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第27話
しおりを挟む「……そう、マリルリが私を探しているのね。」
セレスティアは王都に忍ばせている魔獣から聖女マリルリについての報告を受けていた。
その報告では、聖女マリルリがセレスティアを探しているという。ヒューレッドを匿っているのが、セレスティアではないかと言うのだ。ヒューレッドを探すために、セレスティアを探すとマリルリは言っているようだ。
なにがどうなって、マリルリがセレスティアに目をつけたのかセレスティアにはわからなかった。だが、マリルリの思っている通り、セレスティアがヒューレッドを匿っているのは確かだ。
「……なぜ、私に行きついたのでしょうか。マリルリの感ですかねぇ。以前から異様に勘の鋭い方でしたから。」
セレスティアは困ったように首を傾げる。
せっかくヒューレッドを保護したというのに、このままヒューレッドがセレスティアと一緒にいると、ヒューレッドまでマリルリに見つかってしまう。
「もう少しだけヒューレッドさんの成長と、モフモフの成長を見守っていたかったのですが、ね。仕方ありませんねぇ。」
ヒューレッドとモフモフだけで旅にでるにはまだ早いかもしれない。まだ、モフモフとヒューレッドが会話ができそうにないからだ。
最低でもモフモフとヒューレッドが会話ができるようになるまでは一ヶ月が必要だとセレスティアは思っていた。その間だけでも、ヒューレッドを匿っておこうと思っていたのだ。
だが、マリルリはその異常なほどの感の良さで、セレスティアがヒューレッドを匿っているのではないかと確信しているようなのだ。
セレスティアは森に隠れるように住んでいるが、森に住んでいることを隠しているわけではない。時々、街の人々に家まで品物を届けてもらうこともあるし、街に出かけた際に親しく会話を交わすものもいる。
つまり、人海戦術を使えばヒューレッドよりもセレスティアの方が見つかりやすいだろう。なにより、セレスティアの髪は真っ白で、肌も真っ白なうえに、目だけが赤いのだから。ヒューレッドの眩いばかりの金髪もとても目立つが、それでもセレスティアほどではない。
それに街の人間は知っている人はセレスティアの居場所を知っているのだ。聖女であるマリルリがセレスティアを探していると言えば、聖女に心酔している街の人間のことだ。なんの疑問も持たずに、セレスティアの居場所を教えてしまうだろう。
「ヒューレッドさんを早急にここから旅立たせる必要がありますね。せめて、モフモフと会話ができればよかったのですが……。」
セレスティアはモフモフとヒューレッドが会話ができていないことが、心配だった。モフモフとヒューレッドは意思疎通ができないのだ。旅に出るとなるとこれが問題になってくるかもしれない。
だが、マリルリは思い立ったら躊躇なくすぐに動くだろう。つまり、セレスティアが見つかるのも時間の問題だ。
セレスティアが見つかるよりも早く、ヒューレッドをここから出て行かせなければならない。
セレスティアは思案しながらも、家の中に入るとちょうどヒューレッドがモフモフと初めての会話ができた瞬間だった。
セレスティアは安堵した。
そして、ヒューレッドに告げる。ここから出て行くようにと。
セレスティアはヒューレッドの戸惑う声を無視して、転移の魔法を使用した。
「さよなら。ヒューレッドさん。どうか、お元気で。」
誰にも聞こえないように小さく呟いたセレスティアの目からは僅かな雫が落ちた。
それから数刻もしないうちに、聖女マリルリがセレスティアの元にやってきたのだった。
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