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3章
第24話 取り残された絵師
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逃亡者と追跡者の足音が闇に沈んでいく。私はそれをただただ聞いている事しかできなかった。しばらくすると走る音も消え、聞こえるのは森の木々が燃える音だけとなってしまった。
私はいつの間にか地面に座り込んでいた。国宝級二次元種との戦闘、念願の旗師会との接触、突きつけられた紫苑さんの真実、そして、取り残された事実に頭と心の整理が追いつかない。
紫苑さんが言った、あの言葉を頭の中で反芻する。
『乃蒼! お前は来るな! ……すまん!』
……うん。なんだか、腹が立ってきた!
言い返したい事が山ほどあるが、相手は既に闇の先。私はじっと睨み続けることしかできない。
無言で虚空を睨み続けていると、背後から足音が聞こえた。若草さんだ。紫苑さんのDIGとバインダーを拾い上げ、雷太鼓のイラストを見始めた。そして、静かに呟く。
「ひとまずこれで弁解できるだろう……」
うっかりしていた。私はすぐに立ち上がり若草さんの元へ駆け寄る。そしてすがりつき、懇願する。
「若草さん! お願いですから、紫苑さんに手荒なことは……」
一瞬、鬱陶しそうな顔をした若草さんだったが、すぐに顔を平常時の仏頂面に戻した。
「大丈夫だよ、絵垣君。「排除する」と言ったが、あれはただの脅しだ。彼を傷つけないよう、部下には言っている」
「そうですか……。それなら安心しました……」
そう言いつつ私は紫苑さんの消えた森を見つめる。
しばらくすると、若草さんは放心状態だった私の肩に手を乗せる。
「紫苑のことは我々に任せてくれたまえ。悪いようにはしない。それよりも、今後の話をしよう」
「は、はい……」
若草さんは控えている旗師会の人達に向かって言った。
「αは森の消火活動に移れ! そして――柳! ここに来い!」
5人の白衣姿の人達が一斉に散るように駆け出す。みんなもの凄いスピードだ。その5人が散り散りになると、後ろの木陰から人が現れた。慌てた様子でその者がこちらに駆け寄る。
若草さんたちと同じ白衣を着ている女性だった。茶色の長髪は手入れをしていないのか若干傷んで見えた。他の白衣の人達と比べ、遅くフラフラとこちらに駆け寄る。ようやく私と若草さんの元に辿り着くと、これだけの距離を走っただけで息を荒げている。
その様子に若草さんは苦言を呈する。
「君はもう少し運動した方がいいな」
「はい……すみません……」
白衣の上からでも分かるほど色白で華奢な体型。背は女性にしては高い方だが若草さんより若干低い。整った顔立ちで切れ長な目をしているが、大きなクマができている。
全体的にボロボロだが、それでも綺麗な人だな、と思った。大人の女性! って感じ。
若草さんは私にその女性を紹介する。
「彼女は旗師会日本支部第七班副班長の柳早苗だ。君と同じ絵師であり、今後君の直属の上司になる。柳君、あとは頼んだ」
「はい、若草隊長……」
か細く頼りない声で柳さんは答えた。まだ息が整っておらず、少し間を空け、話し始める。
「初めまして。旗師会日本支部第七班副班長の柳早苗です。班長から紹介されましたが、私も絵師です。あなたの絵については私も見ていました。抽象画を描けるなんて……本当に凄い。旗師会でも珍しい才ね。そもそもあまり絵師がいないのだけれど。実際、ここ第七班には絵師は私しかいません。だから、仲間が増えてうれしいわ。大変かもしれないけど、一緒に頑張りましょう」
「は、はい! よろしくお願いします!」
柳さんから差し出された手をとり、握手する。
若草さんとは違い柔らかい物腰に少しホッとした。
今後、一体どうなるんだろうという不安。しかし、頭の中では紫苑さんとクリムさんを思うばかり。
――だったのだが、この後の展開により、私は完全に忙殺され、2人のことを考える余裕がなくなってしまうのだった。
私はいつの間にか地面に座り込んでいた。国宝級二次元種との戦闘、念願の旗師会との接触、突きつけられた紫苑さんの真実、そして、取り残された事実に頭と心の整理が追いつかない。
紫苑さんが言った、あの言葉を頭の中で反芻する。
『乃蒼! お前は来るな! ……すまん!』
……うん。なんだか、腹が立ってきた!
