31 / 38
ep.8-2 Arousal
しおりを挟む
私の涙は止まるところを知らなかった。ありとあらゆる感情がバグったかのように噴出し、心を悲しみの海へと突き落とした。
「ちょっ……杏子……」
葵が走り寄ってくる。不安そうな声がする。
「だ……大丈夫?」
「わ……私……」
私の声がカスカスになって放出される。
「私……やっぱり、死んでた……前世で、機体ごと……焼かれて……」
パイロットスーツの裾を握る。その力は、意外なまでに強かった。
熱線で焼かれたビル、赤く染まったコックピット、ラグール、そして、エレーナ姫。
その全てが、いまの私が抱えるには重すぎる光景だった。
「私、生きてるの、かな?」
「……」
「私、ほんとはもう死んでて、いま見てるのは単なる夢で……私が守ろうとしてるものも」
「違うよ」
葵が迷いなく答える。その声は冷淡で、しかし温かみのあるものだった。
「杏子は……いま、ちゃんとここにいるよ。ちゃんと苦しんで、ちゃんと泣いてる。それは生きてるってことでしょ?」
――生きてる。私は、生きてる。
胸を突かれたように、息が止まる。葵がしゃがんで私の背中をそっと撫でる。
「だから、言ったでしょ?杏子は杏子だよ。誰もそれを疑ったりなんかしないよ」
「そうよ、杏子ちゃん」
優月の手も背中に合わさる。
「今回も助けてくれてありがとう……杏子ちゃんの声、胸にグッときた」
「声……?」
「この街を、友達を守りたいって。杏子ちゃんってものすごく優しい子だなって思った。友達になれて、よかった……」
優月の声が私の胸に触れた。優しく、丁寧に。
私はやっぱり泣いていた。だけど、そこに負の感情はなかった。
――私、戦ってよかったんだ……。
そう思った時、優月のスマホが鳴った。「ごめん」と一置きし、優月がスマホを取る。
「はい……はい……わかりました」
「なんの電話?」
葵が情報を聞き出そうとする。
「さっき戦った敵が機体から救出されたんだって……いまiARTS本部まで搬送されてる。わたしたちの元にも送迎の車が来るって……」
私は俯いた。さっきまで戦った相手なのに、殺したいと思った相手なのに……。
「行きなよ」
「……え?」
立ち上がった葵から言葉が降ってくる。
「思うところがあるなら、面と向かって言ったほうがいいよ」
「でも……」
「あーもう悩まない!悩まないのもロボット同好会の鉄則!」
「それ、いつ決めたの?」
「いま!」
優月の質問に葵が即答する。その姿はあまりにもすっきりしていて、どこか愉快だった。
「ふふっ……わかったよ、行く」
「それでこそ、杏子!」
立ち上がった私の背中を葵がポンと叩く。その強さに、私は元気づけられた。
iARTS本部の医務室。アリア、と自称した女は、ラグールとは別の部屋にいた。
白く塗装された扉が開かれると、紅色の髪が目に映った。紅の、胸までかかろうとするロングヘア。服は黒のローブで、左胸に紋章が描かれている。その姿は、ラグールのものと瓜二つだった。
女は、ベッドの上に横たわっていた。
「あっ……」
私と女の目がぴたりと合う。女からは、不思議にも敵意を感じなかった。それどころか。
「先ほどは、本当に申し訳ないことをしました……」
彼女は深々と頭を下げた。
「エレーナ姫に剣を振るうなど、決してあってはならないこと。兵士として、人間として……」
「それだけですか?」
私は手をきつく握った。隣の優月が「杏子ちゃん?」と声をかける。
「あんなに街を壊して、人を殺して、私の友達を傷つけて……それなのに……」
――それなのに。
「私に対する……謝罪だけですか?」
「それは……」
私は女の方へと歩み出していた。1歩、2歩と近づく。
そして、気づけば手が女の首へと伸びていた。周りの大人たちが制止しようとするのを優月が遮る。
「謝れ!私にではなく、街に!みんなに!!」
怒号が跳ねる。それは、私の心からの思いだった。
――今回の襲撃で、どれだけ街は傷ついたのだろう?どれだけ人が死んだのだろう?
どれだけ、友達や春翔は怖い思いをしたんだろう……?
