見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)

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第六章 天空を統べるNOVAの箱舟 編

噂の兼業医は’ちぃと‘なりけり

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 Side フォンドバーグ・デミトラス


「あ~…昨日は酷い目にあったぜ…」
「だから言っただろう、彼らに不必要な関わりを持ってくれるなと。国王陛下ですら叙爵をためらっておられると言うのにお前は…
 もしアレでリョー殿に怪我でもさせていたら、いよいよ目があてられなくなるぞ」


 昨日の強引な模擬戦から丸一晩。
 大の大人になって粗相を…という負のステータスを回避した男は、同僚わたしの仕事部屋のソファにその身を突っ伏していた。


「便座を3つハシゴした挙句、全てを詰まらせるとは…何をどれだけ食べたらそうなるんだ」
「昨日部下と大食い対決したからな…腹に溜まってたのかしれない」
「リョー殿が修理してくれたから事なきを得たが、修理費は請求するからな。」
「めんぼくねぇ…」


 酒場をハシゴして粗相は珍しい話でもないが…
 100人を悠に超える施設でトイレが詰まるのは普通に迷惑だ、こればかりはさすがに庇いきれそうにない。
 第一騎士団の経理にはどう説明しようか…


「で、アイツ一体何者なんだよ、只者でないのは確かだけどよ」
「冒険者に過去の詮索はタブーなのを忘れたか?」
「だがなぁ…あの鎧といい、あのナイフだらけの戦闘スタイルといい、飛行船やら猛獣型のゴーレムといい、普通の職人の技術じゃ不可能だろ。
 まさかとは思うが、王国と戦争でもする気だったりしないよな?」
「我々の考え次第ではな。」
「うぇっ!?マジかよっ」
「今のところは問題ない。国王陛下、宰相をはじめとする貴族、各ギルド、そして我々騎士団が不義理を企てなければな。」
「不義理…か…」
「本来なら強引に模擬戦を仕掛けることもソレに該当するぞ」
「悪かったって!だが、職人戦医と戦ったおかげでよく分かったぜ。
 詰まるところ、流星の拳闘士の娘のことや職人戦医のこともお前が間に入って仲裁してるってことなんだな」
「そういうことだ。もう少しで本部周辺が焦土になるところだったが、今回は厳重注意だ。
 金輪際、彼らに対して一方的なやり取りはしないでくれ。」
「分かったよ…次からはちゃんと挑戦状に日時と場所を書いて出してからにする」
「勘弁してくれ…先が思いやられる…」
「あ、そうだそうだ」
「まだ何かあるのか…」
「確かお前んとこに屋根の上の狩人ハンターとかいうやついたろ」
「あぁ、テーリオのことか?」
「アイツ、第一の方にくれよ。面白そうだ」
「やめておけ。リョー殿達より手を焼くぞ。」



 ゴツっ
 窓の外から音、まさかな…
 窓を恐る恐る開けてみる。

「【なんか聞こえたけど、呼んだかダンチョ】」

 窓の下には、すっかりテーリオに懐いたクモのお使いが。もう1匹を通じて、連絡が取れるようになったようだ。

 昨日の模擬戦の際、他にも何匹か手懐けたらしい。


「お前に第一騎士団からスカウトだそうだ」
「【ふーん…面白くなさそーだからパス】」

「だそうだ。残念だったな」 
 ドタバタバタっガシっ!
「なんでだ!給料弾むぞ」
 ぺっ シュルシュルシュルッ
「うわっ!なんだ…これっ」


 顔に糸の束を吐き、隙を作って掴んだ手を離させる


「【テメーは熱苦しいんだよ】」

 プツ…シュルシュルシュルシュルッ ピョイーーン


 それだけ告げると連絡手段はさっさと退散していった。

 従魔術なしで獣とある程度意思疎通が取れる家系だとは聞いたことがあるが、あそこの血筋はゴーレムにも当てはまるのだろうか…



「テーリオはあれでも繊細な男だ、人の話を聞かない傾向にあるバスターとは根本的に反りが合わないだろうな。」
「あ?どういうことだよ フォンドバーグだってどう見てもタイプが違うだろ」


 言われることは確かにごもっともだ。
 私が騎士なら、テーリオは狩人と職人見習い。
 生まれた家も性格も、本来なら立つべき舞台は違う。


「確かに阿吽の呼吸とはいってないだろうな。
 テーリオがリョー殿を大先生と慕っていて、リョー殿と私が互いに持ちつ持たれつの関係にあって、私がサボりと引き換えにテーリオの能力を活かせる環境を創る事で力を奮ってもらっている。
 この三角形を構築できなければ、移籍しても言うことを聞かないぞ」
「なんだよソレ」
「納得いかないのであれば、何度でも話してみれば分かるはずだ。今度はクモの巣に絡め取られるがオチと言うところだが。」
「チッ…冷めた。 帰る」


 パタン…


「頼りになる部下がいてくれて、心強い仲間がいる…か、私は私が思っている以上に恵まれているのだろうな…
 これは、より一層の精進をしないとすぐ置いて行かれてしまうな」










 一方、噂の種となっている職人戦医はというと


「ほら、これでいいか?」
「はい確かに。ありがとうございます。
 ではこれで、お疲れ様です。」

「また次も頼むな!」


 例の飛行船騒動は以前よりかは落ち着き、ちょこちょこ溜まりつつある依頼を捌くべく、依頼書の束を持ってあっちこっちを飛び回っている。

 本日3件目の作業系依頼を終え、依頼完了の欄にサインを貰って次の場所に行くところだ。


「リョー先生!」
「ん?ぁぁジンガ…どうした?そんなに慌てて」


 話しかけてきたのは街の孤児院の子で名前はジンガ、小学4年生くらいのヤンチャな男の子だ。

 ちなみに彼が俺のことをリョー先生と呼んでいるのは職人戦医の“医”の部分の由来のひとつで、たまに神界に行くついでとか、先生が来れない時に、何度か俺が代わりに処置をしたのだ。
 どうやら子供達には冒険者、職人とセットで医者もやっていると思われているらしい


「モニカねーちゃんが教会の聖堂でお腹を抑えて苦しそうにしてて!すぐにでも生まるかもしれないんだって!」
「生まれそう…  もしかして出産!?」
「うん! だけど先生が見当たらなくて…お願い、来てよリョー先生!」
「よしジンガ、その時の状況を教えて
 そのおねーさんが倒れた時、ちょっと水浸しになって無かった?」
「なってた、お漏らししたみたいに」
「破水してる…! ケンちゃん」

『最も近い昆虫守護者インテクターズを検索…ヒット。
 そのままDr.ヴェルメールに緊急通信…』

「【うわっ  びっくりした!】」
「【先生、急患です。
 妊婦さんが切迫早産の可能性があると。】」
「【なんだって!? 場所は!】」
「【場所は教会、妊婦の名前はモニカさんという方で、既に破水してしまっているようです。
 俺は伝えに来てくれた子を連れて先に行きます。】」
「【分かった。私も急いで教会に向かう。
 間に合わなそうな時は私の責任で親子のケアを頼む】」
「【最善を尽くします】」


 陸に先生を迎えに行くように頼み、俺はフライボードを出し、ブカブカのヘルメットをジンガに被せて抱える。


「飛ばすからしっかり掴まってるんだぞ」
「うんっ」


 教会の聖堂に入ると子供やシスター、参拝客で患者の姿が隠れていた。


「みんなどいて!リョー先生が来てくれたよ!」
『「リョー先生!」』


 シスターさんや子供達をかき分け、患者の元に駆け寄る。


「あぅぅ…! はぁっ…! リョーさま…来てくださったん…ですね…」


 あれ、この人…ダルセン家のメイドさんだ


「先生が来るまでは俺が診ます。いいですか」
「おねがい…!赤ちゃんだけでも…!」
「一緒に頑張りましょうね。」


 バイタルスキャナーと緊急の医療セット一式を広げる。
 早速子宮をスキャン。


 ピッ
『診断結果出マシタ。』


 スマホの画面に出た赤ちゃんは推定2,800g強。
 十月十日とつきとおかから考えると少し小さいくらいで特に問題ないとのこと。
 生まれるまで数十分、下手したら今にも産まれるところまで迫っている。


「運ぶ余裕もない…ここで出す必要がありそうだな…ゆっくり呼吸しましょう、

 では力抜いてくださいねー」


「リョーくん!!」
「先生!こっちです。」
「状況は?」
「順調ですがタイミングが早まり過ぎて運ぶこともできません、もうここで産ませます。」
「誰か!桶かタライを!」
「持ってきます!」


 大きい洗濯桶にタオルを敷き簡易ベッドに。
 もうすでに頭が見えて来た


「赤ちゃんもうちょっとで会えますからね
 もう少し頑張りましょう」
「フンンーーーーー!」


「出ました!」


「オギャー! オギャー! オギャー! オギャー!」


 聖堂いっぱいに広がる赤子の声は神々の祝福だとシスターさんに涙を流させ、小さなその手は命の儚さと尊さをみんなに教えてくれた。


「おめでとうございます。元気な女の子です。」
「ありがとう…ございます…!リョー様ぁ」
「抱っこしてあげてください。」
「ちいさい…かわいい…」


 母が愛しい我が子を抱くその姿は、壁面に刻まれた女神と子の像のようで本当に神様達がお産を手伝ってくれていたような気がした


「よかった…無事に生まれてきてくれて…ほんとう…に…」

「ん?ちょっと待った」

「ありが…と…カハっ」
「モニカさん? どうしました? 分かりますか!?」
「吐血!? そんな…間違いなく妊娠は順調だったのに…」


 転がしていたスキャナーを引っ掴み、身体全体をスキャンしていく。


『診断結果出マシタ。体内を流れる液体状の異物が原因の出血性の中毒症状デスね』
「体内を流れる液体状の…異物…酒の匂いはしないし、井戸水がよくなかったか?」
「リョー先生、これ」


 椅子の上に置いてある小瓶を見せてくれる。
 大事な物なのか随分と古い。中の液体は…まさか


「【鑑定】!!」


 中の液体の説明と、材料を見て俺の細胞が震え上がった。


「おいおいマジかよ…誰ですかこんなの飲ませたの!」
「わ、私ですが…聖水は儀式の際に使う神から授かりし薬ですよ…?身を清まりこそすれ健康を害することなど」
「それは身を清めたり悪霊祓いに使ってるからいい薬のように思われてるだけ!
 ただでさえ飲ませていいような代物ではないのに…これは聖水の瓶に入っただけの猛毒です!」
『「!!!」』
「リョー君、落ち着いて説明してくれるかい。」
「処置が先です。ケンちゃん中級解毒ポーションと解呪ポーションの初級、蒸留水と点滴セット、理科の実験セットも一式」
『了解、出しマス。』


 状況が状況だ、いま手に付着しているであろう毒を根絶やしにしないと…

「この教会の全てを…【エリアクリーン】!」


 体内に入らなければただの汚物だから清潔化の魔法が効く。


「みんな!ここの窓を全部開けて空気入れ替えて!子供達は外に出るんだ!」
『「…え…?」』
「ボサっとするな急いで!」


 若手と中堅のシスターさんが子供達を連れて外に出てくれる。
 その間に俺は階段を登って開けるような高い場所の窓を撃ち抜き破壊、念動でこじ開ける。
 


 出てきたものからビーカーで薬品の分量を測りながら計量カップに注いで混ぜていく。

 メイク後のクレンジングや、水性ペンと間違えて書いてしまった油性ペンを油性で浮かせて消す時みたいに、性質や材料が近い解呪ポーションで浮かせて解毒ポーションで一気に洗い流す。
 そんな点滴を


「ちょっとチクっとしますよ。」
 プス…


『マスター、呼吸が弱まっていマス』
「挿管しよう、気管チューブ」
『もう出てマス』
「そうだった」


 点滴を念動で高い位置に持ち、最大投与で流し込む。次第に容体が安定してきて、ひとまず安心。






「ふぅ…それでは、さっきの話の続きをしないといけません。」


 すっかり中身が溢れてしまった瓶を直接触らないよう注意して拾い上げ、教会と孤児院の代表のシスターの前に詰め寄る。


「なんで材料と完成品の確認を怠ったんですか」
「そんな…私は間違いなく手順通りに材料を揃え、手順通りに精製したはずです!これまでもずっと!」
「だからどうした、俺はなぜ確認を怠ったと聞いたんですよ」
「リョー君…すまないが私にも君が言いたことが分からない。もっと詳しく教えてくれ」


