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第38話
しおりを挟むヒースクリフさんはローゼリア嬢に視線を向けられて、バツが悪そうに笑った。
「私は旦那様の口から、その女性に好意を持っているということを伝えていただきたいだけでございます。」
「本当に?それだけかしら?」
「ええ。それだけでございます。」
ローゼリア嬢は疑わし気にヒースクリフさんを見る。ヒースクリフさんは胡散臭そうな笑みを浮かべて言い切った。
「じゃあ、なぜ、アンジェリカがキャリエール侯爵様の初恋の人が誰か嗅ぎまわっているのを放置しているのかしら?アンジェリカに知られたらまずいんじゃありませんの?この子、きっと誰だか知ったら突撃すると思いますわ。」
ローゼリア嬢はそう言い切った。というか、いつの間にかローゼリア嬢に呼び捨てにされている私っていったい……。貧乏伯爵の娘だから見下されているのだろうか。
「ローゼリア嬢は手厳しいですね。アンジェリカお嬢様でしたら、そんなこと全くこれっぽっちも全然気づいておられませんでしたが、ローゼリア嬢は切れ者でいらっしゃる。」
笑いながら言うヒースクリフさんだが、言葉にトゲがあるのは気のせいだろうか。しかも、なぜか私に向けて。
「そう。そう言う事なのね。ふふっ。随分と面白いことをなさっているのね。」
ローゼリア嬢はヒースクリフさんとの今の会話で何かわかったのだろうか。先ほどと違って楽しそうに笑っている。
「えっと、ローゼリア嬢。なにかわかったのですか?」
耐え切れなくてローゼリア嬢に聞いてみると、ローゼリア嬢は白く長い人差し指を口に当てて優雅に微笑んだ。
「アンジェリカにはひ・み・つ。自分で気づきなさいな。」
なんだか、私だけ除け者になってしまったみたいで、気分が下降した。そんな私を慰めるように、クリスがそっと私の頬をザラザラとしたピンク色の舌で舐めていた。
☆☆☆
「それでは、そろそろ夕暮れ時になりますのでアンジェリカお嬢様はお戻りになられた方がよろしいかと思います。馬車を用意してまいりますね。」
結局、侯爵家では侯爵の初恋の女性に対する情報はまったくと言っていいほど集まらなかった。というのも、結局侯爵の執務室から一歩も外にでなかったからだ。
そして、なぜだかわからないけれども、ローゼリア嬢に気に入られてしまったようで、ローゼリア嬢とずっと話していたような気がする。時々、ローゼリア嬢にばかり構っている私に疎外感を感じたのか、クリスが構って欲しいと爪を立てる以外は平和なものだった。
「ふぅ。結局、なにもわからなかったわ。」
私は自室に戻って、だらしなくソファーに身体を投げ出した。
「アンジェリカお嬢様は機微に疎いのでしょうか。」
すると、一緒にいたロザリーがそんなことを言いだした。
「どういうことよ?」
思わずムッとして言い返してしまう。まさか、疎いだなんて言われるなんて。
「いえ。ヒースクリフ様とローゼリア様のお言葉、それから今までの侯爵様とヒースクリフ様の言動を顧みると、ある一つの仮説が思い浮かびました。ただ、それだけでございます。」
「その仮説ってなにかしら?」
「それは、ご自分で気づいた方がよろしいかと思います。もしくは、直接侯爵様に教えていただいてください。」
「ロザリーもローゼリアと似たようなことを言うのね。」
ロザリーもローゼリアもにこやかに笑いながら、自分で気づけという。なぜだろうか。
もやもやした気持ちのまま、その日は眠りについたのだった。
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