見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)

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第六章 天空を統べるNOVAの箱舟 編

再会の伏線回収は忽然と

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「セナさん!って…え?」


 よく見知った顔1つに対し、見知らぬ顔が沢山。
 その中に、初めましてだがよく見た顔が1つだけあった。


「セナさん、もしかしなくてもこの人達って…」
「左様でございます。ベスガをはじめとする人身売買の被害者です。
 リョー様、急ぎ彼女らの首輪を」
「よし…全員の首輪を【分解ブレイク】!」


 ポロ…コロコロコロンッ


「よし、これで遠隔で殺される心配はありませんよ」
「首輪…外れたの…?」
「ええ。見下げた先に転がってる通りです」


 外れた首輪を見るや否や、全員が泣き出してしまった。


「ここはカトレア王国の冒険者ギルド リース支部。
 アタシはギルドマスターのアンジェさ。
 火山の鬼なんて呼ばれてた時期もあるからそれで知ってる人もいるかもだね。
 おそらく状況が理解できてないだろうが、ひとまず…今からアンタ達はウチのギルドの保護下に入ったって事だね。
 この瞬間をもって自由の身ってやつさ」



「ありがとうございます…ありがとうございます…!」
「泣くのはもう少し後にしとくれよ。こっちとしても早くに帰してやりたいから、時間が惜しい」
「これは…うっ…グスッ…夢じゃ…ない…のね」
「夢だと思うんなら頬っぺた引っ張ってみな。
 痛みがありゃ現実さ。」


 ギルド職員さんを動員し、手分けして名簿を作成する。
 街の名前が分からない子供については孤児院に一旦相談するということで後回しに。



 話をするにあたり、代表者としてスッと前に立ってくれるギルマス、俺の見たて通りなら巻き込んだ形にはなるのだが…今はその背中がこの上なく頼もしかった。


「申し訳ございませんリョー様…」
「え?何がです?」
「先日の盗賊より得た供述の裏付け捜査のつもりが、このようなことになってしまいました。
 このままでは、自分の突発的な行動でリョー様に人攫いの容疑がかかってしまうかもしれません」
「そうですかね… ま、なんとかなるでしょ」


 昨日の今日だが、なんとかしてくれるはず…


「【あ、リョーです…昨日の今日ですいません、実はついさっきなんですが…ベスガの件でちょっとカクカクシカジカ進展がありまして…。
 はい、ちょっとこっちに来てもらえたり…
 はい、出来れば急ぎで…すんませんお願いします】」
 ピッ…

「リョー様…?」

「んー…呼びたくはないけど仕方ないか…」
 ピッピピピピッ…ピピピッ

「【あ、昨日はどうも…ちょっと手伝ってほしい仕事があるので第三騎士団の方に向かってもらえます?…ならいいです。】」
 ブチっ

 切って速攻もう一度携帯が鳴る。
 通信用魔法道具にもリダイヤル機能はついてるのか…?

「はい、……で?来るんですか、来ないんですか?
 なら戦いの話してないでダッシュ!」
 ブチっ


「ま、まさか…」
「この手の事件は国家権力も借りないと。
 奴隷取扱法の不当な奴隷の無効原則に則って、発見した奴隷を取り返したと言う体で国家権力を間に挟めば、「奴隷を返せ」って攻めてきたが最後、奴隷をこの国から拉致した事を認めたことになる。
 いくら相手が国であっても、セナさんや俺を罪には問えませんよ。

 俺からは感謝こそすれ、責めることは絶対にありません。セナさんが無事でよかったです」
「そんな…自分はやれる事をやったまでです。」
「それより、セナさんさっき息切らしてましたけど、もう大丈夫なんですか?」
「はい、あれは息を止めてただけなので。」
「息を? あ~、呼吸音に気を遣ってたとかですか」
「いえ、向こうで火災が起きたのでその際に煙を吸わないよう息を。」
「火災?」
「ええ。例の国でデモ行動が発生していたようで、調べていた貴族の屋敷が焼き討ちに遭い、隙を見て崩れゆく瓦礫に飛び込みまして」

『逃げ遅れた被害者を保護、避難シヨウとロビーに出てきた彼女達の上からシャンデリアが落下シ、それを庇うためにガラケー銃でシャンデリアを破壊。
 その破片でセナサンのスーツが一部破損シマシタ』

