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第72話 ファントム
しおりを挟む「え?あ、あれ?クリス?あれ?侯爵様は……?」
ドキドキしながらアンジェリカの反応を待つ。軽蔑されるかもしれないと思いながらも、心のどこかでアンジェリカに受け入れてもらえるのではないかと期待してしまう。
だが、アンジェリカは猫のクリスが私だとは知らないのか、私を探してキョロキョロと辺りを見回す。
もしかして、アンジェリカは気づいていない、のか?私が猫のクリスであると。アンジェリカの目の前で猫の姿になってしまったのに、か?
「あの……侯爵様はどこにいかれたのでしょうか?」
やはりアンジェリカはクリスが私だとは微塵も気づいていないようだ。
アンジェリカはキャティエル伯爵とキャティエル伯爵夫人に私の行方について尋ねている。
キャティエル伯爵夫妻はクリスが私だということをバッチリとその目で見ていたのだろう。私を凝視したまま視線を逸らそうとしない。アンジェリカの問いにも答えることができないほど、私がクリスだったということが衝撃的なようだ。
「なんで、皆クリスを見ているのかしら?」
アンジェリカが小首を傾げながらクリスの姿でいる私を見つめてきた。
「ふふっ。アンジェリカはまだ気が付かないのかしら?」
アンジェリカと見つめ合っているとそこに水を差す声が聞こえてくる。言わずもがなローゼリア嬢だ。
まったくローゼリア嬢には困ったものだ。私に呪いをかけた調本人でもあるし、どうやらこの状況を一番楽しんでいるようだ。あたふたする私たちを見ているのがとても楽しいと言った心情なのだろうか。
「え?どういうこと?」
アンジェリカはローゼリア嬢の言わんとすることがわからなくて、私に問いかけてくる。
実は私がクリスだったんだ……。なんて猫の姿では人間の言葉を話すこともできないので伝えるすべがない。それに自分から言うのは少しばかりバツが悪いと言うかなんというか。
私はアンジェリカのことが見ていられなくてそっとアンジェリカから視線を逸らした。
「クリス、どうかしたの?」
「にゃ……。(いや、なんでもない。)」
アンジェリカから視線を外した私を不審に思ったのかアンジェリカが問いかけてくる。
まさか、私がファントムなんだと言えるわけがない。私は俯き加減でアンジェリカの問いに答えた。
すると、何を思ったのかいきなりアンジェリカに抱き上げられた。そうして、アンジェリカのささやかな胸元に抱きしめられる。アンジェリカは私に頬ずりをしながら私を見つめてきた。
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