 地球の聖水はほとんどが普通の水、地域によりけり微量な塩なんかを加えた物だとされているがこっちの世界の聖水は結構ガチで作るヤツだ。

 月光花の花の部分を日光で乾燥させ、寸胴一つにつき親指の第一関節くらいの魔石、1さじ~2さじ程度の塩と一緒に完全な粉になるまですり潰し、満月の夜に祈りを捧げながらなるべく綺麗な水で一晩中煮込む。

 常温くらいまで冷めるのを待って、布で濾すなどして不純物を完全に取り除いたものがこの世界の聖水だ。



 ここで材料についても触れよう。

 以前ゴリラのフォルさんがくれた花と同じものが聖水に使われていて、その花の名は学術名称で月光花、冒険者ギルドの依頼書ではオランドの花と載っている。

 月光花はその名の通り、月の光がたっぷり当たる場所で繁茂する花という意味。聖なる力をもたらすとされている。

 オランドの花というのは万能薬エリクサーに使う花として、『オールラウンドの花』と呼ばれていたものが年月が経つにつれて訛りに訛ってオランドの花と呼ばれるようになったらしい。

 それを使った聖水は解呪やお清めの薬品として確かに便利だが、回復ポーションの代わりにはならない。
 また、アルコール消毒液や虫除けスプレーと同じ外用タイプの薬品、ただでさえ食べ物や医薬品に注意が必要な妊娠中に飲ませていい物ではない。

 そして月光花にはよく似たポズイの花という種類が混ざって生えていることがある。
 毒、ポイズンから予想が立つ通り毒草の一種で、体内に入ったら気道や食道が腫れ上がり、運が悪ければ呼吸困難で死に陥る。
 残念ながら材料に混ざっていた。

 そして、もっと問題なのが魔石が猛毒を持つブラッドスネークの物なのだ。
 魔石は魔獣の性質が出る物がいくつかあり火属性の魔獣だと熱発する性質を使って魔石コンロ、水属性だと冷えた状態を維持できるので食材保存用の魔道具に使うなど。
 そしてそれは毒を持つ魔獣も然り。


「ブラッドスネークの魔石は別の毒物や薬草にも反応して致死率の高い毒に変化することがあるんです。」
「それって…」
「私は…なんということを…!」


 俺の取り乱し方と、猛毒であるという事実に本人は膝から崩れた。


「ひとまず持ち直しましたが、今後モニカさんと赤ちゃんにはなんらかの後遺症が出るかもしれません。」
「ゎぁぁぁぁぁぁっ…!ごめんなさい…!ごめんなさい…ごめんなさい…」


 少し言いすぎたか…
 でも俺が医者じゃないからと言って放置するのもなぁ…


「シスターさん、神事に携わる方には厳しい事を言いますが…神様の教えが必ずしも良い方向に転がる訳ではありません。
 今回のように、何かの間違いで危険な物が入れば、モニカさんやそのご家族は受けなくていい神罰が下ったことになってしまいます。」
「そんな…」
「ポーションを取り扱う俺としては本当なら触っていい範囲ではないのですが、聖水は解呪のポーションの兄弟のような薬品です。
 1から教えるので、正しい取り扱いを一緒に学び直しましょう。モニカさんと赤ちゃんは俺が診ますから」
「ありがとうございます…ありがとうございます…!」
「ヴェルメール先生」
「なんだい?」
「今回のことを踏まえて医療ギルドに連絡をお願いします。
 王国中の教会に薬品や魔法の取り扱いに医療ギルドのチェックを入れてほしいと」
「分かった。すぐに書面で出す」



「モニカ!」


 聖堂にまた1人、うっすら見覚えのある警備兵の男性が飛び込んで来た。その後ろにも何人か見た顔が続く。


「妻は…」
「しばらく油断できないですが、奥さんが頑張って持ち直しましたので、遅くても明日には目を冷ますと思います。」
「ありがとう…ありがとうございます…」
「お子さん抱っこしてあげて下さい、元気な女の子です」
「おぉ…かわいいなぁ…モニカの目とそっくりだ…」