「なるほど、それで急だったんですね。
 今度俺が新しいの作りますよ。希望があったらその時に言って下さい」


 シュンッ!
「リョー殿!」

『「キャぁぁ!!」』

「大丈夫ですよ皆さん!この人は王国の騎士団長です」
「驚かせてしまい申し訳ない。私は第三騎士団 団長のフォンドバーグ・デミトラスだ。
 あらかじめ事情は彼から聞いている。其方達はこれより我々騎士団の名の下で保護し、速やかに家族の元に帰れるよう手配する。
 そのために身元の確認に協力して欲しい」


『印刷を開始シマス』

 ピ~~ヒョロヒョロヒョロヒョロヒョロヒョロ…

 どこからともなくA4用紙にリストが印刷されて出てくる。
 音源間違ってない?それコピー機じゃなくてFAXの音だよね!?


「団長さん、名前と街だけですが纏めてくれました。」
「ぁぁ…仕事が早くて助かる。」


 シュンッ!
「触んなゴラッ!」
「いでぇなコンニャロっ!」


 あーあー…混ぜるな危険の2人が一緒に来ちゃったよ


「お前も来たのかテーリオ…」
「とーぜんだろ、ダンチョこそ黙って行くとかケチクセーぞ」

 ハァ…
「…くれぐれも荒らすなよ」
「あいあい」



「職人戦医!この女の子たちは一体何だ!
 お前まさかこんなにもたくさんの女性にナンパかけて、手に余るからってオレに紹介しようとして、」
 ドゴッ
「グフォッ!」
「やっぱり呼ぶんじゃなかった」



「あの…」
「ん?」
「もしかしてあの方って…」
「第一騎士団の団長だね
 あの様子からして居ないものとして大丈夫だよ」
「え、いいのですか…」
「ああ、アンタ達を保護するための立会人…というよりお飾りみたいなもんだね。」
「第三騎士団より第一騎士団の方がお飾り…普通逆では?」
「見てりゃ分かるさ」




「リョー殿、この1人だけ印がついている者は何の意味が?」
「それについて説明する前に、ギルドマスター、ちょっと」
「なんだい」
「このあいだケリーの実家の件でペクアバル村にいた盗賊を捕まえたことは覚えてますか?」
「あ~。そういや前にあったね」
「それから、団長さんには俺に妹と弟がいる事をフワッと伝えたと思いますが…覚えてますか?」
「何度かジオラマ基地のアニキ農場で見かけた時に、人攫いから保護したという4人のうちのヒト族の2人が近所の子、獣人族の2人が妹と弟だと教えてもらった覚えがある。」
「その通り。で、その実のお母さんです」
「…なるほど」
「それは間違い無いのかい?」
「会わせれば分かるはずです。」


「なんだなんだ? もしかして職人戦医、人妻をでも狙いに ヒッ!?」

 無意識に銃に手が進む。

「あ“?」
「ごめんなさい、下痢の刑だけはご勘弁を!」
「今日あなたに課す仕事はひとつ。
 静かにこの現場の立会人でいてください」
「はい!端っこに正座してます!」



「ステラさん、あなたにお聞きしたい事とお話ししたい事があります」
「はい…」
「あなたはベスガにお住みでしたよね、ご家族の構成を教えてくれますか?」
「…亡くなった旦那と子供が2人いました。
 でも…!わたしが売られてしまったことであの子達とは…うぅ…あぁぁぁぁはぁぁぁぁ!」
「アムとレグのお母さんですよね」
「どうしてそれを…!? あの子達の事を知ってるんですか!?
 教えてください!あの子達は無事なんですか!?」
「落ち着いてください」
「落ち着いてなんかいられません!子供達はあの後どうなったんですか!あの子達は…」
「俺の妹弟として、一緒に元気で暮らしてますよ」
「よかった…無事なんですね…?」
「はい、ちょっと待って下さいね」


 スマホのカメラアルバムを起動して、これまでに撮り溜めた思い出と共にスワイプしていく。


「あの人攫いを捕縛した時にそこにいた人達全員を保護して、その中に2人がいました。
 パパさんは既に亡くなっていて、ママであるあなたがどこかに連れて行かれたという事だったので、あの子達を引き取ったんです。」
「…ありがとうございます…!子供達を助けてくれて…ありがとうございます…!」
「ああ頭を上げて下さいっ 俺は冒険者として依頼を受けて、その後は俺がやりたいようにやっただけです。感謝される事はありませんよ」
「いえ…感謝してもしきれません!」


