魔族の花嫁に選ばれた皇太子妃

葉柚

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「フォン宰相。お話しがあります。お時間をいただけませんでしょうか。」

 ロイドは、皇帝陛下の執務室から出てきたフォン宰相を捕まえてそう切り出した。
 フォン宰相は驚きに目を瞠りながらもロイドの言葉に頷いた。
 
「私もロイド殿下にお話しがございます。ここでは人目がありますので、移動いたしましょう。」

 ロイドはフォン宰相のその提案に頷いた。
 ロイドとしてもこれからフォン宰相に話す内容は誰にも聞かれたくない話だ。
 ロイドとフォン宰相は並び立って歩きだす。その足はフォン宰相に割り当てられた執務室に向かっていた。
 
「どこで盗聴されるかわかりませんからね。」

「フォン宰相の部屋は問題ないのでしょうか?」

「そうですね。盗聴器は仕掛けられていますね。」

 ロイドの問いにフォン宰相はロイドの耳元で囁いた。
 それは盗聴器にフォン宰相の言葉が拾われないようにと思ったからだ。

「なっ!!?」

 平然と言い放つフォン宰相にロイドは驚き大声を上げそうになった。それをフォン宰相がロイドの口を手で塞ぎ遮る。
 
「そんなに驚かないでください。この王城で盗聴器が仕掛けられていないとこなどありませんよ。あの女は至る所に盗聴器をしかけております。」

「あの女って……?」

「ロイド殿下も薄々感づいているのではないでしょうか?」

「まさかっ……。アリス嬢が……?」

「……はい。あの女は目的のためなら手段は選びません。ロイド殿下もお気を付けください。」

「……フォン宰相はアリス嬢と繋がっているのでは……?」

「……私が不甲斐ないばかりにあの女には弱みを握られておりまして。」

「じゃあ、セレスティーナを魔族の花嫁にするようにフォン宰相が巫女に圧力をかけたわけじゃないんだな?」

「ええ。私ではありません。ですが、セレスティーナ様が魔族の花嫁になることを止めることができませんでした。まさか、巫女様まであの女の手中にいるとは思ってもおりませんでした。まさか、巫女様が自らの命を犠牲にしてまで嘘をおつきになるとは……。」

「……そうか。」

 小声でのやり取りが続く。
 どうしても盗聴器に声を拾われないように小声で言葉を交わしているからか、お互いの距離が近くなる。
 それは、遠くから見ている者が誤解をしてしまうほどに近い距離だった。

「……お二人とも何をなさっていらっしゃるのですか?」

 ロイドとフォン宰相が言葉を交わしていると、ノックもなく急にドアが開いた。
 そして、現れたアリスが頬を赤らめさせて視線を彷徨わせながらロイドとフォン宰相に尋ねた。
 アリスは宰相室を盗聴しており、ドアを開け閉めする音が聞こえたのにも関わらず物音がしないことを不審に思い宰相室に音を立てぬように入室したのだ。
 いくら時期皇太子妃候補だとしても、ノックもせずに宰相室に入るというのは失礼極まりない行為だ。
 
「アリス様。いくらアリス様でも部屋に入る際にはノックをしてからお入りください。それで、そのように急いでどのようなご用件でしょうか?」

 フォン宰相はロイドからスッと離れると、アリスに向き合う。
 
「ええ。ええ。あの……ロイド様とお話しされているとは知らず……。その、失礼いたしましたわ。それで、お二人はここで何を……。」

 アリスは戸惑った素振りを見せながら、フォン宰相とロイドをちらちらと交互に盗み見る。

「ロイド殿下にアリス様を皇太子妃に向かえないかと囁いておりました。普通にお願いしてもロイド殿下は首を縦に振りませんからね。私からロイド殿下に迫ってみせれば、私の色香でぼおっとして頷いてくれるのではないかと試してみてました。ご不快でしたか?」

「まあ。いえ、そのような……。ですが、ロイド様がフォン宰相の色香に迷うことなどないかと。だって、お二人は男性同士ですのよ?それとも、フォン宰相は女性だったのですか?」

「色香に女も男も関係ないのですよ。」

 フォン宰相はそう言ってアリスに向かって微笑んだ。
 アリスはフォン宰相の言葉にたじろぐ。だが、すぐに気を取り直してロイドに視線を向けた。
 
「ロイド様。男性に迫られても意味ないですわよね。でも、フォン宰相の言ったことをお聞き入れいただければ……私は……その、とても嬉しく……。」

 アリスは頬を赤らめさせて俯いた。
 その姿はどこからどうみても、皇太子妃にと勧められたことを嬉しいながらも恥ずかしがってはにかんでいる女の子そのものだった。

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