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第3章:幼少期・敬愛編
閑話:【双子とメイド服・後編】
しおりを挟む───メイド服を発注してから数週間後。
「ララン、リリィ。ちょっとこっちに来てくれる?」
「「どうかなさいましたか、ルピナス様?」」
改まった様子の私に不思議そうな顔で、予め用意していた部屋へと誘導されるがままに来てくれる。
目的地に辿り着き扉を開けると、部屋の隅の方にアイさんを含めた服飾店オンシジュームの方々とスイレンさんにユーフォリア様と大人数が揃っていて、中央には二体のトルソーが配置されていた。
突然のことに理解が追いついていないのだろう。
目を白黒とさせている。
しかしトルソーに飾られたメイド服を見つけると、ラランとリリィは目を奪われたように動きを止めた。
「これは…」
「どういう」
呆然としている二人へ私は高らかに告げた。
「───ララン、リリィ。いつも私のお世話をしてくれて、本当にありがとう。二人がいてくれたから、私はあの場所でも心を保っていられたし、二人が行動してくれたから私はユーフォリア様と出会うことが出来た」
双子たちの側に近づいて、それぞれの手をとりギュッと握る。
「以前は主人と使用人として、お互いの立場から適切な距離を保っていた。…でも、これからは家族として、私たちらしい関係で仲良く過ごしていけたらと願ってる。これからも、ずっと一緒にいて欲しい。ラランとリリィのことが大好きだよ」
「「ルピナス様…」」
「二人のことを考えて、選んだ生地や装飾でメイド服を作ってもらったんだ。日頃の感謝を込めて贈らせて欲しい」
「こんな素敵なメイド服を…?!」
「アタシたちに…!?」
「ふふ、そうだよ。二人専用のメイド服なんだから!」
「「……っ!!」」
言葉を詰まらせて口元に両手を当てる。
……どうやら、泣きそうになっているみたいだ。
「ララン、リリィ。隣室を着替えられるように空けて用意してあるの。せっかくプレゼントしていただいたんだもの、実際に着て差し上げたらどうかしら」
スイレンさんが二人を諭すと涙を堪えつつも嬉しそうに服飾店オンシジュームのスタッフさんがトルソーから外してくれたメイド服を手に移動していく。
スイレンさんと服飾店オンシジュームのスタッフさんも念の為、手伝いについて行くようだ。
(…反応を見る感じ大丈夫そうだけど、ちゃんと気に入ってくれるかな)
不安な気持ちを紛らわせるように両手を擦り合わせていると隣からスッと手が伸びてきて包み込むように繋がれた。
「…大丈夫。あの二人のことだから絶対、気に入ってくれるよ」
本日、トルソーごとメイド服を用意してくれた服飾店オンシジュームの方々やスイレンさんとお話があるとかで、先ほどまで別行動だったユーフォリア様がいつの間にか私の隣へ移動されていたようだ。
その穏やかな笑みに力を貰って、不思議と気持ちが上向いていくのを感じる。いつもユーフォリア様の笑顔を見ていると心が温かくなって、不安な気持ちが晴れていくのだ。
ルピナスの肌はスベスベのモチモチだね、と言って頬を揉まれること暫く。
ノック音と共に扉が、そっと開いた。
「「ど、どうでしょうか…」」
恐る恐るといった風に姿を現した双子たちを見て、部屋にいた一同は息を呑んだ。
「想像以上だ!すっごく似合ってるよ…!」
「ルピナスの言う通りだ。とてもよく似合う」
「「…御二方とも。お褒めいただき誠にありがとうございます」」
服飾店オンシジュームの方々も強く何度も噛み締めるように頷いては拍手をしている。
照れたように頬を染めるラランとリリィに微笑ましい気持ちになりながら、服飾店オンシジュームの方々とスイレンさんやユーフォリア様のみんなで、こだわりまくったメイド服が、お世辞抜きで二人のイメージにピッタリで達成感のあまり興奮を抑えられない。協力してくれた皆さんには心から感謝していた。
丈の長いドレスに白のエプロン。
二つそれぞれにレースのフリルがあしらわれ、可愛さもありながら上品さを醸し出す。
胸元には黒いリボンがあって、それが双子たちの茶色の髪とそれぞれの瞳の色に合っていた。
しかし、なんといっても全体をまとめ上げ、引き締めているのがドレスの色───。
「ワタシ…嬉しいですわ」
「アタシもです。だって」
「「このメイド服は、ルピナス様のお色で出来ているんですもの」」
「……え?」
メイド服のドレスはユーフォリア様が自信を持って選んでくれた、深みのあるパープルの色合いをしていた。
黒のリボンといい、パープルのドレスといい、ユーフォリア様が選ぶ色に馴染みがあったけれど、まさか自分の色だとは思いもしなかった。
「…その様子だと知らなそうだね。よく覚えておくといいよ、ルピナス。自分の色を贈るという行為は家族や恋人などの愛する者にしかしないんだ。それだけ、私の中であなたは大切なひとなのだと示す為に」
ユーフォリア様の言葉の意味を理解して、バッと双子たちの方に目をやると、二人と視線が合う。
…自分で意識して選んでいたわけではないが、私にとって二人は家族だ。だから私の気持ち的に全然、抵抗はないのだけれど。
「…何だか、照れ臭いね」
自然と顔を赤くしてしまうのを止められなかった。
照れている様子を部屋の中にいた方々みんなに悶えられていたなど当の私が知る由もなく。自らの手で頬の熱を冷まそうとパタパタと手を仰いでいた。
「「ルピナス様、このような素敵なお品物を…本当にありがとうございます!!」」
ラランとリリィが、今まで私に見せてくれていたもの以上の満開の笑顔でお礼を口にしてくれた。
もともと顔の整っている二人がそのようなことをするものだから、今回の引き渡しで始めてご挨拶に来てくださった服飾店オンシジュームの後継のご子息が真っ赤な顔をして倒れてしまった。
双子たちの満開の笑顔は破壊力バツグンなのである。
スタッフの方たちが慌てた様子で抱き起こしている。幸せそうな顔で目を閉じる彼の姿に母であるアイさんが呆れた顔をしていた。
「このメイド服、これから大切に身につけさせていただきますわ」
「アタシたちが例え将来、年老いても身につけていられるように」
その言葉は、ずっと私の側にいてくれることを意味していた。
私は二人の元へ駆け寄ると釣られるように全力で笑った。
「うん、約束だよ…!」
───こうして、ラランとリリィのメイド服を新調したいという私の望みは無事に叶えていただいたのだった。
▼▼▼
「ユーフォリア様、こちらがお話ししていた品々にございます」
スイレンの手から差し出されたものは、どれも美しい宝石の数々だった。
「ルピナスから俺には内緒で、この宝飾品たちを換金してメイド服の代金にしたいと頼まれていた…と」
「仰る通りでございます」
「ルピナスってば、自分の手元にお金を持っていないからだと思うけど、ラランとリリィの為に、自分の持ち物を売ってお金に換えてメイド服を買おうとするとか男前すぎでは…それにしても、今回は俺が望みを叶えてあげるって言ってたのに…ッ!年長者なんだから俺に払わせてよ、もう~!!───ねえ、スイレン。俺って、もしかしてお金なさそうに見えるのかな?」
「まあ、ホホホ…!とんでもございませんわ。ルピナス様はきっと、ご自分の手でプレゼントを購入してラランとリリィに差し上げたかったのだと思います」
「なら、いいんだけどぉ…」
室内で二人の会話が耳に届く距離にいる服飾店オンシジュームの者たちは自分たちはここにいて良いのだろうかと少なからず困惑していた。
スイレンから内密で話を伺っていたものの、本当に王国至宝のエルフ様であるユーフォリアは運命の御方に出会ったのだと、しみじみと実感させられる内輪的な内容であったからだ。
書物や語り継がれる伝説では、冷静で穏やかな方だと表されるユーフォリア様がこんなにも掻き乱されるほどルピナスを愛しているのだと知らざるを得ない。
「とりあえず、その宝石に関しては俺が預からせて貰おうかな。時を見てルピナスに返そうと思う。今回のメイド服に関する代金は俺が責任を持って払うよ。…だって、俺が望みを叶えてあげるって言ってたのに何の役にも立たなかったし」
「ホホ、気にしてらっしゃったんですか?」
「まあね。スイレンにばっかり労力を割かせて、結局のところ俺は何も出来なかったからさ。お金くらいは出させて欲しいよね」
「ユーフォリア様が普通にお支払いをしてルピナス様の宝飾品をお返しになられたら良いのでは…?何故、直ぐに実行なさらないのです?」
「おっと、スイレン。それは漢心を分かってないよ~ルピナスは、ちゃんと自分の感謝の気持ちを表した品を自分自身の手で用意してあげたいんだ。それを邪魔するのは無粋ってものだよ」
「…では、このままユーフォリア様もお金を出さずに見守って差し上げれば良いのでは」
「ふふ。そうしてあげたいところだけど、ルピナスはまだ子供だ。養われるべき対象の子供からいい大人がお金を巻き上げるわけにいかないよ。それも無粋ってものだ。だから、タイミングを見て返してあげるのさ」
「さようでございますか。ユーフォリア様のそういうユーモラスなところ、嫌いじゃありませんよ」
───…こうして大人たちの秘密の会談は、ルピナスの預かり知らぬところで、ラランとリリィへプレゼントを渡す前の隙間時間に行われていたのであった。
▼▼▼
皆様、いつもお世話になっております!
梻メギです。
閑話:【双子とメイド服】前編・後編、いかがでしたでしょうか?
今回のお話は第3章の本編の何処かに入れたかったのですが、ダリアの件があったことで機会に恵まれず閑話で綴ることとなりました。
第3章の第39話:【教会での生活】で「ショーテイジ家に仕えてくれていた時から着ていたメイド服ではなく、私が二人に用意したメイド服をビシッと着込み~」とありまして読者様の中には、もしかしたらメイド服の話が出てくるのかもと思われた方がいらっしゃると思います。ようやく出せました…!お納めくださいませ~!
第58話:【両手いっぱいの花束を】と閑話:【はじめての贈りもの】に引き続き、贈りもの回になり申し訳ございません(汗)
第39話で上記にお話しした通り、それっぽいことが書いてあったのに第3章に出てこないのは、よろしくないなと思いまして敢えての登場となります。
何卒、ご理解の程いただけますと幸いです。
今週はもう一話の閑話を挟んで、来週より第4章スタートとなります。今後とも悪ヨシをどうぞ、よろしくお願いいたします…!!
2025.07.09 梻メギ
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