 必死に頭を下げながら俺の半袖のYシャツを掴もうとする。しかし、手首から先の感覚がないのか完全に麻痺しているのか…その手にシャツの布地が掴めることはない。
 よく見たら片目も閉じている。


「とりあえずその手と目…治しましょうか
 2人と会うのにそれでは不便でしょ」
「治すって…この手と目はもう」
「俺を信じて下さい。大丈夫、ちゃんと治りますから」


 幸い、欠損している訳ではない。
 欠損していても医療ギルドに登録した事で手術できるようになったので何とかはなるが、ここにオークの死体を広げるのはパニックの元になるので避けたい。

 何名か目を閉じてたり、指の形が変わってしまっている人もいるが、幸いにも切り落とされたりはしていない。

 訓練場にオペ室を設けなくて良さそうだ。


「【クリエイトヒール】」


 遺伝子レベルから精密に修理し、治療していく。
 慣れている魔法ではないので少し時間がかかるが、それでも繋がるべきものが繋がってそこを流れるべきものが流れるようになってくる。


「ゆっくり目を開けてみましょう」
「見える…見えます…!」
「それじゃあ、瞳の動きをチェックしますね。
 この光を眼で追ってください」


 小さい頃よくお医者さんにされた黒目の動きをみるアレをやってみる。

 右へ、左へ、上へ、下へ、近づけて黒目の反射を… よし、正常っと。


「大丈夫そうですね。
 他の方も治療して来ますので、ちょっと待っててくださいね」





 そこから俺は責任者立ち合いのもと、直しては治して、嬉し泣きをされてはまた直して治して。

 最後の1人が完了する頃にはダルセン家や衛兵隊、ウチからの救援が行き届いていた。
 衣服を手配し、軽食や飲み水を配り、ベスガの人攫い事件の名簿の写しから該当者の家族を探し始めて…。


 そのお手伝いで小さなお耳がピョコピョコ行ったり来たりしている。


「アム…! レグ…!」
「ママ…?ママ!」「ママ!」

 ギュッ!

「やっと…ママにあえた…!」
「ママぁ…あいたかった…」
「よかった…!2人が無事で、本当に良かった…!」



「よかったですわね、リョーさん」
「…そうだね。」
「どうなさいましたの?」
「いや、なんでもない。」
「お別れが怖いんだよね。リョーくん」
「…」




 普通なら大変喜ばしい事なのだが、今日この瞬間、親子の時間がもう一度動き出した。

 戸籍上の兄とはいえ、あの子供達の幸せを邪魔するのは…




「主や。別に11人も12人も変わらんじゃろ」
「メル爺…」

「…増築するなら…手伝う。」
「ティー兄…」

「食い扶持が増えたくらいで傾くような弱い家なら、とっくにどこぞの貴族に潰されとるやろ」
「匠…」

 zzzzzzzZZZZZ…すぴーーーーーーっ
「なんか言えよ!」

「いいと思うよ。無理に幸せを手放さなくても」
「迷っているならセナの補佐役で囲い込んじゃいますわよ」
「フィエリア…シルヴィア…」

「一緒にいれるなら一緒にいた方が絶対いいっすよ。」
「ケリー…」


『ガルニャァ…?』
「虎次郎…ごめん、何て言ってるか分かんないや」




「「リョーにいちゃん!」」
「アム…レグ…」
「ママもいっしょにすんでいい?」
「おねがい…」


 どうやら俺の心配は無駄だったみたいだ。


「よしっ じゃあ一緒に暮らすか」
「「うんっ!」」


 そうだ、俺の家族は最強のチート一家。
 バラバラになるなんて選択肢なんかクシャクシャのポイだ。
























 そう思っていた矢先に事件は起きた。



 上の人たちといろいろ話し合った結果、事情聴取は精神的負担が大きすぎて無理という結論になり、女性や子供達は南門の仮家で一晩過ごすことになった。

 一方ステラさんは身元引受人が俺たち一家ということが認められ、皆で揃って帰宅。
 ささやかながら歓迎パーティを開くことに。


「「いただきまーす!」」


 ガツガツモグモグ!パクパクゴックン!

