上 下
94 / 584
一章

93

しおりを挟む

ソフィアさんが持って来たのは、銀色に輝く鍋のようなものだった。
鍋といっても、どちらかというと土鍋に近い形をしている。
大きさも直径50㎝ほどある。重そうに見えるんだけど、ソフィアさん随分軽そうに持ってきたな。

「あの、これが今うちにある錬金釜になります。普段あんまり売れないから在庫これしかないんです。」

「ありがとうございます。これ、いくらですか?」

ソフィアさんは申し訳なさそうに告げた。でも、取り寄せになるよりはいいかな。
手持ちの資金で購入できそうなら、購入してしまおう。そう思って金額を確認する。

「あ、5000ニャールドになります。でも、これ商売するには向きませんよ?ご家庭で趣味としてなら十分だと思いますが・・・」

「うん。大丈夫。今のところ自分用の化粧水を作ってみようと思っているだけだから」

「そうですか?この釜では一回に作れる量は5個分になります。しかも、3日かかります」

「ええ。それで大丈夫です」

「あの・・・取り寄せしましょうか?一週間くらいで取り寄せできるので」

大丈夫って言ってるんだけどなぁ。どうして、そんなにこの錬金釜を売るのが嫌なのだろうか。
不思議に思って首を傾げる。
そのよこで、マリアが「ああ、そっかぁ」と何かに気づいたように頷いていた。

「マユから薬草の匂いがするのに気づいたのね。しかもボーニャ様が採ってきた品質のいい薬草(上)」

「ええ。あの薬草を持っているのなら調合士の方だと思って」

ああ、そういうことか。
というか、ソフィアさん鼻がいいわね。

「私、調合のスキル持ってないんです。あの薬草はボーニャが持ってきてくれたんです」

ボーニャと言うと手に持っていたバスケットからカリカリと爪で擦る音が聞こえてきた。
私はバスケットを、カウンターに奥とそっと蓋を開ける。
すると、ぴょんっとボーニャが飛び出してきた。

「この子がボーニャです」

「にゃあ」

ボーニャは紹介されたことが嬉しいのか、ピクピクと尻尾を動かしている。
そして、褒めて?とばかりにソフィアさんをじっと見つめていた。

「まあ!ボーニャ様が薬草を採ってきてくれたの?素敵ね」

ソフィアさんは、胸の前で指を組んでキラキラとした瞳でボーニャのことを見つめている。
おおう、ソフィアさんのキャラが変わった。

「素敵ね、素敵ね」

ソフィアさんはそう繰り返し呟いている。
撫でて貰えなくて見かねたボーニャが、ソフィアさんにトコトコと近寄って行って、スリッとカウンターの側にいるソフィアの腕に頭を擦り付ける。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:11,814pt お気に入り:205

転生少女は異世界でお店を始めたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,598pt お気に入り:1,704

あなたの世界で、僕は。

BL / 連載中 24h.ポイント:796pt お気に入り:53

【完結】全てを後悔しても、もう遅いですのよ。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:1,271

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:731pt お気に入り:4,192

今から君を守るのに理由が必要ですか・・?(仮)

BL / 連載中 24h.ポイント:299pt お気に入り:37

愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:34,180pt お気に入り:604

可笑しなお菓子屋、灯屋(あかしや)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:1

処理中です...