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ep.1-3 Awakening
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ゆっくりと目を開けた。薄い膜を破るように視界が広がり、私は思わず息を呑む。
浮いている。
そう思わずにはいられなかった。腰を落ち着けているシートの周囲は、まるでビルの高さに合わせるように都市の景色が360度、泡の中に閉じ込められたように広がっていた。
言葉が追いつかない。私の貧弱な語彙では、その光景はただ「不思議」としか表現できなかった。
手に視線を移す。シートの左右には、レバーが1本ずつと、サイズのばらけた沢山のボタン、キーボードのようなものもあった。足にもペダルがある。
これは――。
「これが、ロボットのコックピット……」
胸の内で呟いた瞬間、違和感にも似た現実味がずしりと腹に落ちてきた。ロボットアニメなどほとんど知らない私でも、ここが“心臓部”だと直感できる。
だが、決定的な問題があった。
私は、これからどうすればいいのか?まさか、あの黒いロボットを倒すのか?
答えは、あっけないほど唐突にもたらされた。
「そこに乗っているのは誰だ?」
視界の左側に、突然長方形の画面が現れた。50歳ぐらいの男が映し出されている。軍人というより研究者に近い、鋭いが疲れの滲む目つきが私を睨む。
「あ、えっ?私ですか?」
「そうだ、君の名前は?まさか、フロンティア人か?」
「わ……私は、橘杏子……です」
それよりこれはなんですか?と、基本のキのような質問をする前に、男は言葉を連ねた。
「地球人か、ならばいい。早速だが、君にはあの黒いロボットを倒してほしい」
「やっぱり……ですか」
「そうだ、詳しい操縦に関しては渡辺くんから伝える」
男の言葉と同時に、右側にも新たな画面が開いた。若い女性が映し出される。彼女は眉を伏せたまま、申し訳なさそうに口を開いた。
「渡辺未来と言います、こんなことになってごめんなさい。だけど、私たちはあなたに頼るしかないの」
「……」
淡々とした口調だが、その裏に焦りと覚悟が滲んでいる。
「では、これから説明を始めるのでよく聞いてください。まず、その機体は『白龍』と言います」
「は……はくりゅう……?」
さっき私が叫んだ名前と、同じだ。偶然とは思えないが、その思考がまとまる前に説明は続く。
「これからあなたが座っているシートが発光します。操縦情報をあなたの神経に同期させるためのものですから、そのまま座っていてください」
次の瞬間、シートが緑色の光を放った。
「えっ、ちょっと……!」
痛みも感触もない。ただ、何かが私の中に流れ込んでくるような奇妙な感覚だけが残った。
発光はわずか5秒ほどで終わった。
「どうですか?」
「どうって言われても……」
私は答えに窮した。何が起きたのか、さっぱりだった。ただ――。
分かる。私はこの機体を動かせる。
「それでは、あのロボットを倒してください。民間人への被害は出ないようにしてありますが、建物などへの影響は戦闘後も残るので、なるべく穏便に済ませてください」
「穏便に、って……」
突如、ビーッという鈍い音がコックピット中に反響した。
「敵機、来ます!」
思わず視界を正面に戻した瞬間、世界が弾けた。
黒い巨体が突き飛ばすようにぶつかり、私は後方へと吹き飛ばされる。体中に衝撃が走り、背中がシートに叩きつけられる。手が思わずレバーから離れ、咄嗟に頭を守っていた。
次の瞬間、激しい衝突音と共に、私の体は前に押し出された。車が後ろから追突された時みたいに。
「ぐはっ!」
唾が口から飛んだ。シートベルトに似た装置がなければ、私はコックピットから放り出されていたかもしれない。
「なにが……起きて……」
私はおもむろに背後のモニターを見た。新宿駅が微かに見える。どうやら敵に吹っ飛ばされ、駅ビルに叩きつけられたらしい。ビルが激しく損壊している。
「ぶ……武器は!?」
緑のボタンを押すと、機体状況が表示された。左腕が黄色く点滅している。さっきの一撃で破損したのだ。
「草薙……日本刀?」
白龍の武装は、どうやら巨大な刀一本――いや、正確には“湾刀”。古代の日本刀を模したものだ。
「起き上がって!早く!」
私は両方のレバーをググッと前に倒した。機体がゆっくりと立ち上がる。肩に乗っていた瓦礫がパラパラと落ちる。
私が赤いボタンを押すと、機体は左腰部の鞘に収められていた刀を抜いた。巨大な刀には崩壊したビル群が反射していた。
「でも、どうすれば……!」
再び警告音。黒い機体が地面を揺らして突進してくる。大剣を振り上げながら。
やばい。このままだと――。
「死ぬ」
直感だった。強烈な確信だった。
そうだ、そうか。
私がやらないといけないこと。守らないといけないもの。そのために犠牲にしないといけないこと。
私はレバーを強く握る。血が滲むような強さで。機体の右手にも刀が握られている。
ペダルを踏み込む。
スラスターが咆哮し、白龍が白い軌跡を描いて突進する。
敵機との距離が表示される。200、160、120、80。
ゼロになった瞬間、なにが起こるかは分かっていた。
死ぬか、殺すか。
私は――。
だから、私は。
――殺す。
気がついた時には、刀は敵機の胸部を貫いていた。巨大な刃が突き抜け、黒い装甲の内部で青白い電流が弾ける。
視界を巡らせた私は、自機の左腕が切断されて地面に落ちているのに気付いた。敵の大剣が通り過ぎた痕跡だ。
「終わった……?」
敵機はびくとも動かない。それが意味することは痛いほど明らかだった。
私は生き残った。
そして、
殺したのだ。
浮いている。
そう思わずにはいられなかった。腰を落ち着けているシートの周囲は、まるでビルの高さに合わせるように都市の景色が360度、泡の中に閉じ込められたように広がっていた。
言葉が追いつかない。私の貧弱な語彙では、その光景はただ「不思議」としか表現できなかった。
手に視線を移す。シートの左右には、レバーが1本ずつと、サイズのばらけた沢山のボタン、キーボードのようなものもあった。足にもペダルがある。
これは――。
「これが、ロボットのコックピット……」
胸の内で呟いた瞬間、違和感にも似た現実味がずしりと腹に落ちてきた。ロボットアニメなどほとんど知らない私でも、ここが“心臓部”だと直感できる。
だが、決定的な問題があった。
私は、これからどうすればいいのか?まさか、あの黒いロボットを倒すのか?