『スチュアートサン、彼女の静養環境ハ』
「ご連絡いただいた通り、モニカと新生児用に24時間体制で対応およびリョー様や医者への連絡ができるよう用意いたしました。」
「いつの間に連絡してたの…」
『コウ見えてデキるAIナノで ( -`ω-)✧ 』
「顔文字でドヤ顔すんなっ」


 教会から領主邸に用意してもらった部屋へ病床を移し、再度バイタルをみて先生に引き継ぐ。


「リョー君、今日は本当に助かったよ。私だけだったら聖水が原因だとは見抜けなかった。
 さすがは職人戦医、リョー先生だな」
「やめてくださいよ…俺は医者じゃないんですから」
「ならどうして患者を助けられたか、説明できるか?」
「それは…職人としてポーションに正しい知識と実物を持っているからです」
「その通りだ。そしてそれは私たち医者や、私が知る1番腕利きの薬師に出来ることを遥かに超えている。
 この機会だ、君さえよかったら医療ギルドにも登録しないか?
 医者の仲間に君がいるというだけでとても心強い。」
「でも先生には心強いお弟子さんが…」
「彼らはまだまだ尻の青い新米医者だ。彼らが束になっても、君の知識と技術には敵わないさ。」
「…褒めても何も出ませんよ」
「間違った知識で亡くなる患者も出なくなるだろ?」
「それは…一本取られましたね。」
「ハハハっ ジョークはまだ私の方が上ということか。
 だが、君の力が役にたつというのは本当だ。
 君が筆頭に立つという、常識破りの小さい騎士団のためにも」
「ありがとうございます。登録してみます。」
「分野を問われたら職人戦医に丸をつけるんだぞ」
「ははは…探してみます」













 先生の後押しを受け、その足でこの街の医療ギルドを探してみることに

「ここか…」


 島の病院をそのまま作ったような小さなギルドは、油断していると見逃してしまいそうなくらいにギルドとしては飾り気がない。


「ごめんくださーい」

「はぁーい」


 奥の方から元気な女性の声が聞こえる。
 よかった、営業中で。


「本日はどうされました?」
「患者ではないんです。ヴェルメール先生から紹介を受けて登録について相談を…」
「もしかしてあなた…職人戦医のリョーさんですね!?」
「まぁ…はい」
「少々お待ちください、すぐ手配をしますのでぇぇぇ!」


 そう言って受付の女性は奥に走って行った。
 元気なのはいいが、あの手のタイプは転んで怪我を…

「キャアア!」
「うわああ!!」

 スッテーーーン! ドンガラガッシャーーン!


 大丈夫かこの街の医療は…


「大丈夫ですか? ちょっと入りますよー」


 音がした方向に駆けつけてみると案の定、女子高生が食パンでも咥えてたのかと疑うくらいの大転倒だった


 ピッ
『結果出マシタ。2名とも捻挫してマスね』


「いやぁ…お恥ずかしいところを」
「情けない…あれほどギルド内を走るなと言ったのに」
「コレ、使ってください。」


 回復ポーションを1本ずつ渡す。お馴染みの初級ポーションだ。


「何この輝き!?これが初級ポーション!?」
「鑑定魔法で見ても純度が高い…これ中級どころか上級にすら差し掛かってるぞ!」
「純度の高いポーションに薬効強化を付与した物です。眺めてないで使ってください。」


 キュポンっ チョロチョロチョロ…
「「もう治った!」」

「君、こちらの御仁は一体!?」
「職人戦医のリョーさんですよ!ほら、ヴェルメール先生が熱弁してたあの!」
「あ~!あの問題解決の二大神ツインゴッド!」


 あの呼び名まだ残ってたんだ…


「あの~そのくだり…そろそろいいですか」
「はっ! いけないいけないっ、私ったらつい取り乱しちゃって
 失礼しました、医療ギルドへようこそ。当ギルドはあなた様をお待ちしておりました!
 私は当ギルドの受付のハンナと申します。
 こちらはギルド長の」
「バーナードだ、よろしく」
「登録でしたよね、すぐにしましょう!
 さぁ さぁ お時間取らせませんから!」
「あ、ちょっ…押さなくても行きますよ」



