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第一章
第四話
しおりを挟むアルヴェインの説明をひと通り聞き終えた朔は、静かに息を吐いた。
その表情に怒りや悲嘆はかけらもない。
ただ、そのあまりにも現実離れした現実を受け入れてるようだった。
(聖堂での反応は、これが理由だったのか)
召喚された瞬間から、向けられていたのは期待ではなく困惑の視線だった。
失敗を疑う目、判断を保留する空気。
今になって、それらが一本の線で繋がる。
胸につかえていたものがほどけ、むしろ気持ちは静まっていった。
混乱よりも先に、これからどうなるのかを知りたい。
朔が求めているのは、それだけだった。
「それで、俺は今後どうなるのでしょうか?」
問いかけに、アルヴェインは小さく頷いた。
一度視線を伏せ、言葉を選ぶように呼吸を整えてから、静かに語り始める。
「昨日、王宮で緊急の会議が開かれました。
その場で、サクの処遇について話し合われたのです」
淡々とした口調だが、その奥には疲労と緊張が滲んでいる。
「まず、神子が男性であった前例はありません。
神子は代々、王と結ばれ、子を成し、その血を次代へ繋ぐ存在でした。
そのため……あなたとの結婚は認められない、という結論になりました」
事実のみを告げる声音だった。
個人の感情ではなく、制度として下された判断なのだと分かる。
朔は眉一つ動かさず、静かに頷いた。
「それと、本来であれば、神子が生きている限り次の召喚は行えません。
ですが今回、サクの召喚が成功か失敗か、誰も判断できなかった」
アルヴェインの声が、わずかに重くなる。
「そのため、明日、兄である第一王子レオニールが、再び召喚の儀を行います」
朔は黙って聞いていた。
問い返すことも、感情を挟むこともない。
「ただ、召喚陣を構築した術師の見解では、すでに扉は閉じているとのことです。
昨夜、召喚陣から魔力の光が完全に失われました」
それは事実上の宣告だった。
「異世界への通路は、もう開かない」
しばらくの沈黙の後、朔が静かに口を開いた。
「じゃあ、本当の神子は、俺が死ぬまで来られないんですね」
あまりに淡々とした言い方に、アルヴェインは息を詰まらせた。
恐怖も怒りもない。
ただ現実を整理し、口にしただけの声だった。
朔は表情を変えぬまま続ける。
「だったら、処刑されても構いません。
俺が死ねば、本来あるべき形に戻るんでしょう」
椅子が軋む音が響いた。
アルヴェインが勢いよく身を乗り出す。
「そんなこと、認められるはずがありません!」
穏やかなアルヴェインの初めての声に驚き、珍しく朔の目が見開かれる。
「サク、あなたは被害者です。
突然別の世界に呼び出され、何の説明も選択も与えられなかった。
そんなあなたを処刑するなど、あまりにも非人道的だ」
一度言葉を切り、強く言い切る。
「私は、そんなことはしません。神に誓って」
澄んだ青の瞳が、真っ直ぐに朔を捉える。
そこにあるのは王族の威厳ではなく、一人の人間の意思だった。
朔は一瞬だけ目を瞬かせる。
それでも、その表情は変わらない。
アルヴェインは深く息を吸い、声を落ち着かせた。
「もう一つ、可能性があります。
サクを、元の世界へ戻すことです」
「戻す、そんなことができるんですか」
「前例はありません。
召喚陣を作った術師も、この陣は一方通行だと言っています」
重い沈黙が場を包む。
「ただ、帰還の研究が進まなかった理由があります。
これまでの神子たちは、誰一人として帰ろうとしなかった」
アルヴェインは続ける。
「彼女たちは、この世界で生きる道を選びました。
ですが、記録は残されています。
神子たちがニホンゴで書き残した手記です」
朔は、ゆっくりと顔を上げた。
「手記...日記のようなものですか」
「恐らくそうです。
私たちはそのニホンゴというものは読めません。ですので、サクにはその手記たちから元の世界へ戻るヒントを探していただきたいのです。
もちろん術師も研究を進めます
必ずサクを生かし、元の世界へ送り届けるために」
必死な声音だった。
それは国のためというより、目の前の一人を救おうとする声だった。
朔は目を伏せ、静かに息を吐く。
「分かりました。協力します」
その返答に、アルヴェインは明らかに安堵した。
肩の力が抜け、張り詰めていた空気が少し和らぐ。
しかし、その様子を見つめる朔の瞳には、
まだ何の希望も宿ってはいなかった。
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