37 / 92
第37話
しおりを挟む「にゃ、にゃーっ!」
わけがわからなくて混乱していると、この騒ぎでクリスが目を覚ましてしまったようだ。さっきまで良く眠っていたのに。
クリスは目を覚ますと、必死に私の顔に手を伸ばしてくる。どうしたのだろうかと、顔をクリスに近づけると、クリスの柔らかく暖かい肉球が頬に当たった。
それから、目元をザラリとした舌で何度も何度も舐めてくる。
「ど、どうしたのクリス?」
「アンジェリカお嬢様をご心配なされているのです。気づいていますか?」
「なにを?」
なぜ、急にクリスが目元を必死に舐めてくるのかわからなくて私は首を傾げる。すると、ヒースクリフさんがそっと手鏡を手渡してきた。手鏡を受け取った私は、鏡に自分の顔を写してみる。
そこには涙を流している私がいた。
どうやら感情が爆発して泣いてしまったようだ。クリスはその涙を舐めとってくれようとしているようだ。
「ありがとう。クリス。」
私はそんな一生懸命なクリスに微笑んで、その頭を優しく撫でる。すると、クリスも落ちついて来たのか、舐めるのを止めた。そうして、私の顔をその金色の瞳でジッと見つめてくる。
「なんで侯爵様のことで泣いてるのよ。あなたには関係のないことじゃないの。」
ローゼリア嬢はそう言って顔を顰めた。
ローゼリア嬢の言う通り確かに関係ないんだけど。関係ないんだけど。どうしてだか、涙が止まらなかった。
侯爵が他人を傷つけまいと必死に女性の視線から隠れようと努力をしているのを思うと、自然と涙がでてくる。実は、侯爵はとても優しい人なのではないかと思う。
そうでなければ、自分が傷つかないのであれば、堂々と姿を現せばいいのだ。相手が傷つこうと、自分に被害がないのであれば。
でも、侯爵はそれをしない。きっと、相手を傷つけることをとても嫌がっているのだろう。
それに、昨夜少しだけ話した時に感じた声の暖かさ。あれは、本当に私を慈しんでくれているような気がした。
「侯爵様はとても優しい人です。そんな人が、呪いに苦しめられているなんてみていられません。私、絶対に侯爵様の呪いを解呪してみます。」
呪い持ちの侯爵だと、そんな相手とは婚約なんてましてや結婚だなんて無理だと思っていたけれど、少しだけ会話をしたなかでも、侯爵がとても優しい人だってわかった。きっと、呪いを持っていなかったら結婚相手に困らない人だったんだろうとも思う。
お父様やお母様のこと、お人よし過ぎると思っていたけど、私も人のこと言えないかもしれない。まだ、侯爵と長く話したことがあるわけでもないのに……。
「……ふんっ。そう。まあ、いいわ。でも、私だって諦めませんわ。」
ローゼリア嬢はそう言ってプイッとそっぽを向いてしまった。
諦めないって何をだろうか。
「あ、ローゼリア嬢。ところで侯爵様の初恋の人を知っているかしら?」
泣いている場合じゃない。侯爵の呪いを解呪するために、侯爵の初恋の人の情報を集めなくては。私は気を取り直すとローゼリア嬢にそう問いかけた。
「あなたさっきまでピーピー泣いていたのに……。まあ、いいわ。キャリエール侯爵の初恋の人の噂は知っているわ。でも、どこの誰かはわからない。ただ、毎日のように昼間はその初恋の人のところに言っているって噂よ。ねえ、ヒースクリフ?」
ローゼリア嬢は微妙な顔をしながらもそう教えてくれた。相手は知らないけれど、毎日のように侯爵が会いに行っているか。でも、毎日のように侯爵が会いに言っているのならば、ヒースクリフさんはお相手のことを知っているのではないだろうか。
ローゼリア嬢も、そう思うから最後にヒースクリフさんに問いかけたのだろうし。
「どなたかご存知ですか?ヒースクリフさん?」
「は、ははっ。貴女たちは先ほどまで仲が悪そうだったのに、こういう時は共闘するんですね。そうですね。私はその相手を知っております。ただ、私の口から告げることは旦那様がお許しになりません。」
ヒースクリフさんはそう言って相手の名前を口に出すのをためらう。どうしてためらうのだろうか。確かに侯爵の繊細な部分に当たるかもしれないけれども、呪いが解けるかどうかかかっているのだ。
「どうして教えてくれないのでしょうか?侯爵様の呪いが解けるかもしれないのに……。」
「キャリエール侯爵様の初恋の人がわかれば呪いが解ける?どういうことなの?」
ローゼリア嬢は解呪の方法までは知らなかったようだ。驚いたように私を見つめる。
「侯爵様の呪いを解くためには侯爵様の初恋の人とキスをすればいいそうなんです。あ、これ他の方には他言無用でお願いしますっ!」
ローゼリア嬢も解呪の方法までは知らなかったってことは、あまり言っていいことじゃないのかな。
そう思い直して、ローゼリア嬢に口止めをする。
「わかったわよ。私たちの秘密ってことね。」
「はい。それでお願いします。」
「でも、キャリエール侯爵様の呪いが解けるのならば、ヒースクリフが悠長に構えていることが不思議でならないわ。ヒースクリフ、他にも何か隠しているんじゃないかしら?ねえ?」
ローゼリア嬢はそう言ってヒースクリフさんに視線を向けた。
0
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。
黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。
明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。
そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。
………何でこんな事になったっけ?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました
有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。
魔力が弱い私には、価値がないという現実。
泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。
そこで目覚めた彼は、私を見て言った。
「やっと見つけた。私の番よ」
彼の前でだけ、私の魔力は輝く。
奪われた尊厳、歪められた運命。
すべてを取り戻した先にあるのは……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる