悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ

文字の大きさ
39 / 74
第2章:幼少期・純愛編

第37話:【頑張り方を間違えている】

しおりを挟む



 目を覚ますと薄闇の中にいた。


「あれ、ここは…」


 正確に言えば、ベッドの中にいた。

 魔法で出来た色とりどりの優しい光が私の周りを囲むように、ふわふわと漂っている。


「嗚呼、よかった。目を覚ましたんだね、ルピナス」


 ふと隣を見れば、ユーフォリア様が私の方を見て微笑んでいた。


「ユーフォリア様、今は…───」

「今は夜中だよ。朝には、まだ随分と早い時間帯かな」


 窓に目をやれば外は真っ暗。
 空には月が浮かんでいた。


「なるほど、道理で暗いわけですね」

「ふふ。まあ、そう気にしないで。喉が渇いただろう?ほら、お水だよ」


 眠りすぎてしまったことに落ち込んでいると励ますようにユーフォリア様は朗らかに笑った。

 私の声が少し掠れていたからだろうか。グラスに水を注いで渡してくれる。

 こくり、こくりと飲み干すと心地よい冷たさが体に染み渡っていった。


「あ…ありがとうございます。ユーフォリア様」


 ユーフォリア様が空になったグラスを回収し、寝起きで思ったより手に力が入らなかったあまり口の端から少し溢してしまった水をタオルで拭いてくれた。

 まるで幼い子供のようで少し恥ずかしくなって顔が熱くなる。…実際、私は年齢的に子供なのだけれど、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。


「具合はどう?大丈夫…?」


 心配そうに私の顔を覗き込むユーフォリア様を見て、自分がどういった経緯で眠ってしまっていたのかを思い出した。

 ユーフォリア様の手が私の頬を優しく撫でる。


「……ルピナス」


 ユーフォリア様は少し躊躇いがちに私の名前を呼んで、憂げな顔をしていた。

 その表情を見て、随分とユーフォリア様を心配させてしまったのだと悟る。

 気がつくと口から滑り落ちていた。


「ユーフォリア様、私は大丈夫です」


 口元を引き上げて自分は大丈夫なのだと示す為に笑ってみせた。

 前世では笑うことや話すことがあまり得意ではなかったけれど、今世では貴族の令息として笑い方やトークの仕方などのマナーをある程度は身につけている。

 ユーフォリア様に、悲しい顔は似合わない。
 笑っていて欲しい。


「ラランとリリィから話を聞いたのでしょう?あの二人は少し大袈裟なところがありますから」


 大したことがないように、自分は何も気にしていないのだと表すように、私は更に笑みを深めた。


「第二王子殿下は何も悪くありません。父様が…父様が、私のことを悪い風に吹聴していたからの発言です。どうか第二王子殿下を咎めないであげてください」

「ルピナス」

「ユーフォリア様。私、もっと強くなります。今回みたくユーフォリア様にご迷惑をおかけしないように自分の意見を言えるようになって、こんな…ちょっとやそっとのことで傷つかないようになりますから───」

「ルピナス!」


 ユーフォリア様から今まで聞いたことがないほどの声量で呼び止められた。

 自然と下を向いていたのだろう。

 顔を上げた先にいたユーフォリア様のお顔が、まるで苦虫を噛み潰したように歪められていた。


「ルピナス」


 もう一度、名前を呼ぶと掻き抱くように。
 強く、私を抱きしめた。


「無理して笑わなくていい」


 その言葉に思わず限界まで目を見開いた。


「そんな…無理なんて……ッ!」

「ルピナスが嘘をついているなんて思っていないよ。君が、気がついていないだけ。ルピナス、君は無理をしている」


 抱きしめられて伝わるユーフォリア様の体温は燃えるように熱くて。

 何だか堪らなくなって。
 何かが溢れてしまいそうだった。


「ルピナス。俺は、君には心から幸せであって欲しいと願ってる。…でもね、偽ってまで幸せになって欲しいなんて、望んでいないんだよ」


 ユーフォリア様の声は震えていた。


「………ユーフォリアさ、ま」


 傷つけたくなくて、心配をかけたくなくて。

 ───笑っていて欲しくて。

 それで私は笑ったのに。
 逆に心配させてしまうなんて。

 ……私は、いつも選択を間違える。
 どうして、私は人より上手く出来ないんだろう。


「…ごめんなさい。心配させるつもりはなくて、ユーフォリア様に笑って欲しくて。それで、」


 焦って、テンパって。
 支離滅裂なことを言っている自覚はあるのに止まらない。


「私は誰にも、あんな顔させたくないんです」


 前世の弟の顔が蘇る。

 幼い頃は、一緒に笑って遊んでいた弟から逃げて。
 結局は会うのが最後になってしまった、あの日。

 ───あんな顔をさせてしまった。


「もう…私は誰も困らせたくないんです。心配させたり、傷つけたくない」


 誰も傷つけたくない。
 誰も困らせたくない。
 誰も心配させたくない。


 気がつけば、ユーフォリア様の肩を濡らしていた。


「私は…もう、諦めたくないんです。何にも負けたくないんです……っ」


 好きだった絵を、好きだった母を。
 好きだったものを投げ出した日々を思い出す。

 ───今までのように諦めて、負けてしまいたくない。


「私は…もう、何からも逃げたくないんです。だから頑張らなきゃいけないんです」


 ───もう、自分の人生を後悔しない為に。


「真剣な話をしよう、ルピナス」


 ユーフォリア様は抱擁を緩めると、私の肩に手を添えて少し体を離すと目を合わせた。


「───君は頑張り方を間違えている」



しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

魔王様の執着から逃れたいっ!

クズねこ
BL
「孤独をわかってくれるのは君だけなんだ、死ぬまで一緒にいようね」 魔王様に執着されて俺の普通の生活は終わりを迎えた。いつからこの魔王城にいるかわからない。ずっと外に出させてもらってないんだよね 俺がいれば魔王様は安心して楽しく生活が送れる。俺さえ我慢すれば大丈夫なんだ‥‥‥でも、自由になりたい 魔王様に縛られず、また自由な生活がしたい。 他の人と話すだけでその人は罰を与えられ、生活も制限される。そんな生活は苦しい。心が壊れそう だから、心が壊れてしまう前に逃げ出さなくてはいけないの でも、最近思うんだよね。魔王様のことあんまり考えてなかったって。 あの頃は、魔王様から逃げ出すことしか考えてなかった。 ずっと、執着されて辛かったのは本当だけど、もう少し魔王様のこと考えられたんじゃないかな? はじめは、魔王様の愛を受け入れられず苦しんでいたユキ。自由を求めてある人の家にお世話になります。 魔王様と離れて自由を手に入れたユキは魔王様のことを思い返し、もう少し魔王様の気持ちをわかってあげればよかったかな? と言う気持ちが湧いてきます。 次に魔王様に会った時、ユキは魔王様の愛を受け入れるのでしょうか?  それとも受け入れずに他の人のところへ行ってしまうのでしょうか? 三角関係が繰り広げる執着BLストーリーをぜひ、お楽しみください。 誰と一緒になって欲しい など思ってくださりましたら、感想で待ってますっ 『面白い』『好きっ』と、思われましたら、♡やお気に入り登録をしていただけると嬉しいですっ 第一章 魔王様の執着から逃れたいっ 連載中❗️ 第二章 自由を求めてお世話になりますっ 第三章 魔王様に見つかりますっ 第四章 ハッピーエンドを目指しますっ 週一更新! 日曜日に更新しますっ!

平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます

クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。 『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。 何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。 BLでヤンデレものです。 第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします! 週一 更新予定  ときどきプラスで更新します!

BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい
BL
腐男子である牧野ひろは、ある日コンビニ帰りの事故で命を落としてしまう。 しかし次に目を覚ますと――そこは、生前夢中になっていた学園BLゲームの世界。 転生した先は、主人公の“最初の友達”として登場する脇役キャラ・アリエス。 恋愛の当事者ではなく安全圏のはず……だったのに、なぜか攻略対象たちの視線は主人公ではなく自分に向かっていて――。 脇役であるはずの彼が、気づけば物語の中心に巻き込まれていく。 これは、予定外の転生から始まる波乱万丈な学園生活の物語。 ⸻ 脇役くん総受け作品。 地雷の方はご注意ください。 随時更新中。

処理中です...