呪われた侯爵は猫好き伯爵令嬢を溺愛する?

葉柚

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第3話 ファントム視点

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「アンジェリカとの結婚を陛下が許可してくださった。なんて私は幸せなのだろうか。」

 深夜の執務室で、私はにやけそうな顔を必死に我慢しながら呟いた。いや、呟いたというより無意識に口から言葉がこぼれ落ちた。
 まばゆく輝く月が、私の影を照らす。
 ゆらゆらと揺れる黒く長い尻尾が影の中から姿を現す。

「アンジェリカももう16か。私も22になるとは、時が過ぎるのはずいぶんと早いものだ。」

 私は初めてアンジェリカと会った日のことを思い出す。
 あれは、6年前のことだ。今のアンジェリカと同じ年である16歳の頃、私は一人の魔女に出会った日のことだ。ひょんなことから魔女の怒りに触れた私は魔女の手によって呪いをかけられてしまった。
 あの時は、なんて酷い呪いをかけられたのかと悲嘆したが、その呪いがあったからこそ、アンジェリカに出会えたのだ。今は魔女に感謝すらしているほどだ。

「だが、アンジェリカがあんなにも猫が好きだったとは思わなかったな。でも、アンジェリカの猫好きには感謝している。なによりも猫を慈しみ、誰よりも猫を優先するため婚約者候補たちから愛想をつかされていたが・・・・・・。」

 私はアンジェリカの噂を思い出して苦い笑みを浮かべる。

「だが、アンジェリカにとって私の存在も猫には敵わぬのだろうな。」

 それは確かな確信。いつもアンジェリカは猫に向かって愛おしそうな視線を向けている。どんな猫に対してもだ。だが、特にクリスのことが一番好きなようで、いつも熱い視線で見つめているのを私は知っている。
 わずかに開いた窓から一筋の風が流れ込んできて、私の漆黒の髪をいたずらに揺らす。

「旦那様。本日もまだお休みになられないのですか?」

 ピタリと閉じたドアの向こうから唯一オレの呪いがどんなものかを知っている執事が声をかけてくる。毎日同じ時間にやってくる。なんと律儀なことだろうか。

「ああ。夜にしか執務ができない身体だからな。朝日が差せば私は呪いの影響を受けるからな。」

「そうですね。ですが、私は旦那様のお身体が心配なのです。夜にしか執務ができないことで一睡もしていないのではないですか?」

「問題ない。昼間は安心できる場所で寝ているからな。」

 私の身体を心配してくれている執事に感謝しながら、現状を伝える。

「そうですか。ですが、無理はなさらないでください。旦那様は普通のお身体ではないのですから。」

「ありがとう。無理はしないと誓うよ。」

「・・・・・・もうじき、メイドが夜食を持って参ります。いつも通り部屋の中には入らぬよう申し伝えておりますので。」

「ああ。いつもすまないな。私の呪いのせいで余計な気を遣わせてしまって。別にメイドが夜食を持ってこなくてもいいのだぞ?料理長でも構わない。」

 呪いのせいでアンジェリカに会えたことは良いことだが、ひとつだけやっかいなこともある。呪いのせいで夜に女性を見ることができないのだ。見てしまえばどんな女性であっても私は・・・・・・。

「料理を運ぶのはメイドの仕事です。」

「そうか。すまないな。ヒースクリフ。いつもおまえには助けられてばかりいるよ。」

 やっかいな呪いを執事であるヒースクリフ以外には誰も知られないように、最善の注意を払っている。ヒースクリフはいつも私の手となり足となり支えてもらっている。彼がいなければ今の私の生活は成り立たなかっただろう。

「もったいないお言葉。感謝いたします。」

「私はおまえのことも心配だ。昼は私の代わりに執務をおこなっているのだろう?夜もこのような夜更けまで私のことを気にかけて・・・・・・。おまえに倒れられたら私のこのやっかいな呪いを隠す補佐を誰がしてくれるというのだ。」

「もうすぐアンジェリカ様が嫁いで来られるではないですか。大丈夫ですよ。私は倒れたりしませんから。」

「・・・・・・そうだな。」

「では、旦那様。お休みなさいませ。」

「ああ。」

 ヒースクリフはそう言うと部屋の外で丁寧に礼をしてその場を去って行った。
 そして、ヒースクリフが去って行ったすぐ後にメイドが夜食を部屋の外まで持ってきた。気配からするに新しいメイドだろうか。

「旦那様。お夜食をお持ちいたしました。」

「ああ。そこに置いておいてくれ。」

「・・・・・・かしこまりました。」

 メイドはそう言って部屋の前に運んできた夜食を置いたようだが、その場を去ろうとはしなかった。

「下がっていいぞ。」

「・・・・・・はい。」

 強い口調で告げればメイドはしぶしぶとその場を後にしたようだった。メイドが去って行ったことを気配から察すると、私はそっと部屋のドアを開けた。そうして、周りに誰もいないことを確認すると廊下の片隅に置かれている夜食を部屋の中に運ぶ。
 夜食に添えられた真っ赤なワインを見て、私の目が金色に光った。

「あのメイドはクビだな。明日ヒースクリフに言わなければならないな。」

 私は唇の端を上げてクツリと笑みを浮かべた。
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