「おかわりっ!」
「レグも!」
「僕もおかわり!」
「わたくしもおかわりをくださいませ!」
「同じくっす!」

 ホッホッホォ
「よく食べるじゃろ」
「確かに美味しいですけど…ここまでとは…」
「食費の心配なら無用じゃよ。心ゆくまで食べるといい。
 ティー坊が庭のびにぃるハウスで家庭菜園をしておってな、新鮮で栄養たっぷりじゃ。」



 ビーーっ!ビーーっ!ビーーっ!ビーーっ!

『「!!!」』
「今度は何事じゃ!?」

『緊急事態発生!緊急事態発生!
 マスターに対スル明確な殺意を持っタ2人組が接近中!』
「俺に明確な殺意?」
『映像を表示しマス』


 それぞれの携帯端末に映された映像にはたかが2人が映っているだけだが、この2人が招かれざる人物だった。


「お兄様!?」
「ノクト様とオルベルト様…」

「嘘でしょ…」


 拝啓 神様、俺…今度こそ死ぬかもしれません。


「リョー様!すぐにお逃げください!
 あのお二人はエミリ様同様、シルヴィアお嬢様を溺愛しておられます!
 エミリ様からシルヴィアお嬢様の婚約を伝えるお手紙をご覧になって、リョー様を消しに来られています!」


 ここに来て伏線というかフラグ回収…
 長かったのか短かったのか…でも何で今なんだよ!
 もっとタイミングあっただろ!


「きっとわたくしが急にリョーさんと婚約したのが納得できないのですわね」
「『娘さんをください』の挨拶どころか『貰ってくれ』で婚約しちゃったしね…」
「『娘が欲しければ父をまず倒して見せろ』はもっと前にやってるっすからね…」


 確かに俺たちの今の関係性ってあの3人に流されたが、食ってかかられる筋合いはない。


『マスター…2人組はこの家のすぐ近くに来てマス…
 愛の巣でアルこの家もろトモ、マスターを抹殺するつもりデスね』
「…分かった。」
「リョー君、まさか会いにいく気じゃないよね」
「この家が壊れるか分からないけど、本当に壊されたら困るし、こっちから会って話してみようと思う。」
「それならわたくしも参ります!」
「僕も!」
「おれっちはやめとくっす」
「ケリ~?」「ケリ~さぁん?」
「そんなおっかない2人に会うのは嫌っすよ!
 絶対ヤベー兄弟じゃないっすか!」

 鍋を持ってニコリ…
「来るよねケリー?」

 模型サイズNOVAを持ってニコリ…
「来ますよねケリーさん?」

「交渉の材料が命がけ過ぎるっすよぉ…」


「ありがとう、でも俺なら大丈夫だからみんなは安全な所にいてよ。
 シルヴィアのお兄さん達には俺からも言いたい事があるし、俺1人で会ってみようと思う。」


 こればっかりはちょっと見せれる顔じゃなくなるかもしれない。俺の理性が全力でそう叫んでいた。


「狙ってるのは俺だ。
 みんなを危険な目に合わせるわけにはいかない」


 背中越しに反対の声を振り切り、玄関を出る。












 ケンちゃんのナビのままに歩いていくと、夜を足早に殺意剥き出しの男が2人。

 開け広げた服の間からバキバキの腹筋が覗く男
 と、絵に描いたような優男で華奢な丸メガネ+白衣の男。どちらもあの両親によく似ている。


「あなた達がシルヴィアのお兄さんですね」
「あ? そういうお前は」
「あなた達が探してるシルヴィアとフィエリアの婚約者ですよ」
「へぇ~、お前が例の職人戦医か…わざわざ自分から出てきてくれて探す手間が省けたよ。」
「その言葉そっくりそのままお返ししますよ。
 俺もじっくり話したいことがあるので」

 チャキッ…
「問答無用…」
「妹に手を出した罪、その命をもって償ってもらう!」
「そうくると思った。だが断る。
 俺はシルヴィアを…11人いる家族も守らなきゃならないからな」
「シルヴィアだけじゃなく10人だと!
 お前…!何股すれば気が済むんだ!」
「万死に値する!ボクの研究結果のサンプルにしてやる!」



