二次元の反乱

梅枝

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4章

第32話 波瀾再び

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 俺に殴られ、数分気絶していた2人が目を覚ますと、やはり2人は同時に俺に罵詈雑言を浴びせた。狭い洞穴の中3人で騒ぎ立て、各々が声を枯らし始めたところで喧嘩は終わった。

「そういえば返すものがあったんでした」

 乃蒼が掠れた声でそう言うと、洞穴の外に出た。すぐに戻ってきたが、あの大きなリュックをズリズリと地面や天井に擦りつけている。なんとか俺やクリムがいる空間に押し込むと、リュックから何かを取り出した。

「どうぞ、紫苑さん。お返しします」

 そう言って手渡されたものを確認する。それは俺が旗師会から逃げる際に投げ捨てたバインダーだった。

「あいつらから盗んできたのか! よくやったな!」

 そう褒めたが、乃蒼は首を横に降る。

「いや、違うんです。出る時に渡されたんです。……その、信じてもらえないかもしれませんが、旗師会にも良い人はいるんです。柳さんって人なんですが――」

 俺とクリムは乃蒼から旗師会の絵師である柳という人物について話を聞いた。

「そうか、旗師会の絵師も大変だな。絵師と蒐集家の比率がエグい。ま、考えてみりゃそうか。蒐集家なんて戦える素人をかき集めればいいだけだが、絵師は絵心がある人間にしか務まらないからな」

「紫苑! そいつが可哀想だぜ! 乃蒼もバインダーも返してくれる良い奴だし、オレ達の仲間に引き込まねぇか?」

 と、鼻息荒くするクリム。乃蒼も期待を込めた目でこちらを見つめるが、

「今以上に旗師会から恨みを買いたくねぇよ。(既に抹殺対象だからこれ以上恨まれても変わりはないだろうが)それに、その柳って人はあくまで乃蒼の味方をしただけだ。ニ・五次元種ニ次元種クリムの味方になるとは限らない。第一、もし旗師会を抜けたいなら、乃蒼と一緒に抜けてる筈だ。抜けてないってことは……その人は現状で満足してるんだよ」

 と、否定した。

 2人は残念そうにしていたが、納得してくれたようだ。それより――

「柳って人のことは分かった。だが、旗師会の奴らについて、もっと色々知りたい。今後も狙われるだろうし、弱みがあるなら抑えておきたいところだ。乃蒼、どんな些細なことでもいいから、奴らについて――」

 と、言いかけた時、グーという唸り声のようなものが洞穴に響いた。乃蒼が照れながら笑う。

「すみません、お腹が空いちゃいました! そういえば、今日ほとんど食べてないんですよねー」

 そう言いながら腹を擦る。食い意地の張ったあの乃蒼が食事を忘れてまで俺を探していたのか。食事を用意したいが、あいにく手持ちが――いや、もしかしたら……?

 返してもらったバインダーを開く。すると、思わず笑みがこぼれた。

「てっきり没収されてるかと思ったが……本当にその柳って人には感謝しなきゃな」

 バインダーの絵に手を突っ込み、あるものを具現化。

「あ! それは! 紫苑さんのリュック!?」

「流石に雷神の雷太鼓は無くなってるが、旅の道具はそのままらしい。っつーことは、このリュックの中も……良し、食料もある!」

 俺は具現化したリュックから野菜、肉、魚、あらゆる食材を取り出した。乃蒼はそれをキラキラした目で見つめる。そしてすぐに俺の方へ視線を移す。その期待の眼差しに、今回ばかりは応えよう。

「コンビの再結成、もといトリオの再結成を祝して派手にパーッとやるか」

 そう言うと乃蒼とクリムはハイタッチして喜んだ。

「「イェーイ!!」」

 あまりの喜びように全部食べられてしまうのではないかと、若干後悔する。一応、提言する。

「俺も怪我は治ったが、失った血までは戻ってないみたいだからな。もう少し滋養になるもんを食わなきゃないけないんでね。今回だけだぞ」

「ぃやったー! 分かりました! じゃあ、私が肉担当になるので、紫苑さんは野菜担当で!」

「そんな理不尽な担当あるか! 血が足りないっつってんだろ! 俺も肉を食うぞ」

 その発言に乃蒼が山猫のようにシャーッ威嚇してきた。今にも飛びかかってきそうだ。

 また、傍観者かと思われていたクリムが指を咥えながら言う。

「オレは食わなくても平気だが、せっかく元の姿に戻ったんだ。こっちの世界の食い物も堪能してみたいと思ってたんだ~」

「「なっ――!?」」

 ニ等分かと思われていたのが、まさかの三等分になりそうだ。かつてない緊張感が洞穴の中に張り詰める。早くもトリオ解散の危機を感じた。とりあえず、食料問題がこのトリオの最重要課題らしい。

