしましたの。手紙のやり取りはしておりますので問題はありませんわ」
ユリアンナも少しも父に視線を向けることなく、涼しい顔で答える。
この一年でアレックスと手紙をやりとりしたのは、お互いの誕生日と王室行事の形式的な招待の3回のみ。
どう考えても良好な関係とは言い難いが、手紙のやり取りをしたというのは全くの嘘ではない。
「お前、珍しく魔法を習ったのにすぐ辞めてしまったそうだな。何をやってもダメな奴だ」
父とよく似た感情の見えない表情で兄のアーベルが口を開く。
非難するような口調は特別怒っているわけではなく、これが彼の常である。
「……興味本位で始めましたけど、よくよく考えると王子妃になるのに魔法など必要ないかと思いまして」
ユリアンナが冷静に返すとアーベルは少しだけ眉を寄せたが、何も言い返さなかった。
母はこの家族の殺伐としたやり取りをチラリと横目で見ながら、黙って料理を口に運んでいる。
この母は滅多に言葉を発することはないので、ユリアンナや家族に対してどんな感情を持っているのか全く窺い知れない。
「……最近は部屋に引き篭もっているそうだが、卒業するまではそのまま大人しくしておけ。お前は王家に嫁ぐしか価値のない人間だ。もし破談になればお前の価値など塵芥も同然なのだからな。それを肝に銘じろ」
シルベスカ公爵はそう言うと、いよいよユリアンナから興味を失って食事もそこそこに席を立つ。
公爵に続いて母とアーベルも席を立ち、広い食堂にユリアンナだけが取り残される。
つい一年前までは、家族に愛されたいユリアンナが一生懸命父や兄に話しかけていたため、もう少し騒がしい食卓だった。
しかし前世の記憶が戻ってからは、時々ボソボソと会話をする以外は全く音がしなくなった。
さすが公爵家の人間だけあって皆テーブルマナーが完璧なため、食事をするのに食器や咀嚼の音を一切立てない。
そのため給仕をする使用人も音を立てないよう細心の注意を払い、壁際に待機している侍従が衣擦れの音に冷や汗をかくほど緊迫した時間である。
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