 そう言って長男のノクトはガントレットに魔力を込め、次男のオルベルトは懐から大量の紙の束を構えて、俺への攻撃を開始した。

 あれ…11人って言っても、実際のところ8人は鳥、亀、オジイ、兄、妹と弟、実家が近所の居候、保護した元奴隷だ。

 いろいろ誤解が起きてるなコレ…



「バフカード!【素早さ上昇の陣】!」
「オラァァァァアアアアアア!!」

 札の魔法陣を兄に発動し、それを受けた兄は俺を沈めるために拳を振るう。


 キィンッ!
 その拳は毎度のごとく念動の壁の前に立ち止まる…が

「【ヘビーフィスト】!」

 ズズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


 拳の重みが急激に増し、壁を支える俺に大きくのしかかってきた。

「グゥゥゥゥゥゥゥゥッ…!」
『重力魔法に、バフ&デバフを与える魔法デスカ。』


 地面が大きな円柱を押しつけているかのように沈み込む。

 準備をしてなかったら今頃ペチャンコだぞこのクソがっ!


『そんな程度、NOVAのメインシステムを兼任シテいるワタシと強化付与した製品で多重ドーピングしテいるマスターの前に意味をなしマセン!【重力軽減化】』
「それをバラすなぁ! このぉぉおおお!!」


 こちらの人工知能のサポートを受け、なんとか押し返す


「あっぶね。昨日、船を持ち上げてなかったら今のを受けれなかったなぁ…
 ナイスサポート、ケンちゃん」
『ドウいたしマシテ。』


「チッ…タダではくたばらないか」
「これは手加減の余地はなさそうだね、兄さん」
「無論だ、最初から手加減をしてやるつもりもない!」


 即座にガントレットを構え直した長男は魔法の構築のためか動かない。
 その間に次男が俺に向かって札を飛ばす。


「デバフカード!」


 数えて20枚のカードが、妖怪:一反木綿のようにウネウネフヨフヨ…と浮かび光を放つ

 ガクッ
「くぅ…!」


 防御行動を取るもそれは関係ないみたい。
 全身が痛み全体的に苦しくなってきた…


 えーっと?ねむり、こおり、どく、やけど、こんらん、しびれ、メロメロ…

 HP減少、MP減少、攻撃力減少、防御減少、特殊攻撃減少、特殊防御減少、素早さ減少、命中率減少、回避率減少、個体値減少、努力値減少…

 全部どっかのボールに入るモンスター関係のデバフ!

 それから個体値減少と努力値減少はメタいから絶対ダメだろ!

 でも、そんな状態からでも
 キュポンッ! ゴクッゴクッゴクッゴクッ…プハァ!


「ふっかーつ!
 いや~、状態異常ポーションって使い時に困っていたところもあったけど、この日のためにあったのか~」


「何をブツブツ言ってるんだ!
 デバフで頭がおかしくなったのか!」
「おかしくなってなんかいないさ。
 ダルセン家の息子だからどんなバケモノがくるかと思って警戒してたけど…その必要がなくなって安心しただけ。
 あと後ろ見てる?お兄さん、準備できたみたいだけど」
「当たり前さ」


 スッと横に逸れるとその陰からオーラを増した長男が走り迫ってくる。


「オラァァアアアアア!
【ヘビーゴング】!【ヘビークラッシュ】!」


 再び重力魔法による猛攻が俺を葬り去らんと街道に穴をあけていく。


「デバフカード!」


 長男の背後から俺をなぶり殺さんと魔法陣を書き連ねた紙切れをあちらこちらから光らせてくる。



 だが、サポート魔法と泉のごとくあるポーションの恩恵で、避けては守って喰らっては回復してを延々に繰り返していく。

 次第に向こうの魔力もジリ貧になるが、こちらはまだもう2、3ラウンドする自信がある。


「もう満足?」

 ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…
「くっそ…小癪な…!」

 ゼェ…ゼェ…ゼェ…ゼェ…ゼェ…ゼェ…
「いい加減しつこいぞ…!」

「そろそろ俺達のターンでいいか?」
 指パチンっ!

「「!!」」


 ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン…
 ダダダッダダダッダダダッダダダっ!


 どこからともなく鳴り響くこの音、街の誰もが今や一度は聞いているあの音だが、この2人は初めましてだ。


「なんだこの気配…1,000…いや2,000はいる!」
「いや、数えきれないけどもっといるよ兄さん」


 街中に配備している昆虫守護者達インテクターズ10,000匹、牡牛型装甲戦機タンクタウラス20機、虎次郎、ケンちゃんのサポート、弁慶ちゃん1、2号。そして俺。

 リトルカメちゃんズは警戒レベル最大としてウチの近辺を結界で囲んでいるため動員不可。



「正々堂々やる気がないのはそっちだけじゃないようで。
 あんたらが仕掛けた決闘は2対1ではなく、2対10,025だ!」
「「なにぃいいい!?1万25だとぉぉぉぉ!?」」


 あっ、膝から崩れ落ちた。
「妹を取られるならば死を」的なことを警戒していたが、もうここまで来て勝負が見えないほど単細胞ではないのか、俺への攻撃の意思が感じられない。


「ノクトさん、オルベルトさん、あなた達は今までどこで何やってたんですか?」
「冒険者として…王国中を旅してシルヴィアの魔力を制御する魔法を探していた…!」
「シルヴィアの魔力を抑えるための魔法陣の研究に決まっているだろ…!」
「ふーん、一応はシルヴィアの兄として出来ることをやってたつもりなんですね」
「つもり…だとぉ!?お前に何が分かる!」
「分かりたくもないですよ、妹を救う気のない兄の気持ちなんか」

 ガシッ
「テメェ…もう一回言ってみろ!」

「なら聞きますがそのガントレットの値段は?」
「値段…?」
「素材は?付与されている魔法は?
 どうして旅にシルヴィアを連れて行かなかった?
 ドラゴン討伐でもやってたら竜殺しとかもっとマシな二つ名がついたはずだ。
 ってか、いろんなところを旅してきて、オーダー品のガントレットを買えるような余裕ができたんなら、もうとっくにシルヴィアの魔力を制御できる魔道具の目星くらいついてるんだよな?
 見せてみろよ」
「…」


 俺が放った言葉のナイフが刺さったのか、掴み掛かった襟から手が離れる。

 間髪入れずにもう次男の方に向き直り1歩ずつ詰め寄っていく。


「俺、さっきから最初に出会った頃のシルヴィアと同じくらいの魔力を垂れ流しにしておいたのに、その魔力を封じるデバフカードがどうして一枚しか出てこない?
 毒だの混乱だのメロメロだの状態異常デバフに手を出している暇があったなら、さっきの魔法陣を20枚でも100枚でも使って、俺の魔力を完全に封じてみせろよ」
「…」



 エミリさん達の話を聞いた時から違和感はあったんだ。

 なぜ男兄弟が家から出たままで、シルヴィアが冒険者登録すらしてなかったのか。
 3兄弟で冒険者パーティを無理矢理にでも組んで、Aランク魔獣の1匹でも倒しておけばシルヴィアの汚名は功績として彼女を守る盾になっていたはず。

 平民のフリして生きる道もあったはず。

 それなのに…



「コレでよーく分かったよ。要するにアンタら兄弟はシルヴィアをドレスの形をした鎖で縛りつけて、鳥籠の中に閉じ込めたままその辺ほっつき歩いて遊んでただけだろ。

 それで、いざシルヴィアを名実ともに救った奴に対して嫉妬して、兄であるはずなのにシルヴィアの視界からフェードアウトしていくのは嫌だから、その邪魔者にあたる俺を排除しようとした。違うか?

 妹が死にたいくらい苦しんでるっていう時に自分磨きと研究にかまけてた外野が今さらノコノコ帰ってきて、メンヘラ理論で俺を排除して、空いた立ち位置に我が物顔で仁王立ちして、結局何ができる?」
「「…っ…」」
「シルヴィアは着せ替え人形じゃない。幸せになる権利を持ってる1人の人間だ。
 そんな彼女を己の承認欲求のためだけに傷つけるなら…」



 俺の啖呵を合図に虎次郎のタテガミ中に収納していた8本の大きな銃口を展開して魔力を溜める。
 それに伴い、虫達やタウラス達も一斉射撃の体制を取る。













「そこまでにしとけ」










 少し離れた場所からドスが効いた声でレフェリーストップが入る。

 声の主はもちろん、ある意味この元凶である彼らの父親にして、俺でいう所の義理の父親。


「ノクト、オルベルト、帰ってきて親に『ただいま』も無し、妹の婚約者に手をあげるバカに育てた覚えはないがこのザマはなんだ?」
「親父…」
「父さん…」
「元々シルヴィアとの婚約は互いの気持ちを尊重した上で儂がコイツに頼んだことだ。
 そんじょそこらの有象無象で手を打ったわけじゃねぇ。」
「そんなの認められるか!
 シルヴィアは『大きくなったらお兄様と結婚する』って何度も言ってくれたんだぞ!
 それが今になって『婚約者ができたから無し』で納得するはずないだろ!」


