聖女様に貴方の子を妊娠しましたと身に覚えがないことを言われて結婚するよう迫られたのでもふもふな魔獣と旅にでることにした

葉柚

文字の大きさ
27 / 72

第27話

しおりを挟む

 

 

「……そう、マリルリが私を探しているのね。」

 セレスティアは王都に忍ばせている魔獣から聖女マリルリについての報告を受けていた。

 その報告では、聖女マリルリがセレスティアを探しているという。ヒューレッドを匿っているのが、セレスティアではないかと言うのだ。ヒューレッドを探すために、セレスティアを探すとマリルリは言っているようだ。

 なにがどうなって、マリルリがセレスティアに目をつけたのかセレスティアにはわからなかった。だが、マリルリの思っている通り、セレスティアがヒューレッドを匿っているのは確かだ。

「……なぜ、私に行きついたのでしょうか。マリルリの感ですかねぇ。以前から異様に勘の鋭い方でしたから。」

 セレスティアは困ったように首を傾げる。

 せっかくヒューレッドを保護したというのに、このままヒューレッドがセレスティアと一緒にいると、ヒューレッドまでマリルリに見つかってしまう。

「もう少しだけヒューレッドさんの成長と、モフモフの成長を見守っていたかったのですが、ね。仕方ありませんねぇ。」

 ヒューレッドとモフモフだけで旅にでるにはまだ早いかもしれない。まだ、モフモフとヒューレッドが会話ができそうにないからだ。

 最低でもモフモフとヒューレッドが会話ができるようになるまでは一ヶ月が必要だとセレスティアは思っていた。その間だけでも、ヒューレッドを匿っておこうと思っていたのだ。

 だが、マリルリはその異常なほどの感の良さで、セレスティアがヒューレッドを匿っているのではないかと確信しているようなのだ。

 セレスティアは森に隠れるように住んでいるが、森に住んでいることを隠しているわけではない。時々、街の人々に家まで品物を届けてもらうこともあるし、街に出かけた際に親しく会話を交わすものもいる。

 つまり、人海戦術を使えばヒューレッドよりもセレスティアの方が見つかりやすいだろう。なにより、セレスティアの髪は真っ白で、肌も真っ白なうえに、目だけが赤いのだから。ヒューレッドの眩いばかりの金髪もとても目立つが、それでもセレスティアほどではない。

 それに街の人間は知っている人はセレスティアの居場所を知っているのだ。聖女であるマリルリがセレスティアを探していると言えば、聖女に心酔している街の人間のことだ。なんの疑問も持たずに、セレスティアの居場所を教えてしまうだろう。

「ヒューレッドさんを早急にここから旅立たせる必要がありますね。せめて、モフモフと会話ができればよかったのですが……。」

 セレスティアはモフモフとヒューレッドが会話ができていないことが、心配だった。モフモフとヒューレッドは意思疎通ができないのだ。旅に出るとなるとこれが問題になってくるかもしれない。

 だが、マリルリは思い立ったら躊躇なくすぐに動くだろう。つまり、セレスティアが見つかるのも時間の問題だ。

 セレスティアが見つかるよりも早く、ヒューレッドをここから出て行かせなければならない。

 セレスティアは思案しながらも、家の中に入るとちょうどヒューレッドがモフモフと初めての会話ができた瞬間だった。

 セレスティアは安堵した。

 そして、ヒューレッドに告げる。ここから出て行くようにと。

 セレスティアはヒューレッドの戸惑う声を無視して、転移の魔法を使用した。

「さよなら。ヒューレッドさん。どうか、お元気で。」

 誰にも聞こえないように小さく呟いたセレスティアの目からは僅かな雫が落ちた。

 

 それから数刻もしないうちに、聖女マリルリがセレスティアの元にやってきたのだった。

 


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

処理中です...