 この街にはヴェルメール先生とそのお弟子さんが4人、そのお弟子さんを支える看護師さんがそれぞれに3、4人と医療従事者は少ない。

 それはなぜかというと、怪我は回復ポーション、魔力切れは魔力ポーション、毒には解毒ポーション、呪いには解呪ポーション、その他etc.…というふうにポーションと市販の薬で大概の病気は治ることが多いからだ。
 重度の患者を優先的に診るため、ギルドの定義では住人5,000に対して医者が3、4人くらいで十分余裕があるとされている。

 しかし実際のところは、街中を忙しなく走り回って絶えず患者と向き合っている。とんでもないブラック体制だ。



「というわけで医療ギルドも常に人手不足に悩まされている訳です。」
「熱弁していただいたところ申し訳ないのですが…俺は医者としてはかなり特殊というか…」


 一旦俺の専門スタイルを話してみる

 ・診断は原則、ウチの人工知能とバイタルスキャナーを使用して行い、たまに俺が職人の目で原因を弾き出すこと

 ・冒険者業と職人業が今の所メインの仕事で、時々、獣面騎士団のお仕事が入るので医者として常駐することはできないということ

 ・今持っている資格だと、原則として騎士団やギルドの救護テントではポーションしか取り扱えず、それ以上の治療は離れたところに獣面騎士団ジオラマ支部を設置してかなり法律ギリギリの医療行為を行わなければならないということ

 最悪の事態となっても2本の聖剣で蘇生できてしまうこと…は伏せておこう


「なるほど…どう思いますかギルド長…」
「聞きしに勝り過ぎて理解が追いついていない…
 彼はもう四捨五入して神の域にいるとしていいのではないか?」
「そんなことないですよ~あはははは…」


 笑えね~…
 だってチート持ちだもんとは言えない…


「手っ取り早く二つ名である職人戦医で登録しよう。きっと文句は出ない。」
「その場合…俺はどういうことになるのでしょう」
「ほぼ神ということで」
「違う意味でカテゴライズ雑すぎぃ!」


 言ってる間に手続きが進んでいく。
 え…ホントにそれでいく気?


「こちら、ギルド証になります。」


 うっわホントにそのまま登録しちゃったよ…


「冒険者ギルドと商業ギルドに加えて3枚目のギルドカード…」
「あれ?生産ギルドは登録されていないのですか?」
「生産ギルドは色々敷居が高いのと、商業ギルドが色々間を取り持ってくれているんで正直ちょっと…」
「確か、何年かどこかの工房で働くか弟子入りしないといけない…とかだったな。」
「この間からやけに登録を勧める手紙が来るんですけど、登録したらしたで絶対ヤバいだろうなって」
「先ほどのポーションや器具、腰にしている武器の質、どう考えても仕事が雪崩れ込んでくるな」
「この間も医療ギルドのグランドマスターが来てジオラマ基地の技術を提供しろとか、上から目線で要求して土足で家に上がろうとしたので、メガネを(→☆-☆←)こう魔改造して転移で帰しましたよ。
 あのメガネ高そうでしたし、後ろ指差されて王都で笑い者になってる頃でしょうね。」
「「地味に容赦なっ」」


 冒険者ギルドと商業ギルド同様、俺の問題に巻き込まれることは避けられないことなので、ここ数日の出来事をぜーんぶ話した。

 話せば話すほど胃を抑えて顔が青くなるのは心が痛むので、精神ポーションと胃薬、水をジョッキで置いてたら一瞬で消えてった。


「大変だな…」
「ですね…」
「という事なので、これから何かとお世話になります」
「「いえいえこちらこそ」」


 こうしてまた1箇所、俺たちの仕事について頭を抱える味方が増えた。

 これが吉となるか凶となるかは文字通り神のみぞ知るというところだが、きっと大丈夫だ。








 そう思っていた俺が愚かだったのかな…








「お前にオレ様達の武具一式を依頼してやるよ」
「ご遠慮しておきます」


 冒険者ギルドに戻って早々、なんか4人組のパーティが近づいてきたと思ったら開口一番これだよ。
 かれこれ半年、こういう輩のおかげで俺の精神的苦痛耐性がどんどん跳ね上がっております。


