機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds

るろうに

文字の大きさ
4 / 38

ep.1-3 Awakening

しおりを挟む
 ゆっくりと目を開けた。薄い膜を破るように視界が広がり、私は思わず息を呑む。
 
 浮いている。

 そう思わずにはいられなかった。腰を落ち着けているシートの周囲は、まるでビルの高さに合わせるように都市の景色が360度、泡の中に閉じ込められたように広がっていた。

 言葉が追いつかない。私の貧弱な語彙では、その光景はただ「不思議」としか表現できなかった。

 手に視線を移す。シートの左右には、レバーが1本ずつと、サイズのばらけた沢山のボタン、キーボードのようなものもあった。足にもペダルがある。

 これは――。

「これが、ロボットのコックピット……」

 胸の内で呟いた瞬間、違和感にも似た現実味がずしりと腹に落ちてきた。ロボットアニメなどほとんど知らない私でも、ここが“心臓部”だと直感できる。
 
 だが、決定的な問題があった。

 私は、これからどうすればいいのか?まさか、あの黒いロボットを倒すのか?

 答えは、あっけないほど唐突にもたらされた。

「そこに乗っているのは誰だ?」

 視界の左側に、突然長方形の画面が現れた。50歳ぐらいの男が映し出されている。軍人というより研究者に近い、鋭いが疲れの滲む目つきが私を睨む。

「あ、えっ?私ですか?」
「そうだ、君の名前は?まさか、フロンティア人か?」
「わ……私は、橘杏子……です」

 それよりこれはなんですか?と、基本のキのような質問をする前に、男は言葉を連ねた。

「地球人か、ならばいい。早速だが、君にはあの黒いロボットを倒してほしい」
「やっぱり……ですか」
「そうだ、詳しい操縦に関しては渡辺くんから伝える」

 男の言葉と同時に、右側にも新たな画面が開いた。若い女性が映し出される。彼女は眉を伏せたまま、申し訳なさそうに口を開いた。

渡辺未来わたなべみらいと言います、こんなことになってごめんなさい。だけど、私たちはあなたに頼るしかないの」
「……」

 淡々とした口調だが、その裏に焦りと覚悟が滲んでいる。

「では、これから説明を始めるのでよく聞いてください。まず、その機体は『白龍』と言います」
「は……はくりゅう……?」

 さっき私が叫んだ名前と、同じだ。偶然とは思えないが、その思考がまとまる前に説明は続く。

「これからあなたが座っているシートが発光します。操縦情報をあなたの神経に同期させるためのものですから、そのまま座っていてください」

 次の瞬間、シートが緑色の光を放った。

「えっ、ちょっと……!」

 痛みも感触もない。ただ、何かが私の中に流れ込んでくるような奇妙な感覚だけが残った。

 発光はわずか5秒ほどで終わった。

「どうですか?」
「どうって言われても……」

 私は答えに窮した。何が起きたのか、さっぱりだった。ただ――。

 分かる。私はこの機体を動かせる。

「それでは、あのロボットを倒してください。民間人への被害は出ないようにしてありますが、建物などへの影響は戦闘後も残るので、なるべく穏便に済ませてください」
「穏便に、って……」

 突如、ビーッという鈍い音がコックピット中に反響した。

「敵機、来ます!」

 思わず視界を正面に戻した瞬間、世界が弾けた。

 黒い巨体が突き飛ばすようにぶつかり、私は後方へと吹き飛ばされる。体中に衝撃が走り、背中がシートに叩きつけられる。手が思わずレバーから離れ、咄嗟に頭を守っていた。

 次の瞬間、激しい衝突音と共に、私の体は前に押し出された。車が後ろから追突された時みたいに。

「ぐはっ!」

 唾が口から飛んだ。シートベルトに似た装置がなければ、私はコックピットから放り出されていたかもしれない。

「なにが……起きて……」

 私はおもむろに背後のモニターを見た。新宿駅が微かに見える。どうやら敵に吹っ飛ばされ、駅ビルに叩きつけられたらしい。ビルが激しく損壊している。

「ぶ……武器は!?」

 緑のボタンを押すと、機体状況が表示された。左腕が黄色く点滅している。さっきの一撃で破損したのだ。

「草薙……日本刀?」

 白龍の武装は、どうやら巨大な刀一本――いや、正確には“湾刀”。古代の日本刀を模したものだ。

「起き上がって!早く!」

 私は両方のレバーをググッと前に倒した。機体がゆっくりと立ち上がる。肩に乗っていた瓦礫がパラパラと落ちる。

 私が赤いボタンを押すと、機体は左腰部の鞘に収められていた刀を抜いた。巨大な刀には崩壊したビル群が反射していた。

「でも、どうすれば……!」

 再び警告音。黒い機体が地面を揺らして突進してくる。大剣を振り上げながら。
 
 やばい。このままだと――。

「死ぬ」
 
 直感だった。強烈な確信だった。

 そうだ、そうか。

 私がやらないといけないこと。守らないといけないもの。そのために犠牲にしないといけないこと。

 私はレバーを強く握る。血が滲むような強さで。機体の右手にも刀が握られている。

 ペダルを踏み込む。
 
 スラスターが咆哮し、白龍が白い軌跡を描いて突進する。

 敵機との距離が表示される。200、160、120、80。

 ゼロになった瞬間、なにが起こるかは分かっていた。

 死ぬか、殺すか。

 私は――。

 だから、私は。

 ――殺す。

 気がついた時には、刀は敵機の胸部を貫いていた。巨大な刃が突き抜け、黒い装甲の内部で青白い電流が弾ける。

 視界を巡らせた私は、自機の左腕が切断されて地面に落ちているのに気付いた。敵の大剣が通り過ぎた痕跡だ。

「終わった……?」

 敵機はびくとも動かない。それが意味することは痛いほど明らかだった。

 私は生き残った。

 そして、

 殺したのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...