望まれない神子は第二王子に弱愛される

てあらいうがい

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第一章

第二話

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応接間でどれほどの時間を過ごしたのだろうか。
壁に掛けられた時計だけが、無機質な音を立てて規則正しく時を刻んでいる。
その音がやけに大きく感じられ、耳に残った。

自分には不釣り合いな部屋に落ち着かず、何度か立ち上がり、扉の方へ視線を向けたが、開く気配はない。
使用人が様子を見に来ることもなければ、声をかけられることもなかった。

(……やっぱり、放置か)

そう思っても、不思議と腹は立たなかった。
期待していなかった、というほうが正しいのかもしれない。

やがて、外の光が少しずつ赤みを帯び始める。
窓の向こうで日が傾いていくのを見て、ようやく現実感が湧いた。

——第二王子は、結局現れなかったのだ。

日が暮れはじめた頃、ようやく応接間の重い扉がゆっくりと開いた。
入ってきたのは、あの大柄な騎士だった。

「こちらへ。今夜は別邸にご案内いたします」

感情の籠らない、事務的な声。
だが、その淡々さに責めるような響きはなかった。

「……第二王子は?」

思わず口にすると、騎士は一瞬だけ視線を伏せ、すぐに前を向く。

「本日は、お越しになれません」

それ以上の説明はなかった。

騎士の後に続き、城の中を歩き、外へ出る。
夜の空気は冷たく、昼間の緊張を思い出させるように肌を撫でた。

城から少し離れた場所に建つ離宮は、立派ではあるものの、人の気配が薄い。
行き交う使用人の数も少なく、どこか静まり返っている。

「…静かですね」

ぽつりと漏らした言葉に、騎士は短く答えた。

「最低限の者しか配置されておりません」

それだけ言うと、彼は一室の前で足を止めた。

扉が開かれ、促されるまま中へ入る。

「こちらの部屋をお使いください」

「説明は…」

思わずそう口からこぼれた。騎士はわずかに眉を下げ、小さく首を振った。

「...私の口から話せることはありません」

それだけ告げて、扉は静かに閉じられた。

(……そういうことか)

部屋に残されたまま、サクは小さく息を吐く。

どうしてここに連れてこられたのか。
これからどうなるのか。
聞きたいことは山ほどあるのに、答えはどこにもない。

考え続けても仕方がないと判断し、備え付けの風呂へ向かう。
湯に浸かると、張りつめていた神経が少しずつ緩んでいくのが分かった。

着替えを探すと、クローゼットには柔らかな素材のパジャマが用意されていた。
借り物だと分かっていながら、袖を通す。

(夢のくせに眠れるのか?)

ベッドに横になり、天井を見上げる。
状況は何一つ理解できていないのに、体は正直だった。

離宮の静寂に包まれながら、サクはそのまま眠りに落ちた。

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