「謝れ!!」
「ご……ごめんな……さい……」
女の首を掴む手を涙が伝う。私はそれでも手を離さなかった。
「ごめん……なさい……ほんとうに……」
「杏子ちゃん……もういいよ」
優月のなだめる声で、私はようやく女の首から手を解いた。女の咳き込みが聞こえる。
「杏子ちゃん……」
「もう行こ」
そう言って私は部屋を出ようとした。けれども、その足はすぐに止まった。
「待って!私、知ってる!フロンティアのこと!あなたの機体のこと!」
首を後ろへ巡らせる。その先には、ベッドから身を乗り出した女の姿があった。
「ちょっ……杏子……」
葵が走り寄ってくる。不安そうな声がする。
「だ……大丈夫?」
「わ……私……」
私の声がカスカスになって放出される。
「私……やっぱり、死んでた……前世で、機体ごと……焼かれて……」
パイロットスーツの裾を握る。その力は、意外なまでに強かった。
熱線で焼かれたビル、赤く染まったコックピット、ラグール、そして、エレーナ姫。
その全てが、いまの私が抱えるには重すぎる光景だった。
「私、生きてるの、かな?」
「……」
「私、ほんとはもう死んでて、いま見てるのは単なる夢で……私が守ろうとしてるものも」
「違うよ」
葵が迷いなく答える。その声は冷淡で、しかし温かみのあるものだった。
「杏子は……いま、ちゃんとここにいるよ。ちゃんと苦しんで、ちゃんと泣いてる。それは生きてるってことでしょ?」
――生きてる。私は、生きてる。
胸を突かれたように、息が止まる。葵がしゃがんで私の背中をそっと撫でる。
「だから、言ったでしょ?杏子は杏子だよ。誰もそれを疑ったりなんかしないよ」
「そうよ、杏子ちゃん」
優月の手も背中に合わさる。
「今回も助けてくれてありがとう……杏子ちゃんの声、胸にグッときた」
「声……?」
「この街を、友達を守りたいって。杏子ちゃんってものすごく優しい子だなって思った。友達になれて、よかった……」
優月の声が私の胸に触れた。優しく、丁寧に。
私はやっぱり泣いていた。だけど、そこに負の感情はなかった。
――私、戦ってよかったんだ……。
そう思った時、優月のスマホが鳴った。「ごめん」と一置きし、優月がスマホを取る。
「はい……はい……わかりました」
「なんの電話?」
葵が情報を聞き出そうとする。
「さっき戦った敵が機体から救出されたんだって……いまiARTS本部まで搬送されてる。わたしたちの元にも送迎の車が来るって……」
私は俯いた。さっきまで戦った相手なのに、殺したいと思った相手なのに……。
「行きなよ」
「……え?」
立ち上がった葵から言葉が降ってくる。
「思うところがあるなら、面と向かって言ったほうがいいよ」
「でも……」
「あーもう悩まない!悩まないのもロボット同好会の鉄則!」
「それ、いつ決めたの?」
「いま!」
優月の質問に葵が即答する。その姿はあまりにもすっきりしていて、どこか愉快だった。
「ふふっ……わかったよ、行く」
「それでこそ、杏子!」
立ち上がった私の背中を葵がポンと叩く。その強さに、私は元気づけられた。
iARTS本部の医務室。アリア、と自称した女は、ラグールとは別の部屋にいた。
白く塗装された扉が開かれると、紅色の髪が目に映った。紅の、胸までかかろうとするロングヘア。服は黒のローブで、左胸に紋章が描かれている。その姿は、ラグールのものと瓜二つだった。
女は、ベッドの上に横たわっていた。
「あっ……」
私と女の目がぴたりと合う。女からは、不思議にも敵意を感じなかった。それどころか。
「先ほどは、本当に申し訳ないことをしました……」
彼女は深々と頭を下げた。
「エレーナ姫に剣を振るうなど、決してあってはならないこと。兵士として、人間として……」
「それだけですか?」
私は手をきつく握った。隣の優月が「杏子ちゃん?」と声をかける。
「あんなに街を壊して、人を殺して、私の友達を傷つけて……それなのに……」
――それなのに。
「私に対する……謝罪だけですか?」
「それは……」
私は女の方へと歩み出していた。1歩、2歩と近づく。
そして、気づけば手が女の首へと伸びていた。周りの大人たちが制止しようとするのを優月が遮る。
「謝れ!私にではなく、街に!みんなに!!」
怒号が跳ねる。それは、私の心からの思いだった。
――今回の襲撃で、どれだけ街は傷ついたのだろう?どれだけ人が死んだのだろう?
どれだけ、友達や春翔は怖い思いをしたんだろう……?
「謝れ!!」
「ご……ごめんな……さい……」
女の首を掴む手を涙が伝う。私はそれでも手を離さなかった。
「ごめん……なさい……ほんとうに……」
「杏子ちゃん……もういいよ」
優月のなだめる声で、私はようやく女の首から手を解いた。女の咳き込みが聞こえる。
「杏子ちゃん……」
「もう行こ」
そう言って私は部屋を出ようとした。けれども、その足はすぐに止まった。
「待って!私、知ってる!フロンティアのこと!あなたの機体のこと!」
首を後ろへ巡らせる。その先には、ベッドから身を乗り出した女の姿があった。
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる