船橋の下にて、鬼の哭く

千崎 翔鶴

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序 かけて頼みし橋の上より

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 どうすることが正しかったのか、誰か教えてくれないか。
 そんな風に思ったところで、もう選択は終えてしまっていた。こうしなければきっと、そういうものに突き動かされるようにして、ただひたすらに足を動かし続けた。
 ごうごうと、水が音を立てていた。黒々とした水はうねるようにして、真っ暗闇の中を駆けていく。橋の色は赤いはずであるのに、こう雨雲に覆われた闇夜では色など何も分からない。ただごうごうと流れる水だけが、その存在を主張していた。
 張り上げた声は、水音に呑まれて消えていく。「どうして」「どうして」、そう繰り返したところで、誰にもどこにも届きはしない。
 昨年の台風の被害で崩れて壊れた谷はようやく工事が終わったところで、けれどこの長雨で、また崩れてしまうのではないかと危ぶまれていた。
 雨は続いている。梅雨の長雨とは言うけれど、かつてよりも雨は激しさを増し、それこそ人を呑み込まんとしているようでもある。
 ――どぼん。
 何かが落ちていく音が、ひとつ。それきり他の音は何もなく、ただごうごうという水の音だけが夜の闇の中で響いていた。

  ※  ※  ※

 三間四方の舞台の上、その中央に亡霊がいた。
 これは、男の執心なのか。男は決して恨み言を述べることはなく、ただその恋の執心によって地獄で苦しむ様を見せている。
 橋の向こうに見えた、愛しいあなた。けれど、男は足を踏み外し。
 船橋は浮かび、男は沈む。ただ愛しただけなのに、それでも互いの親はそれを赦さなかった。ゆえに船橋の板は外されて、男は未だ執心の霧の中。
 分からない。
 いや、そんな風に片付けてしまうようなものでもない。けれど、きっと、そうして苦しむほどの思いは、きっと自分自身を絡めとる。故に、男は地獄に落とされたのだ。
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