 アレ大人になって信じるヤツ本当にいるんだ…


「バッカじゃねーの」


 冷たっ! でもこっちが当然の反応か…


「おい、見せてやれ」
『了解。【昆虫型守護者達インテクターズを通シテ映像及び写真を投影しマス。】』


 2人を包囲するために集まった1万もの大群から大量の動画や写真が映し出す。

 シルヴィアがウチに来たあたりの記憶映像から始まり、ウチで過ごす日々や、魔法の練習風景、錬金術で失敗した時の記憶、フィエリアとの自撮り写真、家族写真、魔法が安定してきた経過の写真、寝落ちしてる時の俺の寝顔、俺と模擬戦をしている時の写真

 ジョセフさん相手に5対1のタイマンの動画、その後の第2ラウンドの動画

 エールテール遠征で撮った医療班の集合写真
 総力戦で戦ったガメラ軍団との戦い

 他にも俺が知らないところをたくさん収めた動画や写真、本当にどうでもいいことで笑い合ってるところまで、走馬灯のようどころか走馬灯よりもたくさんの思い出が所狭しと煌めいていた。


「おめぇら、こんなシルヴィアの顔…見たことあるか?」

「シルヴィア…幸せな顔してやがる…」
「もう…ボク達が気にかけるだけあの子の幸せを奪うことになるってことか…」


「リョー、コイツらとの義理の兄弟ゲンカは儂が預かるが、文句は無ぇな?」
「そんなことを言っておいて、俺と2人の戦ってる様子を近くで見てたでしょ。結構ワクワクしながら。」
「さぁ 何のことだか」
「俺の探査魔法と虎次郎の嗅覚なめないで下さい。
 なんならそこの物陰の足跡調べましょうか?
 もう2人まだ隠れてることもバレてますよ」
「分かってて闘ってたのかよ…」


 硬い地面と靴の踵がぶつかり合う音が2つ、聞き覚えのあるペースでやってくる。


「あら~ リョー君偶然ね」
「こんな時間にこのメンバーが揃う偶然なんてあるわけないでしょ」
「いやはや…気配を消すことには自信があったのですが…」
「その自信があったなら気配じゃなくてこの2人と出会う運命の方を消して欲しかったです」
「それは痛いところを…。執事一筋生きて参りましたが、まだまだ研鑽(けんさん)や精進が足りておりませんでした。」



「ノクト、オルベルト」
「「…」」
「もう分かったでしょ?彼が私の娘達にとってどれだけ大切な存在かを」
「ああ…」
「負けたよ…完敗どころか死体斬りされた気分だ…」
「あら?なにを締めに入るような雰囲気に入ってるのかしら?
 貴方達には明日、可愛い可愛い妹達に稽古をつけて貰うわ。」
「「えっ…」」
「当たり前じゃな~い、従姉妹が妹にもなったわけだし、あの子達がこの数ヶ月でどれだけ立派になったかその身でた~っぷり味わっておくといいわ」

 ガタガタガタガタガタガタ…
「それって…まさか…」
 ガタガタガタガタガタガタ…
「さっき見せられた思い出の中にあった親子ゲンカをさせられるってこと…だよね…」

「もちろん今日の彼みたいに2人対一万なんてことはしないわ、妹チーム2人対兄チーム2人よ。
 ただ、王城サイズの魔獣をワンパンにする子と、高い機動力を活かした弾幕射撃から巨大ロボ戦までなんでもアリの子の2人だけだから、ちょ~っと覚悟が要るわね。
 麗しの妹達にブチのめされるのだから、誇りに思いなさい」


「ぁ…ぁ…」
「オワッタ…短い人生だったな…」


 翌日、エミリさん主催の元で模擬戦という名のワンサイドゲームが執り行われた。


「どぉっせい!」

「「ギャァァァァーーーーーー!」」


「X-NIGHT-NOVA !  ギガントキーック!」

「「ドギァァァァーーーーーーー!」」



 義理の兄達へ その身で感じた通り、あなた達の妹は驚くべき成長を遂げました。
 悪い事は言わないので…せめて強く生きろ。




「「助けてぇぇぇぇえーーーーーーーー!!」」
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アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

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加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

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ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

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