機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds

るろうに

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ep.2-4 iARTS

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 強烈な衝撃が背中から頭へ抜け、視界がぐらついた。全天周囲モニターの映像が一瞬だけ砂嵐のように乱れ、代わりに警告表示が次々と弾けるように広がっていく。

 中央に焦点を合わせた瞬間、黒いロボットが私のはるか頭上に影のように佇んでいるのが見えた。

 ——墜落。

 その2文字が脳裏をよぎる。それでも白龍に深刻な損傷が出ていないのは、その異常なまでの頑丈さゆえだろう。

「大丈夫ですか!?」
「ええ……まあ、なんとか……」

 中津川さんの焦りに満ちた声に脊髄反射で返す。実際には大丈夫ではない。頭の奥に響く鈍い痛みが、むしろ正直に状況を物語っている。

 だが、もっと奇妙なのは敵の動きだ。本気になれば今まさにトドメを刺せるはずなのに、殺意の圧が感じられない。

 やがて、水飛沫がつくっていた虹色の光が消えるころ、黒いロボットは大剣を構えたまま、ふわりと高度を落としてきた。まるで哀れな小動物でも見下ろすような、そんな態度で。

 その見方はある意味で正しかった。

「白き魔物の操者よ、いまこの場で朽ち果てたいか?」

 朽ち果てる、つまり、死ぬということ。齢16の自分にはあまりにも重い決断だ。

「い……いやだっ」
「ほう、何故に貴様はそう考えるか?」
「私にはっ、まだ守りたいものがあるっ……!」
「守りたいもの、とな」
「そ……そう、守りたいものがっ……」

 東京の街並み、人々、そして、友達。失いたくないものがある。それだけの理由で、私は白龍に乗っている。

 黒いロボットは剣を下ろした。ほんの一瞬、思いが通じたのかと錯覚した。

 だが、その淡い期待はすぐに風に吹かれた砂のように消える。

「では、その守りたいものとやら——すべて潰してやろう」
「……は?」
「聞こえぬか。貴様の望むものを、片端から破壊すると言った」

 胸が冷たくなる。狂気に聞こえるのに、その声には迷いがなかった。

「まずはあの街に砲弾の雨を降らせてみせよう」

 黒いロボットの頭が海沿いの街の方向を向く。

 正気だ、そして、本気だ。

 気づいた時には、私の指は操縦レバーの赤いボタンを押し込んでいた。白龍の頭部からバルカンが唸りを上げ、敵の装甲を削り取る。

「ふ……ふざけるなぁっ!!」

 喉が裂けるほど叫ぶ。

 白龍の背部スラスターが爆ぜるように噴射し、海面を蹴って一気に姿勢を立て直しながら黒いロボットを押し出す。機体同士が激突する鈍い衝撃音が、戦いの激しさを物語った。

「街の豊かさもっ!人々の優しさもっ!私の決意も知らないでっ!よくもそんなことをっっ!!」

 血が頭に上る。理性ではなく、感情が私を動かしていた。

「よくも人を殺そうとしたなっ、殺そうとしたなっっ!!」

 レバーを握る手に力が入り、白龍が刀を構える。刃が黒い機体の左脚を切り裂き、体勢を崩した隙に、さらに右肩へ鋭く突き立てた。

「このっ!このっっ!!」

 白龍のバルカン砲が敵の頭部を執拗に攻撃する。それこそ、徹底的に破壊されるまで。

 オーバーヒート警告が赤く点滅する頃、黒いロボットはもはや大破寸前だった。切断面から内部機構が露わになり、黒い粒子が煙のように漏れ出している。

「これで——!」

 刀を振り上げた、その瞬間。

「ふんっ、それがそちらの魔物の性能か。いいものを見せてもらった」

 黒いロボットの残った右脚が白龍を蹴り飛ばした。

「また会おう、それまでに貴様が生き残れたらな」

 黒い機体は海へと撤退を始める。

 私は反射的に追おうとペダルを強く踏み込んだ。しかし、白龍は微動だにしなかった。

「橘さん!橘さん!」

 中津川さんの必死の声が耳を打つ。

「なんですか!私はあいつを!」
「もう終わりです!あの人を殺す必要はないでしょう!」

 殺す——。

 その言葉が胸に刺さった。

 私は、なにをしようとしていたのか。

 ——人を殺そうとしていた。

 その自覚が、急激に冷たい感覚となって全身を締めつけた。



 ぼんやりしていた視界が徐々にクリアになっていく。いつの間にか私は新宿へ戻っていて、目の前には葵がいた。

「葵……」
「杏子、勝ったんだね?」
「うん……」

 葵は弾むように身体を揺らし、喜びを隠しきれずに笑った。

「やった!ありがとう、杏子!」
「そんな、大げさだよ……」
「大げさじゃないよ!杏子のおかげで、たくさんの人が助かったんだよ!」

 素直な笑顔が眩しい。その言葉が嬉しいはずなのに、胸の奥は重かった。

 ——私は敵を殺そうとした。それも、強い意志をもって。

「うん?どうした?杏子」
「う……うん、ちょっと気になることがあってね……」

 視線を外して空を仰ぐ。この平和な空を守ったのも紛れもない事実だ。だが、胸の痛みが消えることはなかった。

 私はスマホを取り出し、さきほどの番号を押した。

「はい、中津川です」
「橘です。……橘杏子です」
「あっ、橘さん!今回も本当にありがとうございます。無茶な作戦に付き合わせてしまって……」
「いえ。こちらこそ。東京を、守ってくれて……ありがとうございました。それで、ひとつお願いがあるんです」
「なんでしょうか?」

 深く息を吸って、意を決した。

「私に、戦い方を、守り方を教えてください」

 それは、事実上のiARTS参加表明だった。
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