◇◆◇◆

 なんやかんやあって、3人仲良く(?)狭い洞穴の中で肩を寄せ合いながら食事をした。食事中、乃蒼が袖の下に食材を隠し込んだり、クリムが自分の取皿と俺の取皿を一瞬で取り替える等、いかさまが頻発した。ヒリついた空気と欺瞞に満ちた会話が続いたが、なんとか全員満腹で食事は終わった。

 そんなギスギスした空気ではあったが、乃蒼から旗師会についての情報は聞き取れた。旗師会の思想、抽象画についての解釈、そして若草という男の性格について概ね理解できた。たしかに俺や乃蒼とは絵に対する思いが真逆の組織のようだ。いや、しかしそれが正常なのだろう。絵が好きである俺と乃蒼の考えの方が世の中的には異端なのだ。

「今更ですが、柳さんや脇谷さんが怒られてないか心配です……」

 食後に飲んでいたお茶を見つめながら、乃蒼がポツリと言った。

「俺達にバインダーも返してしまったしな。ま、上手く言い訳してくれることを願うだけだな。貴重な絵師だから、クビになることもないだろう。……ところで、何で脇谷が?」

「あ、そっか。そこまで話してなかったですね。そもそも紫苑の所に戻らなきゃって思ったのが、脇谷さんが原因なんです」

 続けて乃蒼は脇谷との会話を語る。

「――ってな訳で、「紫苑さんが重症で山の中を逃げ回ってる」と教えてもらったんです。もし、私が抜ける原因を問い詰められたら、脇谷さんも怒られるんじゃないかなぁ、と」

「なるほど。ま、あいつは抜け目ないところもあるし、上手く誤魔化すだろう」

 と、言いつつも少し気がかりなことがある。別に、奴が旗師会から責められるかどうかではなく――まぁ、いいか。もう関係のないことだ。

「とにかく、俺達が気にしなきゃいけないのは、俺達自身の安全だ。乃蒼も脱走したとなれば、血眼になって探すだろうな。すぐにこの山から降りたいが――俺もまだ本調子じゃないし、乃蒼も疲れてるだろう。今日は一旦休んで、明日の朝にこの山を降りよう」

 そう言うと乃蒼はどこか迷いがある様子だったが首を縦に降る。まだ少し柳や脇谷のことを気にしているのだろう。クリムも少し何かを考えている様子だったが頷いた。

「オレが2人を担いでも良いかと思ったが――もしも旗師会の見張りやに遭遇したらマズいもんな」

 一瞬ギクリとした。すっかり頭から離れていたが、風神がまだ近くにいるのかもしれない。雷神が蒐集されたのを知れば、奴も犯人を探して回るに違いない。

「たしかに風神への警戒も必要だな。だからこそ逃げる時に全力を出せるようにしたい。とにかく今は休もう。――と、言いたいところだが、休むにはこの洞穴は狭すぎるな……」