言い返したい事が山ほどあるが、相手は既に闇の先。私はじっと睨み続けることしかできない。
無言で虚空を睨み続けていると、背後から足音が聞こえた。若草さんだ。紫苑さんのDIGとバインダーを拾い上げ、雷太鼓のイラストを見始めた。そして、静かに呟く。
「ひとまずこれで弁解できるだろう……」
うっかりしていた。私はすぐに立ち上がり若草さんの元へ駆け寄る。そしてすがりつき、懇願する。
「若草さん! お願いですから、紫苑さんに手荒なことは……」
一瞬、鬱陶しそうな顔をした若草さんだったが、すぐに顔を平常時の仏頂面に戻した。
「大丈夫だよ、絵垣君。「排除する」と言ったが、あれはただの脅しだ。彼を傷つけないよう、部下には言っている」
「そうですか……。それなら安心しました……」
そう言いつつ私は紫苑さんの消えた森を見つめる。
しばらくすると、若草さんは放心状態だった私の肩に手を乗せる。
「紫苑のことは我々に任せてくれたまえ。悪いようにはしない。それよりも、今後の話をしよう」
「は、はい……」
若草さんは控えている旗師会の人達に向かって言った。
「αは森の消火活動に移れ! そして――柳! ここに来い!」
5人の白衣姿の人達が一斉に散るように駆け出す。みんなもの凄いスピードだ。その5人が散り散りになると、後ろの木陰から人が現れた。慌てた様子でその者がこちらに駆け寄る。
若草さんたちと同じ白衣を着ている女性だった。茶色の長髪は手入れをしていないのか若干傷んで見えた。他の白衣の人達と比べ、遅くフラフラとこちらに駆け寄る。ようやく私と若草さんの元に辿り着くと、これだけの距離を走っただけで息を荒げている。
その様子に若草さんは苦言を呈する。
「君はもう少し運動した方がいいな」
「はい……すみません……」
白衣の上からでも分かるほど色白で華奢な体型。背は女性にしては高い方だが若草さんより若干低い。整った顔立ちで切れ長な目をしているが、大きなクマができている。
全体的にボロボロだが、それでも綺麗な人だな、と思った。大人の女性! って感じ。
若草さんは私にその女性を紹介する。
「彼女は旗師会日本支部第七班副班長の柳早苗だ。君と同じ絵師であり、今後君の直属の上司になる。柳君、あとは頼んだ」
「はい、若草隊長……」
か細く頼りない声で柳さんは答えた。まだ息が整っておらず、少し間を空け、話し始める。
「初めまして。旗師会日本支部第七班副班長の柳早苗です。班長から紹介されましたが、私も絵師です。あなたの絵については私も見ていました。抽象画を描けるなんて……本当に凄い。旗師会でも珍しい才ね。そもそもあまり絵師がいないのだけれど。実際、ここ第七班には絵師は私しかいません。だから、仲間が増えてうれしいわ。大変かもしれないけど、一緒に頑張りましょう」
「は、はい! よろしくお願いします!」
柳さんから差し出された手をとり、握手する。
若草さんとは違い柔らかい物腰に少しホッとした。
今後、一体どうなるんだろうという不安。しかし、頭の中では紫苑さんとクリムさんを思うばかり。
――だったのだが、この後の展開により、私は完全に忙殺され、2人のことを考える余裕がなくなってしまうのだった。
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