答えは、あっけないほど唐突にもたらされた。
「そこに乗っているのは誰だ?」
視界の左側に、突然長方形の画面が現れた。50歳ぐらいの男が映し出されている。軍人というより研究者に近い、鋭いが疲れの滲む目つきが私を睨む。
「あ、えっ?私ですか?」
「そうだ、君の名前は?まさか、フロンティア人か?」
「わ……私は、橘杏子……です」
それよりこれはなんですか?と、基本のキのような質問をする前に、男は言葉を連ねた。
「地球人か、ならばいい。早速だが、君にはあの黒いロボットを倒してほしい」
「やっぱり……ですか」
「そうだ、詳しい操縦に関しては渡辺くんから伝える」
男の言葉と同時に、右側にも新たな画面が開いた。若い女性が映し出される。彼女は眉を伏せたまま、申し訳なさそうに口を開いた。
「渡辺未来と言います、こんなことになってごめんなさい。だけど、私たちはあなたに頼るしかないの」
「……」
淡々とした口調だが、その裏に焦りと覚悟が滲んでいる。
「では、これから説明を始めるのでよく聞いてください。まず、その機体は『白龍』と言います」
「は……はくりゅう……?」
さっき私が叫んだ名前と、同じだ。偶然とは思えないが、その思考がまとまる前に説明は続く。
「これからあなたが座っているシートが発光します。操縦情報をあなたの神経に同期させるためのものですから、そのまま座っていてください」
次の瞬間、シートが緑色の光を放った。
「えっ、ちょっと……!」
痛みも感触もない。ただ、何かが私の中に流れ込んでくるような奇妙な感覚だけが残った。
発光はわずか5秒ほどで終わった。
「どうですか?」
「どうって言われても……」
私は答えに窮した。何が起きたのか、さっぱりだった。ただ――。
分かる。私はこの機体を動かせる。
「それでは、あのロボットを倒してください。民間人への被害は出ないようにしてありますが、建物などへの影響は戦闘後も残るので、なるべく穏便に済ませてください」
「穏便に、って……」
突如、ビーッという鈍い音がコックピット中に反響した。
「敵機、来ます!」
思わず視界を正面に戻した瞬間、世界が弾けた。
黒い巨体が突き飛ばすようにぶつかり、私は後方へと吹き飛ばされる。体中に衝撃が走り、背中がシートに叩きつけられる。手が思わずレバーから離れ、咄嗟に頭を守っていた。
次の瞬間、激しい衝突音と共に、私の体は前に押し出された。車が後ろから追突された時みたいに。
「ぐはっ!」
唾が口から飛んだ。シートベルトに似た装置がなければ、私はコックピットから放り出されていたかもしれない。
「なにが……起きて……」
私はおもむろに背後のモニターを見た。新宿駅が微かに見える。どうやら敵に吹っ飛ばされ、駅ビルに叩きつけられたらしい。ビルが激しく損壊している。
「ぶ……武器は!?」
緑のボタンを押すと、機体状況が表示された。左腕が黄色く点滅している。さっきの一撃で破損したのだ。
「草薙……日本刀?」
白龍の武装は、どうやら巨大な刀一本――いや、正確には“湾刀”。古代の日本刀を模したものだ。
「起き上がって!早く!」
私は両方のレバーをググッと前に倒した。機体がゆっくりと立ち上がる。肩に乗っていた瓦礫がパラパラと落ちる。
私が赤いボタンを押すと、機体は左腰部の鞘に収められていた刀を抜いた。巨大な刀には崩壊したビル群が反射していた。
「でも、どうすれば……!」
再び警告音。黒い機体が地面を揺らして突進してくる。大剣を振り上げながら。
やばい。このままだと――。
「死ぬ」
直感だった。強烈な確信だった。
そうだ、そうか。
私がやらないといけないこと。守らないといけないもの。そのために犠牲にしないといけないこと。
私はレバーを強く握る。血が滲むような強さで。機体の右手にも刀が握られている。
ペダルを踏み込む。
スラスターが咆哮し、白龍が白い軌跡を描いて突進する。
敵機との距離が表示される。200、160、120、80。
ゼロになった瞬間、なにが起こるかは分かっていた。
死ぬか、殺すか。
私は――。
だから、私は。
――殺す。
気がついた時には、刀は敵機の胸部を貫いていた。巨大な刃が突き抜け、黒い装甲の内部で青白い電流が弾ける。
視界を巡らせた私は、自機の左腕が切断されて地面に落ちているのに気付いた。敵の大剣が通り過ぎた痕跡だ。
「終わった……?」
敵機はびくとも動かない。それが意味することは痛いほど明らかだった。
私は生き残った。
そして、
殺したのだ。
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