「オレ様は暴風の黒爪使いクロノス!
 そして!オレ様達が巷で話題のAランク冒険者パーティ、[台風の目]だぞ!」
「存じ上げませんし、そういう依頼は請け負ってません。武器の製作は鍛冶屋へどうぞ。では」
「アンタねぇ!リーダーが直々に仕事やってんだから素直に引き受けなさいよ!泣かすわよ!」
「どう言われても受け付けてない仕事は出来ませんよ、あなた達こそ会っていきなり寄ってたかって、恥ずかしくないんですか?」
「うっさいわね!アンタみたいな闘いと雑用を中途半端にやってるヤツなんかに拒否権はないのよ!
 分かったら黙ってアタシらの言うことを…」
「ぁ…ぁ…」
「どうしたんですか顔を青くされて?」
「う…後ろ…」

『ガルルルルルル…!』

 ギルドの室内では少し天井ギリギリなため伏せの体制を余儀なくされる大型の猫科の王者

「あ~、虎次郎 来たのか」
『ガルルルルルルルル…!』
「ヨ~シヨシヨシ この人間達は獲物じゃないぞ」

「お、オイ!どうしても作りたくないならこのライオンで勘弁してやる!
 Aランクのオレ様の役に立たせてやるんだ!光栄に思え!」


 それから出るわ出るわオレ様発言。
 聞いている方がしんどくなってきたので、虎次郎が昼寝している映像に変更してお送りしますか。


「オレ様にかかれば弱者のお前の家族なんかすぐにでも蹴散らしてやれるんだからな!」

 プチンッ…
「…今なんつった…!」

「聞こえなかったか?ならもう一度言ってやる。お前の家族なんて」

「俺の家族をどうするって?」
「!!?」

「こう見えても職人戦医やってる身として多少のことは笑って聞き流すか、悪くてもゲンコツ一発までで許すんだけど…」
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
「家族に手を出す奴には…容赦する気はないんでね…!」



 汗ダラダラダラダラダラ…
「い、いや…今回は…やめておこうかな~と…」
「そそそそ、そうそう!アタシらやっぱり鍛冶屋に頼むことにしようかな~って!
 別にアンタを脅して武具を作らせて、依頼料を踏み倒そうとしてないんだからねっ」
「そそそうですっ!ご家族を人質にしてカネめの物まで奪おうだなんて考えてませんよ!」
「どっかの貴族にお前を売り渡そうなんて思ってないぞ!」


「つまりアレか」


 ピシピシ…!

 おっと…俺の魔力で建物が…最悪いいか、直せるし


「お前らは俺達の敵ってことでいいんだな?」
『「ヒィィィィィィィィィ!」』
「どうする?続ける?それとも…死ぬ?」

『「すみませんでしたぁーーーーーー!!」』



 奴らが去ったギルドはすっかり静まりかえり、どんな魔剣よりも鋭い視線が俺を貫いていた。


「ヒィッ!?」
「生ぬるいやり方はバカには響かないからアタシは求めてないって前に言わなかったかい?」
「ギャーーーーー!鬼が出たーーーーーー!」
『キャウン!?』
「虫公で呼び出しといてアタシに驚いてどうすんだよ」
「いやぁ…分かっていても慣れないオーラというかなんというか…」
「この後は暇だろ?ちょいとツラ貸しな、王宮からの重要書類が届いたよ」
『ニャゥ…』


 面識がほとんどないはずの虎次郎がもう、借りてきた猫次郎になってしまってる…
 心なしかサイズ感もおかしくなってないか…?