 3人座りながらなんとか食事はできたが、寝るために横になるには面積が足りない。もうすっかり陽も落ちているようだ。今からテントを張るのも一苦労だ。

「良いじゃないですか! トリオ仲良く「川」の字で寝ましょうよ!」

「いや、どう見ても無理だろ。頑張っても「アスタリスク」の字でしか寝れねぇよ」

「良いじゃないですか! 3人仲良く重なれば!」

 「重なれば」? てっきり、左右の人が「く」の字で寝て、真ん中の人だけ真っ直ぐの姿勢で寝るかと思っていたが、3人重なれってか。一番下の人が死ぬだろ、それ。

「お前、どうせ俺が一番下になればいいと思ってんだろ……」

「美女2人に圧死されるなら、本望でしょうに!」

「そうだな、美女だったらな。あいにく、ここには芋い女しかいないからな……。つーか、一番タッパのあるクリムが下になるべきだろ。その上に俺、乃蒼の順が妥当だろ」

 すると、わざとらしくクリムが頬を染めた。

「オレの上に跨がりたいなんて……恥ずかしいわ。ポッ」

「女の子2人と重なって寝たいなんて、流石に欲望に忠実すぎません? 紫苑さん、調子こきすぎでは?」 

「なんだァ? てめェら……」

 侮蔑の眼差しを向けられ、キレそう。そもそも重なることを提案したのは乃蒼だろうが。

 数分ぶり2度目のギスギスした空気。このトリオ、大丈夫だろうかと心配になる。

 ――で、協議の結果、クリムを真ん中にして俺と乃蒼はその左右で「く」の字で寝ることになった。

「それでばお二人共、おやすみなさZzz」

「はやっ。「Zzz」つって寝る奴いるんだな……」

 速攻で眠った様子の乃蒼にそう言うが、どうやら本当に眠ったらしい。返事がなく小さく「Zzz」と言っている。よほど疲労が溜まっていたのだろう。俺も本調子ではない。早く寝て体力を戻さねば。体を折り曲げて少々寝にくいが、我慢するしかない。

「なぁ、紫苑。今更だが、オレを紙の中に戻せば二人共もう少しまともな姿勢で寝れるんじゃね?」

 身じろぐ俺を察したのか、クリムがそう言った。が、俺は小さくため息をこぼす。

「まぁ、たしかにそうだな。だが……うまく説明できないが、それはちょっと違う気がする。よく分からんが、今は本当の姿のお前と一緒に居たい気がする。……たぶん乃蒼も同じこと言うぞ」

 言ってすぐに気恥ずかしくなってしまった。背を向けて寝ているから顔を見られなくて助かった。さっさと寝てしまおう。

 しかしクリムは小さく笑らう。

「そっか、へへ。悪ぃな野暮なこと聞いちまったぜ。……ありがとうな、トリオって言ってもらえてスゲー嬉しかったんだ。オレが二次元種でいる限り、こっちの世界の人間には受け入れられないと思ってた。自分では気づいてなかったが、オレも寂しかったんだろうなぁ。そういうのも含めて、さっきは泣いちまったんだと思う」

 クリムはおどけた調子で話す。だが、顔は見えないが、たぶんまた少し泣いてるような気がした。

 普段なら茶化してやるところだか、俺の口から出た言葉はいつもと違った。

「よくよく考えれば、お前には助けられてばっかりだったのに、俺は自分のことしか考えてなかった。だから、その……今まで悪かった、謝る」

「全くだぜ、何年閉じ込められてたことか。ガハハハ」とクリムは笑う。下品な笑い声が俺の心にザクザクと突き刺さる。しかしクリムは快活な調子で続ける。

「ま、こんな世の中だ、しょうがねぇさ。これからは快適な三次元ライフを共に生きようぜ、相棒。……ほれ、さっさと寝な。明日からまた大変だぜ」

 まだケラケラと笑うクリムから逃げるように、俺は寝ることに集中する。寝ねばと思うほど寝にくくなるのは定石だが、今の俺の体はそんなことより休息を求めているらしい。クリムの含み笑いを聞きながら微睡む。

 どうやら俺の旅の目的は果たせたようだ。「一人ぼっちは嫌
だ」という旅の目的。紆余曲折あり、喧々囂々たる者達だが、陰気で口下手な俺にはちょうど良いのかもしれない。あとは、コイツらと共にこの山を抜けるだけ。それから後のことを考えると、久しぶりに、本当に久しぶりにワクワクした。

じっとりとした空気、足も伸ばせぬ窮屈な場所。寝場所としては最悪の環境だ。だが、ここ最近の――いや、ここ数年のうちで最も安らいだ寝落ち。心にぽっかり空いた隙間が今のこの洞穴の中のようにぎゅうぎゅうと詰まってるみたいだ。

◇◆◇◆

 不意に目が覚めた。辺りはまだ真っ暗。洞穴の中は四六時中暗いが、入口から指す陽の光で朝か夜かくらいは分かる。入口からは全く光が無い。底冷えする空気から察するに、明方前なのだろう。

「お、紫苑も起きたのか」

 頭を持ち上げたので、起きたのがクリムにバレてしまったらしい。「あぁ、ちょっとな」と折り畳んだ体を伸ばせる範囲で伸ばす。やはり「く」の字で寝ていたせいか、体が少し軋む。しかし、「回復」の抽象画のおかげで治った背中には全くの違和感も無い。一昨日から目覚める度に苦痛に襲われていたのが嘘のようだ。乃蒼には本当に感謝せねば。と、そこであることに気がついた。

「あれ、乃蒼は?」

 狭い洞穴を見渡すが、乃蒼の姿が見当たらない。トイレだろうか?

