機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds

るろうに

文字の大きさ
31 / 35

ep.8-2 Arousal

しおりを挟む
 私の涙は止まるところを知らなかった。ありとあらゆる感情がバグったかのように噴出し、心を悲しみの海へと突き落とした。

「ちょっ……杏子……」

 葵が走り寄ってくる。不安そうな声がする。

「だ……大丈夫?」
「わ……私……」

 私の声がカスカスになって放出される。

「私……やっぱり、死んでた……前世で、機体ごと……焼かれて……」

 パイロットスーツの裾を握る。その力は、意外なまでに強かった。

 熱線で焼かれたビル、赤く染まったコックピット、ラグール、そして、エレーナ姫。

 その全てが、いまの私が抱えるには重すぎる光景だった。

「私、生きてるの、かな?」
「……」
「私、ほんとはもう死んでて、いま見てるのは単なる夢で……私が守ろうとしてるものも」
「違うよ」

 葵が迷いなく答える。その声は冷淡で、しかし温かみのあるものだった。

「杏子は……いま、ちゃんとここにいるよ。ちゃんと苦しんで、ちゃんと泣いてる。それは生きてるってことでしょ?」

 ――生きてる。私は、生きてる。

 胸を突かれたように、息が止まる。葵がしゃがんで私の背中をそっと撫でる。

「だから、言ったでしょ?杏子は杏子だよ。誰もそれを疑ったりなんかしないよ」
「そうよ、杏子ちゃん」

 優月の手も背中に合わさる。

「今回も助けてくれてありがとう……杏子ちゃんの声、胸にグッときた」
「声……?」
「この街を、友達を守りたいって。杏子ちゃんってものすごく優しい子だなって思った。友達になれて、よかった……」

 優月の声が私の胸に触れた。優しく、丁寧に。

 私はやっぱり泣いていた。だけど、そこに負の感情はなかった。

 ――私、戦ってよかったんだ……。

 そう思った時、優月のスマホが鳴った。「ごめん」と一置きし、優月がスマホを取る。

「はい……はい……わかりました」
「なんの電話?」

 葵が情報を聞き出そうとする。

「さっき戦った敵が機体から救出されたんだって……いまiARTS本部まで搬送されてる。わたしたちの元にも送迎の車が来るって……」
 
 私は俯いた。さっきまで戦った相手なのに、殺したいと思った相手なのに……。

「行きなよ」
「……え?」

 立ち上がった葵から言葉が降ってくる。

「思うところがあるなら、面と向かって言ったほうがいいよ」
「でも……」
「あーもう悩まない!悩まないのもロボット同好会の鉄則!」
「それ、いつ決めたの?」
「いま!」

 優月の質問に葵が即答する。その姿はあまりにもすっきりしていて、どこか愉快だった。

「ふふっ……わかったよ、行く」
「それでこそ、杏子!」

 立ち上がった私の背中を葵がポンと叩く。その強さに、私は元気づけられた。



 iARTS本部の医務室。アリア、と自称した女は、ラグールとは別の部屋にいた。

 白く塗装された扉が開かれると、紅色の髪が目に映った。紅の、胸までかかろうとするロングヘア。服は黒のローブで、左胸に紋章が描かれている。その姿は、ラグールのものと瓜二つだった。

 女は、ベッドの上に横たわっていた。

「あっ……」

 私と女の目がぴたりと合う。女からは、不思議にも敵意を感じなかった。それどころか。

「先ほどは、本当に申し訳ないことをしました……」

 彼女は深々と頭を下げた。

「エレーナ姫に剣を振るうなど、決してあってはならないこと。兵士として、人間として……」
「それだけですか?」

 私は手をきつく握った。隣の優月が「杏子ちゃん?」と声をかける。

「あんなに街を壊して、人を殺して、私の友達を傷つけて……それなのに……」

 ――それなのに。

「私に対する……謝罪だけですか?」
「それは……」

 私は女の方へと歩み出していた。1歩、2歩と近づく。

 そして、気づけば手が女の首へと伸びていた。周りの大人たちが制止しようとするのを優月が遮る。

「謝れ!私にではなく、街に!みんなに!!」

 怒号が跳ねる。それは、私の心からの思いだった。

 ――今回の襲撃で、どれだけ街は傷ついたのだろう?どれだけ人が死んだのだろう?

 どれだけ、友達や春翔は怖い思いをしたんだろう……?

「謝れ!!」
「ご……ごめんな……さい……」

 女の首を掴む手を涙が伝う。私はそれでも手を離さなかった。

「ごめん……なさい……ほんとうに……」
「杏子ちゃん……もういいよ」

 優月のなだめる声で、私はようやく女の首から手を解いた。女の咳き込みが聞こえる。

「杏子ちゃん……」
「もう行こ」

 そう言って私は部屋を出ようとした。けれども、その足はすぐに止まった。

「待って!私、知ってる!フロンティアのこと!あなたの機体のこと!」

 首を後ろへ巡らせる。その先には、ベッドから身を乗り出した女の姿があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...