「これ、王宮から報酬がやっと振り込まれたよ。確認しな」
「いちじゅうひゃくせんまん、じゅうひゃくせん…おく…50億ゴールド!?」
「ブッたまげたろう?アタシでも億の桁より上は見たことないからね」
「ブッたまげたなんてもんじゃないですよ!
 50億ですよ!国家予算じゃないですか!」
「お嬢の件をきっかけに、貴族家や権力者を縛り上げて取り押さえた財産さ。
 王国を破滅から救った報酬と慰謝料ってとこだね。」
「あぁ…セナさんが渡してくれたリストの…」
「アンタを通じて国王に託したあの名簿には当時の学園の生徒や教師の事が逃すことなく書いてあったんだってね、王宮の財務も税金ドロボーの整理が出来てさぞ爽快だろうよ」
「…」


 国王は必死に誠意を結果にしようとしてくれているようだ。

 あの時渡した書物は名簿だけじゃない。
 シルヴィアの記憶、セナさんの記憶、シータさんの記憶、そして、犯人の1人であるギルド職員の記憶をコピー、光属性の幻影魔法で80インチテレビほどに映し出せるようにしておいた。


 通信用の魔法道具を通して団長さんにその時の様子を聞いたが、あまりの情報量の多さに国王陛下わ宰相、司法に関わる役人がみて、9割が吐きそうになったり、頭痛を催したり、気を失ったり、数日寝込んだり…。

 子供にとって地獄絵図とはこのことだと言うほどの惨状であると認められ、速やかに当時の生徒、教員、学園長を隅々まで調べ上げたという。


 さすがに無関係の生徒や陰でコソコソ噂話をしてた程度まで裁こうとしているわけじゃない。シルヴィアに直接狙った奴と、あらぬ事を発信して間接的に陥れた奴らを容赦なく…と言う話だ。

 それでも該当者は3桁に楽々届き、追い越す勢いだった。


「爵位や役職を更迭、屋敷や領地、資産は差し押さえ、その身一つで過酷な環境の島で一生を過ごすことになったとさ。」
「これで少しはシルヴィアの心が晴れてくれるといいんですけどね」
「あの子の心を晴らすのはアンタの仕事だろうに」
「俺…?」
「アタシらもあの子の事を何もせずに放置してたわけじゃない。魔法を初級から学ばせようと何度もトライしたんだよ。それでもあの子の魔力は、いつも窓から見てた天気に関する魔法に適性が強過ぎてまともな練習なんてできずに、アタシらが手を掛けるほどあの子の心は真っ黒い雲に覆われてった。

 学園から逃げ帰ってきて、そこまでたたないくらいだった、アンタがこの街に現れたのさ。

 藁をもすがる思いで飛び込んでみたらどうだ、アンタはあの子を正面から受け止め、あの子を苦しめた魔法を使いこなせるようにし、あの子の生きる意味を照らしてみせた。
 アンタがあの子の太陽になったんだよ」
「俺が…太陽?」
「あの子がどんな真っ黒い雨雲を纏ってもアンタがそれ以上の光で照らして晴らしてくれる、アンタが晴らしてくれるって分かってるからあの子は黒雲を力に変えられる。
 アンタも罪な男だよ、あの子の心に虹を掛けちまうとはね。」
「…、当然です。俺は大切な人のためには王宮に殴り込みに行くような職人戦医ですから。」
「そうだね。リョーは暗号に故郷の言葉を使ってアタシを悩ませる命知らずでもあるしね。」
「どうせもう気付かれてますし、アンジェさんには隠すより背中を預けた方が協力してもらえるでしょ?」
「ああ。この街と出会ってくれてありがとさん、流れ人…神の使者さんよ」



『マスター!大至急、訓練場を確保して下サイ!』
「どしたどした!?急に何」
『説明は後デス!急いで下サイ!』
「リョー、急ぎな。この慌てよう…滅多な事じゃないよ」


 確かに只事とは思えない。
 ギルドマスターと虎次郎…現、猫次郎と共に廊下を駆け抜け、階段を滑るように降り、訓練場を目指す。

 数人が使っていたがギルマス権限を借りて、空けてもらう。




『【リクサン、ドウゾ!】』


 シュンッ!


 転移で招かれたのは黒影の密偵。
 所々、スーツが破れて息を切らしている


「セナさん!…って…え?」


 大勢の女性や子供がボロボロになって固まって震えていた。

 その中に1人…初めてなのによく見た顔がいた。













 その頃…リースが見える山道を走る乗合馬車では

「やっと…やっと帰って来れたよ、兄さん」
「妹に手を出した不埒者…兄であるオレがこの手で潰す!」




 タイミングと縁は大事だとは聞くが、この2つの出会いがあんなことになろうとは…この時の俺を含め誰も予想だに出来なかった。
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