「乃蒼もちょっと前に急に起きて、「お花摘みにオシッコ行ってきます」って言って出ていったぜ」

「隠語の意味分かってんのかよ、アイツ……。てか、クリムはちゃんと寝れたか? そもそもお前――」

「あぁ、寝なくても平気みたいだ。ほんと、二次元種の体っつーのは不思議だぜ。元の世界にいたときには、もちろん睡眠は必要だったが、こっちの世界だと不要らしい。飯の時も言ったが、食事もとらなくても問題ないしな」

 通りで俺が起きたのをすぐに気づいたわけだ。しかし、それだと常に起きた状態ということだ。精神的に大丈夫なのだろうかと心配になる。

「まぁ長い間、紙の中で眠ってたわけだし、その分起きてなきゃ釣り合わねーぜ。ガハハハ」

 快活に笑うクリム。俺の心配を汲んだのか、それとも本心からそう言っているのか分からない。しかし、今のところ精神的にも問題はなさそうだと少し安心した。

 別に乃蒼の帰りを待つ義理はないが、なんとなく起き続けてしまった。クリムと他愛のない会話を続けること――30分ほど経過したときに、ようやく違和感に気づいた。

「乃蒼、遅くないか? どこまでトイレしに行ったんだ?」

「バカ野郎、デリカシーがないなぁ。よくあるだろ、お花摘み行ったつもりでも、やっぱり大木を切りたくなることがよ。つまりはウンコだ」

「デリカシーないのはお前だろ……。いや、それにしても遅すぎる。クリム、さっき俺が起きる「ちょっと前」に乃蒼がトイレに出ていったって言ったよな? どれくらい前だ?」

 ふむ、とクリムが考え、ポツリと答えた。

「30分から1時間くらい前、かな。あれ、もしかして、これ……」

 ようやくことの重大さに気づいたらしく、クリムの声が震えている。俺も血の気が引くのを感じながらすぐさま体を起こす。

「急げ! なんだか嫌な予感がする……!」

 クリムも起き上がり、2人で慌てて洞穴を出た。

 辺りはやはりまだ暗く、吐く息も白い。じっと目を凝らして辺りを見渡す。ここ数日、暗い所にいたおかげか、目が幾分か暗闇になれている。辺りを見回し、耳を澄ます。

 今日は少し風が強いようだ。風の吹く音だけ聞こえ、他には何も捉えられない。仕方がない、音や声はなるべく抑えるようにしたかったが、そうも言ってられない状況だ。叫ぶとまではいかないが、周囲に聞こえる程度の声量に絞って呼びかける。

「乃蒼ー! どこにいるー?」

 しかし、返事はない。風が吹き、草木が凪ぐ音だけが聞こえる。クリムは目に見えて慌てふためき、珍しくも情けない声で言う。

「あ、あわわわわ。す、すまん、紫苑。時間の感覚がぶっ壊れてて全然気づかなかった……オレのせい……だよな!?」

「まだ分からん。とにかく辺りを探すぞ。あいつのことだ、もしかしたらその場で寝てるかもしれない」

 クリムはぶんぶんと首を縦に降り、すぐに雑木林の中へと入っていった。俺はクリムとは反対の方へ駆け足で向かう。

 探し始めて10分程度経った頃。クリムが俺を呼ぶ声がした。声がする方へ向かうと、倒木の近くにクリムが屈んで何かを見ていた。クリムの後ろに立つとソレが目に入った。

「……! 乃蒼の帽子!」

 帽子だけがその場に残っているということは乃蒼自身が急いでいたのか、もしくは何か荒事があったのだろう。冷汗を感じながら、周囲の地面を探る。しかし、クリムがすぐに回答をくれた。

「血や獣の毛も無いってことは、動物に襲われた訳でもないみたいだ。乃蒼が慌ててこの場を去った――と思ったが、ここだげ妙に雑草が踏み荒らされてる。乃蒼以外にもう1人居たらしい」

