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第一章
第三話
しおりを挟む翌朝。
扉を叩くノックの音で、朔は目を覚ました。
「失礼いたします」
控えめな声とともに、中年のメイドが姿を現す。
「朝食の準備が整いました。第二王子殿下がお待ちです。食堂へご案内いたします」
(……いよいよ夢ではなさそうだな)
こんな状況にもかかわらず驚くほどぐっすり眠っていたらしく、頭はすっきりしている。
自分の図太さに苦笑しながら、身支度を整えた。
鏡に映る自分は、思ったよりも落ち着いた顔をしていた。
案内されて通されたのは、広々とした食堂だった。
高い天井に長いテーブル、豪奢な装飾。
その一番奥で、アルヴェイン第二王子は新聞を読みながら腰掛けていた。
(……イケメンは、新聞を読んでいるだけで絵になるんだな)
朝日に照らされたその姿はあまりにも現実離れしていて、思わずぼうっと見入ってしまう。
やがて、そんな朔の視線に気づいたアルヴェインは、静かに新聞を畳み、席を立ってこちらへ歩み寄ってきた。
「おはようございます、サク。
昨日はお会いできず、誠に申し訳ありませんでした」
深く頭を下げるその姿に、思わず目を瞬かせる。
「手続きが予想以上に長引いてしまい……あなたを不安なままお待たせする形になったこと、心よりお詫び申し上げます」
「...全然、大丈夫です」
短く答えると、王子は少しだけ安堵したように表情を緩めた。
料理が運ばれ、テーブルが色鮮やかな皿で満たされていく。
最後の一皿が置かれ、メイドが下がったのを見計らって、アルヴェインは改めてサクに向き直った。
「さて、改めてお話ししましょう」
一度息を整え、真剣な眼差しで言葉を紡ぐ。
「まず、この王国には古くから続く“神子召喚”という伝統があります。
異世界より神子を呼び、その神子を迎え入れた王子が、次代の王となる資格を得る——そう定められているのです」
「資格、ですか」
思わず零れた言葉に、王子は静かに頷く。
「はい。私には兄がおります。第一王子、レオニール。
通常であれば彼が王位を継ぐ立場ですが、この国では“先に神子を召喚した者”が次期国王となる慣習があります」
「先日、兄が初めて召喚の儀を行いました。しかし結果は……失敗でした。
そして次の機会が、私に回ってきたのです」
視線を伏せ、少しだけ間を置いてから、彼は続ける。
「——そして昨日。私の召喚の儀で、あなたがこの世界に現れました。
ただし……これまで召喚された神子は、例外なく女性でした」
「...なるほど」
朔の言葉に、アルヴェインは小さく息を吐く。
「ええ。成功か失敗か、誰にも判断できなかった。だからこそ、聖堂は困惑に包まれていたのです」
「あなたにとって、理不尽で理解しがたい話だと思います。
それでも、これが、現時点でお伝えできるすべての事情です」
誠実さを貫こうとするその姿勢に、朔は目を伏せ、静かに頷いた。
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