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第2章:幼少期・純愛編
第30話:【楽しいクッキー作り】
しおりを挟む「ルピナス様!大変お上手でございますわ」
スイレンさんが側でにこにこと笑いながら私を褒めてくれる。褒めて伸ばすタイプのようで、この教会に滞在してまだ二日目だがスイレンさんが誰かを褒めているところを頻繁に見かけていた。
現在、私はヤグルマギク教会のシスターたちと孤児院の子供たちの皆でクッキーを作っている真っ最中。
ユーフォリア様も、とても参加したがっていたのだけれど…どうしても外せない用事があるらしくて泣く泣く参加を断念し、転移魔法で出かけて行った。
………正直な話。出かけるまで、ずっと私を膝に乗せて離してくれなくて少し大変だったけれど。
「ほら、生地がまとまってきましたよ!もう少し生地をこねたら型抜きをしても大丈夫ですからね」
「型は数種類あるんですよ!ルピナス様、どの型がよろしいですか?」
ラランとリリィも側で私の様子を見守っている。
クッキー作りが始まった当初は何かと心配性なラランとリリィが手伝ってこようとしたけれど、その度にスイレンさんが、にこやかな笑顔で有無を言わすに止めていた。
さすが多くの子どもたちを育ててきただけはあるな、と素直に感心したものである。
生地がある程度の固さになってきたので型を選ぶことにした私は型が仕舞われている清潔な箱の中を覗き込んだ。
「わ…!本当にいろんな形があるんだね」
クッキーの型はハートや星、シンプルな丸や三角など様々な形があった。
今回のクッキーは孤児院の子供たちが作るものは売り物にするそうだけれど、私が作るものはスイレンさんのご厚意で全て持って帰って良いと言われている。
最初は材料や手間のことなどで申し訳ない、と思ったのだけれど、よくよく考えてみたら料理初心者の私が作ったものを売り物にするのは何だか忍びない気がしたのでスイレンさんのご厚意に甘えることにしたのだ。
素直にそのことをラランとリリィに話したら、私の後ろあたりを遠い目をしながら、そういったことが理由ではないと思われます…と声をハモらせて言ったのが印象的だった。
後ろに何かあるのかと思って振り返ったら、ユーフォリア様が笑顔で私に頑張ってね、と微笑んでいた。
双子たちの言った言葉は、よく分からなかったけれど今回クッキー作りを楽しみにしていたのに参加が叶わなかったユーフォリア様の分も私は楽しみ、作ったクッキーを差し上げる為にも頑張ろうと思ったのである。
「ルピナスしゃま!このおはなのカタチにすると、クッキーがとってもきれいにつくれますよ」
「この形にすると、よく売れるんです!」
孤児院の子供たちも何かと私に気を遣って、こうして話しかけてくれる。
歳の近い子と話す機会がなかったので、最初はとても緊張したけれどシスターたちも皆、優しく接してくださるので段々と話すことに慣れて緊張しなくなってきていた。
「本当だ…!このお花の形、とっても綺麗だね。人気なのがよく分かるよ」
花の形をしたクッキーの型を手に持って、話しかけてくれた子供たちに微笑んだ。
「あれ……?二人とも大丈夫?顔が真っ赤だよ?!」
熱でもあるんじゃないかと心配になって側に近づこうとすると、ラランとリリィが全力で阻止してきた。
「「ルピナス様、それ以上は致命傷になるのでやめてあげてください」」
「ラランとリリィの言うように本当に知恵熱を出しかねないので、その辺にしておいてあげてくださいな」
ラランとリリィの後にスイレンさんが苦笑しつつ、私に懇願してくる。
(………致命傷って、何のことだろう?)
そう思いながらも分かりました、と言わざるを得なかった。
「わあ!すごく良い香り…ッ!」
型抜きをした生地をオーブンで焼くこと、二十分。
オーブンから焼き上がりを知らせる音がして開いてみると、優しくて甘い香りが部屋中に漂った。
「まあまあ!お上手に出来上がりましたわね、ルピナス様」
スイレンさんがにこにこと笑って、お皿に移し替えたクッキーを見つめている。
生まれて初めて作ったお菓子は、焦げたり生焼けになったりと失敗することなく上手いこと出来上がってくれていた。
「クッキーの粗熱を取ってから袋に詰めるんですけれど…この温かい状態のままを数枚、食べられるのが作った者の特権ですわ」
そう言うとスイレンさんは焼き上がったばかりの温かい状態のクッキーが乗った皿を私の方へ差し出してきた。
出来たてのクッキーがあまりにも美味しそうだったので、私は思わず手を伸ばす。
…今まで貴族であった自分が、こうしてお菓子を作り食べる日がくるなんて考えてもみなかった。
考えてみると何だか不思議な感慨を覚えて手に取ったクッキーをジッと見つめた。
ラランとリリィ、スイレンさんだけでなくシスターたちや子供たちまで私のことを固唾を呑んで見守っているとは気がつかずに、私はクッキーを一口齧った。
「美味しい…っ!」
私が笑うと釣られるように、皆も笑顔でクッキーが上手くできたことを一緒に喜んでくれた。
嘘偽りなく、今まで食べてきたお菓子の中で一番、美味しいと思った。
───このささやかながらも幸せな気持ちを、ユーフォリア様にもお渡ししたい。
冷ましたクッキーを袋の中に入れて、スイレンさんが用意してくれた紫色のリボンを結んだ。
「ユーフォリア様、喜んでくださるかな?」
「絶対に喜んでくださるので、ご安心ください!」
「…喜びすぎて離してくださらないかもしれませんよ」
そわそわとした気持ちでクッキーを包んだ袋を持ち、自分の部屋まで戻る道中、ラランとリリィと私の三人でたわいのない話をして歩いていた。
ヤグルマギク教会の方々のユーフォリア様に対する信仰は厚く、教会の敷地内には拠点として使用していただく為にとユーフォリア様専用の棟が建てられていた。
棟の外装は、ユーフォリア様の瞳の色を再現したような美しいエメラルド色をしていて見惚れてしまうような代物だ。
現在、私はそのユーフォリア様専用の棟の一室で生活をさせていただいている。
「なんだ、あれは…?馬車?」
棟の前には、一台の馬車が停まっていた。
馬車は煌びやかな見た目をしていて、所々に施されている細工が美しく一目で高級なものであることが伺える。
「あの御方は───」
私の声が聞こえたのだろうか。
馬車の側に立っていた人物がこちらへと振り返った。
日の光のもとで輝くピンクゴールドの髪に澄み渡るスカイブルーの瞳。
お会いした機会は王宮主催のお誕生日会でご挨拶をさせていただいた際の一度しかなかったが、私は一目見ただけで、彼が誰なのか分かった。
目の前の人物は、このブバルディア王国の第二王子であり、乙女ゲーム『あなたと愛の花を咲かせたい!』に登場する攻略対象。
───ダリア・ブバルディア、その人であった。
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