 まさか――。俺とクリムはキッと山頂の方へと視線を向ける。その先にあるのは旗師会が拠点としている洞穴。

 そして互いに見合い、頷く。

「まさか紫苑。この期に及んで「やっぱり乃蒼が旗師会に帰っちゃったのか!?」なんて言わねぇだろうな?」

 真剣な顔で冗談めいた口調でクリムは煽った。俺は鼻で笑う。

「当たり前だ。あいつはもう俺達の仲間だ。この状況から察するに――」

 「攫われた」。言わなくてもクリムもその推測に行きついているだろう。攫ったということは、ひとまず死んではいないだろうと少し安心した。しかし、あまり悠長に構えてはいられない。

 すぐに行動に移った。俺とクリムは山頂に向け走り始める。

「紫苑、一応聞いておくけど、もう戦えそうか?」

 俺は首や腕を回し、体の具合を確認。特に違和感もなく、万全のようだ。

「問題なさそう。……狸の肉って強精効果でもあるのか? ヤル気が凄いんだが?」

 「あらやだ、なんかエッチ……」とわざとらしく驚くクリムに「うるせ」と返す。それを合図にしたかのように、俺とクリムは駆けるスピードを上げる。

 走り、自ら風を切っていたせいで気づくのに遅れたが、少しずつ風の勢いが増しているようだ。草木がしなり、空の雲も流れていく。そして、山の頂には暗雲が立ち込めていた。

 旗師会の野営地に着いた頃には辺りはまだ暗く、遠く東のの山もまだ陽の光は見えない。不気味なほどの静けさの中、俺とクリムは茂みの中にいた。洞窟周辺を警戒するが人の気配は一切しない。

「罠か? 洞窟内で待ち伏せしてんのか?」

「かもな。だが、頭数で有利な奴らがわざわざ狭い所で戦うように仕向けるのもおかしな話だ」

 熟考していても埒が明かない。強行突破を考えた、その時だった。

 遥か上空に光が走ったかと思うと、ドンっという衝撃音が山中に響いた。その腹の底に響く重低音はつい最近聞いたばかりだった。

「これは……雷神の雷太鼓!」

ハッと山頂を見るといつの間にか黒い雷雲が立ち込めていた。更に気づいたのは、今の雷鳴と同時に風が強く吹き荒れた。どうやら山頂部からの風らしい。

 こうして山頂を見ている間にも更に雷が一つ二つ光り、風がとぐろを巻いて暴れていた。

「この風、風神か!? でも、雷って――あっ!」

 クリムも言いながら気づいたらしい。俺は頷く。

「だろうな。風神と俺から雷太鼓を盗んだ旗師会がヤリ合ってるみたいだ」

 なんというタイミングか。まさか風神が乱入してくるとは。――だが、これは好機だ。クリムもそう感じたらしく、隣でニヤリと笑っている。互いに目を合わせ、頷く。

「騒ぎに乗じて乃蒼だけ奪って逃げるぞ!」

「風神も旗師会も、まとめてぶっ潰す!」

 一瞬の間が空き、クリムと見合い、毒づき合った。

「この……戦闘狂め! わざわざ戦う必要ないだろ! 風神と旗師会が争ってる内に俺達は逃げりゃいいんだよ!」

「この……ヘタレめ! せっかく3勢力揃ってんだ、ここで決着つけりゃいいだろ!」

 互いに睨み合うが、その間にも雷鳴は轟き、暴風は吹き荒れる。こんなことをしている場合ではない。

 やはり互いに舌打ちし、目標の場所へと足を向ける。 最重要事項だけクリムに確認する。

「とにかく! 一番大事なことはわかってんだろうな!?」

「乃蒼の救出! わかってらぁ!」

 どうやらそれだけは理解しているようだ。作戦も手順も話し合ってる暇はない。いざ、山頂部へ――。

 と、思った俺の脳裏に「何か」が引っかかった。走り始めようとするクリムの肩を掴み、止める。振り返ったクリムが不思議そうな顔をした。

「どした?」

「いや、ちょっと……」

 上手く言葉に表せられない不可解な「何か」の正体を探る。いつもの考えすぎで済めば良いが、何かが引っかかる。

 チラリと洞窟の方に目を向けて言った。

「ちょっと、あの中で確認したいことがある」
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